タイ クリーンでグリーンな籾殻発電所 周辺住民は窓も開けられず 吹き出物や呼吸困難

  農業情報研究所(WAPIC)

09.10.23

 農業廃棄物が生み出すエネルギーは、クリーンでグリーンな再生可能エネルギーのひとつの典型とされるが、これは鵜呑みにできそうにない。

 マンゴ、バナナの木、水田が見事な眺望を繰り広げるタイ北部、ナン川のほとりに住む一農業婦人・Bhornは、この4年、窓や戸を全開にできない日々を過ごしている。彼女らが住民の皮膚・呼吸器疾患の原因と信じている灰から家内と家族を遮蔽するためである。この灰を吐き出しているのが、京都議定書のクリーン開発メカニズム(CDM)の下で最初に認証された、A.T. Biopowe社所有の22メガワットの稲籾殻発電所なのだという。

 稲籾殻はシリカ(珪酸)を含み、シリカは世界で最も共通の職業病=珪肺を引き起こすことで知られている。籾殻の灰に含まれるシリカの濃度は85%から90%にもなるという。京都議定書によれば、CDM認証を受けるプロジェクトは、二酸化炭素排出を減らすだけではなく、受け入れコミュニティに社会・環境にかかわる便益ももたらさねばならない。会社はプロジェクト実施に責任を負わねばならないはずだ。

 ところが、現に住民に健康問題が出ていることは知らんぷり、完全燃焼技術を用いており、工場排気中の塵の99.53%を捕らえる吸塵装置も備えているから、そんな問題が起きるはずがないと言うだけだ。

 THAILAND: Renewable Energy Not So Clean and Green After All?,IPS,10.22
 http://www.ipsnews.net/news.asp?idnews=48967

 Bhornによると、A.T. Biopowerの発電所が2005年に操業を始めたとたん、米の収量が減り、畑には目に見えないほどの層を作る灰が降りそそぎ始めた。収量はほとんど回復したものの、灰による健康問題は続いている。住民、特に子供は皮膚に吹き出物が出たり、息が苦しくなる。だから、窓や戸を閉め切っているのだという。

 となると、現に起きている問題は、この工場から出る”灰”が引き起こしたと考えるほかない。実は、同様な問題は、タイ全国、いたるところで起きているのだという。A.T. Biopowerは、化石燃料依存を減らせという世界の要請に応え、タイが過去10年に建設してきた多数の小規模発電所の中の一つにすぎない。

 NGO・” Healthy Public Policy Foundation”の再生可能エネルギー研究者によると、投資家は、一貫して9.9メガワット以下の小規模発電所を建設してきた。10メガワットを超える場合には環境影響評価が義務づけられるからだ。しかし、例外的なA.T. Biopowerのように環境影響評価を行ったとしても、将来問題が起きないとは保証されない。一度承認されれば、その後の政府の監督はないからだ。バイオマスプロジェクトに対する抗議は、今や少なくとも20の県に広がっているという。


 籾殻の野焼きはわが国秋の風物詩でもあるが、タイほどの問題が起きないのは時期が限られているせいだろうか。1年休まず燃やし続けるすれば、ただ事では済まないだろう。ともあれ、バイオエネルギーはクリーンでグリーンと妄信しないことが重要だ。