欧州議会 EUの輸送用バイオ燃料利用目標切り下げ 持続可能性基準も強化へ

農業情報研究所(WAPIC)

08.9.12

 EUの政策決定の一翼を担う欧州議会の産業委員会が9月11日、再生可能資源からのエネルギー の利用促進に関する欧州委員会指令案*(08年1月23日)に大きな修正を迫る提案を採択した。

 Renewables should make up 5% of road transport fuels by 2015,European Parliament,9.11
 http://www.europarl.europa.eu/news/expert/infopress_page/064-36659-254-09-37-911-20080909IPR36658-10-09-2008-2008-false/default_en.htm

 * http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=COM:2008:0019:FIN:EN:PDF

 欧州委員会指令案は、2020年におけるエネルギー最終消費の20%を再生可能資源からのエネルギー とし、また輸送用エネルギー最終消費の少なくも10%を再生可能資源からのエネルギー とするという目標の達成をEU諸国に義務付けるものである。

 欧州議会委員会が採択した修正案は、2020年のエネルギー最終消費の20%を再生可能資源からのエネルギーとするよいう目標は変えていない。輸送用エネルギー最終消費の少なくも10%を再生可能資源からのエネルギー とするという目標も支持する。

 第一世代バイオ燃料の2020年利用目標を6%に切り下げ

 しかし、この10%の内の40%(つまり、すべての輸送用燃料の4%)は、”第二世代バイオ燃料”、電気、あるいは水素に由来するものでなければならないとする。

 いままでは、一般的には、10%の再生可能エネルギーとはバイオ燃料のことであり、その大部分は穀物やその他の食料資源を原料とする”第一世代バイオ燃料”であると受け止められてきた。欧州議会委員会案は、この目標を、事実上6%にまで引き下げたことになる。その上、10%という全体的目標自体も、2014年までに見直すとした。

 このような修正提案に当たり、欧州議会委員会は、指令案の目標が食料安全保障や生物多様性にもたらす影響や、再生可能資源からの電気や水素・バイオガス・リグノセルロース質バイオマスや藻からの輸送用燃料の利用可能性を重視したという。

 持続可能性基準の厳格化

 議会委員会案は、バイオ燃料の持続可能性基準の修正も提案している。欧州委員会案では、目標を満たすべき輸送用バイオ燃料は、温室効果ガス排出を化石燃料に比べて35%以上減らすものでばければならないとしていたが、議会委員会はこれを45%以上でなければならないとした。さらに、2015年以後は、60%以上でなくてはならないとする。

 欧州委員会案は、社会的持続可能性基準を完全に無視していたが、議会委員会案は、地方コミュニティーの土地所有権や労働者の公正な報酬の尊重などの社会的基準も持続可能性基準に含める。

 [欧州委員会提案の持続可能性基準については、とりあえず、北林寿信「持続可能なバイオ燃料実現に向けたEUの取り組み」 グローバル・ネット(地球・人間環境フォーラム) 209号(2008年4月号) 14−15頁を参照のこと]

 2015年までの中間目標の設定

 議会委員会案は、道路輸送エネルギー における再生可能エネルギー の比率を2015年までに少なくとも5%とするという2020年に向けての中間目標も設定する。そして、その内の4%は第一世代バイオ燃料とすることができるが、1%は食料生産と競合しない新たな代替エネルギー なければならないとする。この新たな代替エネルギーには、再生可能資源から生産される電気や水素、廃棄物・リグノセルロース質バイオマス・大きなタンクで生産される藻[日本では日本海などでの大規模生産を探る動きがあるが、そんなことをすれば海洋生態系にどんな影響があるか分からない]などからの”第二世代バイオ燃料”を含むことが出来る。

 国ごとでなく、各国の協同での目標達成

 欧州委員会案は、輸送・電気・暖房・冷房における再生可能エネルギーのシェアの国家目標を設定する国家再生可能エネルギー・アクションプランの採択を各国に義務付けているが、議会委員会は各国が協同で目標を達成するようにできる柔軟なメカニズムを導入する。各国は再生可能エネルギー を利用する共同プロジェクトを持つことができ、再生可能エネルギー を相互に”統計的に”移転することもできる。また、目標の結合もでき、達成のための共同支援計画も作ることができる。 


 このような修正提案がそのまま実現するわけでない。EU27ヵ国政府との協議が残る。しかし、どちらかといえば環境重視で英国流自由主義から距離をおくフランスがたまたま議長国であることもあり、大筋は通る可能性が高い。ただ、そうなったとしても、第二世代バイオ燃料利用目標の達成だけは、ほとんど実現不能であろう。10年やそこらでのその実用化は、まったくメドが立たない。


 基準の強化と第一世代バイオ燃料利用目標の切り下げは、米国、ラテンアメリカ、アジア、アフリカ諸国におけるEU市場を目指してのバイオ燃料ブームに多少なりとも水を差し、とどまることを知らない社会的・経済的・環境的悪影響―小農民や先住民の土地取り上げ、労働者虐待、食料生産用地のバイオ燃料原料生産用地への転換、森林・生物多様性の破壊、温暖化の加速など―を多少なりとも和らげることになるかもしれない。

 しかし、6%という目標が残るかぎり、これらの悪影響は決して消えることはないだろう。米国や多くの途上国の政府は、貿易障壁を不当に高めるものと騒ぎ立てるだろう。パームオイル・バイオディーゼルの売り込みに余念のないマレーシアは早速批判の声を上げた。WTOの出番も増えるかも知れない。

 EU eyes lower biofuel goal,Reuters,9.10
 http://www.reuters.com/article/GCA-GreenBusiness/idUSLA31026820080910

 
Europe backs downs on biofuels from crops,New Scientist.com,9.11
  http://environment.newscientist.com/article/dn14712-europe-backs-downs-on-biofuels-from-crops.html