伊藤忠 ブラジル・セラード潅木地帯でエタノール生産 環境に優しい?

農業情報研究所(WAPIC)

08.12.13

  伊藤忠商事が12日、「Bunge社グループと合弁会社を設立し、ブラジル北部のトカンチンス州においても砂糖及びエタノールの製造事業に参画いたしました」と発表した(ブラジル北部トカンチンス州におけるバイオエタノール生産・販売事業参画について)。9月24日には、「Bunge社グループが保有するブラジルのAgroindustrial Santa Juliana S.A社に20%資本参加することで合意、・・・・・・JBバイオエナジー株式会社(東京都港区)を通じて、サトウキビを原料とするブラジルでのバイオエタノールと砂糖の生産・販売事業に参画することになりました」と発表しており(ブラジルにおけるバイオエタノール生産・販売事業参画について)、ミナス・ジェライス州での案件に続く2件目、総事業費用は8億米ドルになる。

 「工場の稼動開始は2010年の予定で、初年度のサトウキビ破砕能力は年間1.4百万トンを見込み、ピーク時には年間4.2百万トンに達する計画であり、また、サトウキビの絞り粕であるバガスを燃料として自家発電を行い、余剰電力はブラジル国内にて販売する予定です」という。

 9月24日の発表では、「・・・サトウキビを原料としたバイオエタノールは、他の原料を圧倒する二酸化炭素削減効果を持っております。それによって得られるエネルギーは生産に投入するエネルギーを大きく上回るという環境に優しい特徴をもっている・・・」、「熱帯林から離れたセラードと呼ばれる潅木地帯で生産されるサトウキビを原料としたバイオエタノールの生産コストは、世界の中でも極めて低いとされています」としている。

 サトウキビ・エタノールが米国で支配的なトウモロコシ・エタノールや、EUで支配的なナタネ・バイオディーゼルなどに比べて高いエネルギーバランス(バイオ燃料に含まれるエネルギーの、その生産に使用された化石燃料エネルギーに対する比率)を持つことは一般的に認められている。

 しかし、スイス連邦素材試験所 ( EMPA )が2007年に発表した環境総合影響評価*では、ブラジルのサトウキビ・エタノールの環境影響もガソリンを30%ほど上回る。原料生産過程(農業)の環境影響のためだ。

 *http://www.news-service.admin.ch/NSBSubscriber/message/attachments/8514.pdf

 温室効果ガス排出については、潅木セラードのサトウキビエタノール生産用地への転換がもたらす炭素負債(生態系のバイオマスと土壌から放出されるCO2の量)をこのエタノールの使用によって返済し終えるまでには17年かかるという試算がある*気温上昇を2.5℃(人類が適応できる限界)以内に抑えるためには温室効果ガスの世界排出量を遅くとも2020年までには減少に転じさせねばならないと言われるのだから、この試算に大きな誤差がないかぎり、破滅的な温暖化回避という観点からしても潅木セラード産エタノールは逆効果にしかならない。

 *Joseph Fargione et al,Land Clearing and the Biofuel Carbon Debt,Science express,Published online February 7 2008
  http://www.sciencemag.org/cgi/rapidpdf/1152747.pdf

 温暖化抑制をまじめに考えるのならば、8億米ドル(700〜800億円)にはもっと有効な使い道があるはずだ。