テキサス州 バイオ燃料基準適用免除を要請 それでも飼料価格は下がらないという研究も 

農業情報研究所(WAPIC)

08.4.30

 米国・テキサス州が連邦政府に対し、2007年エネルギー法[エネルギー独立・安全保障法]が定める再生可能燃料基準の適用の免除を求めることを考えている。この基準は、2022年までの各年、一定量の再生可能燃料を販売するために、ガソリンにエタノール等をブレンドすることを義務づけている。この基準に従うと、今年末までには90億ガロンのバイオ燃料を販売せねばならない。この義務的販売量は年々増え、2022年には360億ガロンとなる。

 しかし、このバイオ燃料は、当面、大部分がトウモロコシを原料とするバイオエタノールとなる。不可欠な家畜飼料として使われてきたトウモロコシのバイオ燃料原料としての利用は、飼料価格の上昇につながる恐れがある。テキサス州は牛肉の主要生産州だ。家畜飼料用トウモロコシの価格上昇は州経済の重荷になると、州は連邦基準の適用免除を求めるという。ただ、このような免除の法的根拠ははっきりしない。エタノール生産者は、エタノール蒸留の副産物が牛の飼料として利用できるから、バイオエタノールが牛肉価格を吊り上げることはないと反論している。免除は簡単には実現しそうもない。

 Texas Gov Mulls Seeking Waiver From US Renewable Fuel Rule,Cattle Network,4.24
 http://www.cattlenetwork.com/Beef_Cattle_Hot_Topics_Content.asp?ContentID=216460

 全米トウモロコシ生産者協会(NCGA) も、早速反対の声をあげた。

 Ehanol News: NCGA Strongly Opposes Texas Governor’s RFS Waiver Request,Cattle Network,4.26
 http://www.cattlenetwork.com/Beef_Cattle_Hot_Topics_Content.asp?contentid=216863

 こんな要求が通れば、全米のドライバーの燃料価格が急上昇する、また基準免除で飼料コストが下がることもありそうにないと言う。NCGAは、「エタノール生産の成長は、それがない場合に比べ、ガソリン価格を1ガロン当たり0.29ドルから0.40ドル引き下げた」とするアイオワ州立大学農業農村開発センターの最新の研究*を引き合いに出す。

 *http://www.card.iastate.edu/publications/DBS/PDFFiles/08wp467.pdf

 また、トウモロコシに対する世界の記録的需要を考えれば、基準免除は飼料用穀物価格にほとんど、あるいはまったく影響を与えないだろう、商品先物市場への投機的投資、記録的な米国穀物輸出需要、米国と世界の飼料需要の増加、アジアやオーストラリアにおける予想を下回る穀物収穫、現在の穀物価格を見るときには、とりわけこれらの要因も考えねばならないと言う。そして、これについも、テキサス州が委嘱したテキサスA&M大学農業食料政策センター(AFPC)の”テキサスの食品と飼料へのエタノールの影響”に関する最近の研究結果**を引き合いに出す。

 **http://www.ncga.com/ethanol/pdfs/2008/Effects%20of%20Ethanol%20on%20Texas%20Food%20and%20Feed%204-11-08%20TAMU.pdf

 この研究によると、経済全体と農業の変化を引っ張る基本的要因は、1バレル100ドルの原油価格が証左となるエネルギーコストの全体的上昇であり、エネルギーコストの上昇でトウモロコシその他の商品の価格上昇が不可避になる。肥料コスト上昇は、2006/07年穀物年度におけるトウモロコシ作付面積の300万エーカー(120 万f)の減少につながった。生産コスト上昇は、作付面積に圧力をかけ続ける。

 この研究は、トウモロコシ価格は食料価格上昇とほとんど無関係という仮説も支持する。パン、卵、牛乳などの重要食品の価格上昇の大部分はエタノールやトウモロコシと無関係で、むしろ世界の基本的需給関係を反映したものである。商品先物市場における投機ファンドの活動も、市場に投入されるマネーの増加と価格変動幅の拡大につながっている。収量変動によるトウモロコシ価格上昇の可能性もある。2008年のトウモロコシ作付面積の減少は天候リスクを高める。僅かな収量変動が価格上昇につながる。

 家畜産業は、トウモロコシ価格上昇によるコスト上昇を価格に転嫁できていない。トウモロコシやソルガムの価格上昇は、それらの生産者に利益をもたらしているが、テキサスでは家畜産業の方が大きいから、その州経済への純影響はマイナスとなる。

 しかし、再生可能燃料基準を緩めても、トウモロコシ価格が大きく下がることはない。エタノールのインフラストラクチャーが既に出来上がっているためである。エタノール産業は基準を超えて成長してきた。そのことが、基準を緩めても産業の縮小につながらないことを示している。 


 バイオ燃料は、いまや食料価格高騰のスケープゴートのごとき扱いを受けている。しかし、この研究が言うように、価格高騰の最大の元凶は、エネルギーコストの急上昇だ。バイオ燃料の導入もその結果である。

 バイオ燃料産業拡大がもたらす最大の問題は、世界中の400人以上の科学者や専門家が成し遂げた「開発のための農業科学・技術国際アセスメント」(IAASTD)が、安価な石油依存、生態系への悪影響、水の消尽のなどの故に持続不能と断じた工業的な大規模農業、モノカルチャーを促進することにある。

 http://www.agassessment.org/docs/Global_SDM_210408_FINAL.pdf

 バイオ燃料の食料価格への影響ばかりに気を取られていると、食料価格高騰の抑制を口実とする持続不能な農業のさらなる拡大に加担することにさえなりかねない。