米国 エタノール−トウモロコシ生産拡大で害虫天敵が減少 大豆生産に多大な損害

農業情報研究所(WAPIC)

08.12.17

 ミシガン州立大学(MSU) の研究者が、農業景観の多様性を損なうエタノール生産のためのトウモロコシ栽培の増大が害虫をコントロールする有益昆虫の能力を減らし、大豆生産4州(ミシガン、アイオワ、ミネソタ、ウィスコンシン)の大豆生産に年間5,800万ドルの損害をもたらしていることを明らかにした。研究者は政策メーカーに対し、多様な原料作物を利用するエタノール生産の開発を要請する。

 Doug Landis et al.,Increasing corn for biofuel production reduces biocontrol services in agricultural landscapes,PNAS doi:10.1073/pnas.0804951106
 
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  農務省、エネルギー省も資金を提供したこの研究によると、エタノール生産拡大のために、米国全土のトウモロコシ作付面積は06年から07年にかけて19%増加した。その結果、多くの地域で作物の多様性が減った。

 しかし、昆虫の生物的コントロールは地方の景観構造が大きく影響する生態系のサービスだ。研究者は、4州の主要害虫であるダイズアブラムシの自然生物的コントロールの価値と、トウモロコシ生産の増大がもたらす生物的コントロール減退の経済的影響を推定した。

 必要に応じて殺虫剤も使用する統合害虫防除戦略を使用する生産者にあっては、大豆栽培におけるダイズアブラムシ自然防除は平均で33ドル/haの価値を持つ。4州におけるこれらのサービスは、07-08年価格で少なくとも年2億3900万ドルに値する。ところが、バイオ燃料生産増大に引っ張られた最近のトウモロコシ栽培の増大が景観の多様性を減らし、大豆畑へのアブラムシの天敵の供給を変え、生物的コントロールのサービスを24%減らした。

 このサービスの損失は、収量の減少と農薬使用の増加により、これら4州の大豆生産者に推定5800万ドル/年のコストを生む。生物的コントロールだけに頼る生産者にとっては、失われた生態系のサービスの価値はこれをはるかに超える。それでも、これは一つの作物の一つの害虫についての話だから、米国経済にとっての生物的コントロールの価値は過小評価されている恐れがあるという。 

 研究者によると、この研究結果は政策メーカーがバイオ燃料作物の種類、量、ロケーションについて考える助けになる。単一のバイオ燃料作物のモノカルチャーを選ぶこともできれば、永年性木本・草本・トウモロコシを含む多くのバイオマス資源の多様なミックスを選ぶこともできる。多様な景観は、害虫抑制や授粉などの重要な生態系サービスのレベルを引き上げる。研究者の目的は、一層の情報に基づく決定ができるように、情報を提供することだという。 

 議会が義務づけたバイオ燃料利用・生産のレベルを達成しようとすれば、原料生産のための大量の土地が必要になり、農業景観は変わる。政策メーカーは、この景観の変化がバイオ燃料生産の持続可能性にどんなに影響するか考えるべきだ。研究者はそう主張したいのだろう。