中国研究者 草原料バイオ燃料の熟考を 気候もエネルギー 危機も救わない

農業情報研究所(WAPIC)

08.9.10

 ススキ、ミスカンサスなどの草本(エネルギー ・グラス)を原料とするバイオ燃料―エタノール―が、食料と競合しないとしてもてはやされている。さらに、気候変動とエネルギー危機から人類を救い出すかのように期待されている。あるいは、そう思われ、喧伝されている。このような風潮に正面から異論を唱える学者・研究者はいない。マスコミも何の疑問も呈さない。筆者がたびたび表明してきた草本エタノールも含むセルロース系エタノールなど第二世代バイオ燃料に対する疑念(例えば、「バイオ燃料は”持続可能”か」、『科学』 08年5月号)にも、何の反応もない。

 ところが、思わぬところから警鐘が鳴り響いた。中国科学院植物学研究所の高明博士が最近、「エネルギー ・グラスは気候とエネルギー の危機から世界を救い出すことはできない」と、その開発・利用の熟考を要請している。

 Jiang Gaomin,Rush of energy,chinadiailogue(中外対話),9.3
 http://www.chinadialogue.net/article/show/single/en/2362-Rush-of-energy

 彼によると、バイオマス・エネルギーとは人類が使用した最初の燃料であり、実際には炭水化物として草木に集められ・貯蔵された太陽エネルギー にほかならない。広い意味では、バイオマスには植物・動物・微生物、そして早期の地質年代のバイオマスから形成された石炭、石油、天然ガスも含まれる。しかし、今では、バイオマス・エネルギーとは植物油、藁、木材チップ、樹皮、枝、藻のこととされている。

 50万種類の植物が光合成を通して太陽エネルギー を蓄積している。しかし、実際のエネルギー 源となるためには、生長が速く、収穫と輸送が容易で、大きな葉面積で効率的に光合成が行われねばならない。光合成の経路には植物の種類により異なるC3C4 CAM の三つがあるが、最も効率的なのはサトウキビ、トウモロコシ、ソルガムなどに見られるC4 である。

 世界最大の自然のバイオマス生産者は熱帯雨林であり、毎年・1fあたり35トンのバイオマスを生産する。しかし、肥料や水を与えた高密度栽培のような人工的条件では、収量はそれ以上になる。例えば、山東農業大学は、1f当たり66トンの年収量のトウモロコシと小麦を作り出した。どんなエネルギー ・グラスも、C4光合成経路を利用する必要があり、また速く・稠密に生長するためには大量の肥料と水を必要とするだろう。

 メディアの報告のよると。福建農林業大学のエネルギー ・グラス作物は有益なバクテリアと共存するように処理され、3トンから4トンの石炭に相当する電気を生み出すに十分な1f当たり105トンの収穫をもたらした。恐らく、C4経路を使い、栄養分吸収を改善するバクテリアを植えつけたものだろう。しかし、栄養分吸収の増加は光合成効率に違いをもたらすものではない。大量の肥料と機械なしでは、このような収量は実現できない。肥料やその他の仕事に必要なエネルギーの投入は、化石燃料に代替するという最初の目的を相殺してしまうだろう。

 農作物と異なり、エネルギー ・グラスは生長が速く、繰り返し収穫でき、他の作物にとっては非生産的な土地でも栽培できる(これは耕地の食料作物と競合しないことを意味する)。しかし、農作物から生産される藁と同様の欠点もある。資源は地理的に点在し、収穫コストが高い。輸送インフラ、電気、水、肥料、機械なしでは、非生産的な土地での大量の収穫は実現が難しい。さらに、”非生産的な土地”は、実際には自然の植物の本拠であり、生物多様性にとって重要だ。中国のエコシステムは、既に大規模な退化に直面しており、環境を経済的利益の犠牲にすることはできない。

 中国農業大学の専門家は、マーケッティングのための誇張された主張というよりは科学的な仕方でエネルギー ・グラスの候補を数え上げた。それには、特に乾燥や塩化に耐え、非生産的な土地や山岳地域でも育つスィートソルガム、ヤナギ、ミスカンサスなどの背丈の高い1年生、2年生、多年生の草や潅木が含まれる。これに着想を得て、北京市政府は昌平と大興の2地区でエタノール生産プランテーションを立ち上げる。

 たとえそうであっても、乾燥・半乾燥地域での成果は環境要因により制約され、専門家の期待に応えることはありそうもない。

 グラス作物は、ある程度はエネルギー 危機を和らげるかもしれないが、一層の精査が必要だ。大規模栽培は、特に利益が優先されるときには、食料作物と競合することにもなり得る。これは食料安全保障に重大な影響を及ぼす恐れがある。