国際的科学コンセンサス バイオ燃料は気候変動と環境破壊を加速するリスク

農業情報研究所(WAPIC)

09.4.6

  4月2日、国際科学者チームが、バイオ燃料の地球環境への影響評価に関する報告を発表した。これは、08年9月22-25日にドイツのグンマースバッハで開かれた環境問題に関する科学委員会(SCOPE)国際バイオ燃料プロジェクトのワークショップの”ラピッド・アセスメント”の結果を示すもので、21ヵ国の75人以上の科学者のコンセンサスを反映するという。

 Biofuels: Environmental Consequences and Interactions with Changing Land Use,Cornell University
 http://cip.cornell.edu/biofuels/

 報告によると、エタノール生産は気候変動と大気・水汚染を助長するリスクがある。

 例えば、トウモロコシエタノール生産に使用される合成窒素肥料が、二酸化炭素の300倍の温暖化効果を持つ窒素酸化物(N2O)の排出を増加させる。窒素酸化物の排出量は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の2007年の推定の4倍にもなり得ると予測する。地球温暖化を引き起こす化石燃料への依存を減らすためのエタノール利用政策が、”自滅”政策となってしまう。

 トウモロコシエタノールの水への影響を評価した報告によると、2015年のトウモロコシエタノール利用を150億ガロンにするという2007年米国エネルギー独立安全保障法の目標を達成しようとすれば、キシコ湾、太平洋岸水域におけるデッドゾーンの拡大は避けられない。トウモロコシ作付地を増やすために土壌保全のための休耕地、休耕地、草地、棉作地を犠牲にするほかなく、このトウモロコシ作付地と肥料施用の増加は、河川湖沼や、とりわけメキシコ湾北部や太平洋岸への窒素と燐の流入を増やす。栄養分と低酸素のモニタリングの結果は、既にこの影響を示しており、これは2008年のミシシッピ大洪水でさらに増幅されたという。

 http://cip.cornell.edu/biofuels/files/SCOPE09.pdf

 セルロースエタノールなど第二世代バイオ燃料の利用を2022年までに210億ガロンに増やすという目標もある。しかし、セルロースエタノールの生産のためにトウモロコシの茎が収穫されるようになれば、土壌浸食とトウモロコシ生産用地からの養分流出がさらに増えるだろう。目標達成のためには、セルロースエタノール生産のための多年生植物・作物の栽培拡大が必要になる。再生可能な輸送燃料や水質の目標を達成するためには、家畜飼料のために必要な穀物と油料作物の量を減らすことも必要になるだろう。トウモロコシエタノール生産の副産物であるDDGS(穀物蒸留粕)の家畜飼料としての利用が拡大しているが、これは家畜排泄物中の燐の量を増やし、一層の水汚染につながる。

 多年生草本や廃棄物ベースのセルロースエタノール産業の発展を可能にする効率的な発酵技術やインフラの開発で、長期的に持続可能なエタノール生産に近づくことはできよう。しかし、バイオマスを液体燃料に転換するよりも、直接電気や熱の生産に使う方が、経済的にも実現可能で、多様な生態系のサービス―エネルギー、炭素隔離、水質と漁業ハビタットの改善、土壌と質と生産性の改善―を提供できる。

 バイオ燃料は、気候変動と環境破壊を押しとどめるどころか、加速する可能性が高い。科学的には、ほとんど結論が出ているようだ。恐らくは経済的・政治的利害関係を有するか、不勉強の政治家、官僚、研究者だけが、相変わらず、バイオ燃料は環境に優しいと言い張っている。