バイオエネルギー 地球の持続可能な最大生産能力は世界エネルギー消費の5%

農業情報研究所(WAPIC)

08.6.15

 「主要8カ国(G8)科学技術相会合が15日、沖縄県名護市で開かれ、地球温暖化防止のための低炭素社会の実現に向けて「すべての代替エネルギーで国際協働を進めることが有効」などとした議長総括をまとめた。食料を原料にしない次世代バイオ燃料の開発を優先すべきだとの認識でも一致した。

 ・・・・・・成果は7月の洞爺湖サミットに反映させる」そうである(日本経済新聞 08年6月16日 第3面[経済] またはWenページ:G8科技相会合、食料使わないバイオ燃料の開発優先)。

 ところで、食料を原料としないバイオ燃料、あるいは食料と”競合しない”バイオ燃料なるものは、そもそも”低炭素社会”の実現に向けてどれほど貢献できるのだろうか。誰も確かな答えは出していない。一つの目安を提供するのは、スタンフォード大学内に設置されたカーネギー財団生態環境部のクリストファー・フィールド部長率いる研究チームがTrends in Ecology and Evolution誌の今年2月号に発表した研究である*

 彼らによると、世界の作物地に毎年固定される炭素の総量は70億トンほどで、化石燃料から排出される77億トンよりも少ない。従って、「化石燃料システムの意味あるほどに大きな部分[substantial part]をバイオマスに基づくシステムに置き換える[つまり、バイオマス利用によって低炭素社会を実現する]のは大変な難題であることが示唆される。

 彼らは、世界のエネルギー需要を持続可能な仕方で満たしながら、他方では地球温暖化を抑制するために、バイオマスがどれほど貢献できるかを推定する。そのために、純温暖化効果を減らし、かつ食料との競合を回避するバイオエネルギーを生産する最大の能力を持つ土地を、以前は作物用地・放牧地として利用されていたが今は放棄され、森林にも都市用地にも転換されていない土地と定義、これらの土地からのバイオエネルギー最大生産能力を歴史的データ、衛星画像と生産性モデルを使って計算した。

 それによると、このような土地の面積は世界全体で150万平方マイル(3億7500万f)ほどある。これらの土地で育てられるエネルギー作物は、毎年、石油1億7200万バレルに相当する27エクサジュール(1エクサジュール=1018ジュール)という巨大な量のエネルギーを生産することができると推定される。ところが、それでもこの生産量は、05年に483エクサジュールであった人間による世界一次エネルギー消費の5%にしかならない。

 従って、バイオエネルギーはエネルギー自給率の引き上げ、農業経済の支持、気候変動の緩和に一定の役割を演じるであろうが、大規模な展開は食料安全保障を脅かし、気候変動を増幅させるというのが結論だ。

 *Christopher B. Field, J. Elliott Campbell and David B. Lobell,Biomass energy: the scale of the potential resource,Trends in Ecology and Evolution,23-2,February 2008,pp65-72.
    http://www.sciencedirect.com/science/journal/01695347
Volume 23, Issue 2→Opinion:8

  日本が主張する藁、木屑などからのエネルギー生産がそれよりはるかに少ないことは確かだろう。化学肥料が枯渇に向かうなか、農業・食料生産の持続のために、これらを土地に戻すことこそ最優先せねばならない。化学肥料価格が暴騰するなか、既に世界中で有機肥料の見直しが始まっている。バイオ燃料狂信者には、この動きも見えないのだろう。