米国 製材廃棄物のエネルギー利用奨励が木質ボード産業を一掃?バイオエネルギー補助の思わぬ帰結

農業情報研究所(WAPIC)

10.1.11

  のこ屑やかんな屑などの製材廃棄物を再生可能エネルギーに変えることを奨励するアメリカ政府補助金への疑念が高まっている。2008年農業法は、これら廃棄物のバイオ燃料原料としての販売を奨励するために、製材所や挽材卸売業者に対して総額5億ドルの補助金を出すことを決めた。ところが、そのお陰で、パーティクルボードや中密度船繊維板などの木質ボード製造業者への安価な原料の供給がとまってしまった。廃棄バイオマスをエネルギーに変え、国の石油依存を減らすというアイデアはいいが、経済的損害はそうした便益を上回る。ワシントン・ポスト紙が伝えるところによると、いまや、補助金の利益に与るビジネスからさえ、この補助金の価値を疑う声が出ている。

 The unintended ripples from the biomass subsidy program,The Washington Post,10.1.10
 http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/01/09/AR2010010902023.html?wpisrc=newsletter

 バイオマス電力産業は、連邦政府の支援を受けて1970年代末に離陸したが、いまは安い天然ガスと高い木材コストで生き残りが難しくなっている。”バイオマス発電協会”のボブ・クリーブス会長などのバイオマスエネルギー代表者によると、これら補助金は国の再生可能エネルギーの半分(他の半分は風力、太陽、その他)供給している部門を助けるために不可欠、メーン州の10のバイオマスエネルギー工場のうちの7つは、新たな資金の流入がなくて閉鎖したという。

 彼は、「国は、国の再生可能エネルギー源の半分に5億ドルを支出する覚悟もないのか」と言う。

 しかし、補助金支出は、のこ屑やかんな屑がバイオマスエネルギー企業に売られるならば、これらの価格が伝統的バイヤーに売られる場合に比べて2倍になることを意味する。これは、雇用や経済規模でバイオマス産業を大きくしのぐ(2006年センサスによると、2万1000の雇用と79億ドルの売上げ)木質ボード産業には”バッドニュース”だ。北米最大の木質ボード生産者であるFlakeboardの副会長は、この補助金は「我々を一掃してしまう恐れもある」、一層の代替エネルギーをと言うが、どれだけの犠牲を払うつもりか、と言う。

 アメリカでトップ10の雇用を持つパルプ・紙・包装・木材産業を代表するアメリカ森林・紙協会は昨年10月、これら補助金は、「林産品産業とそれを支える雇用とならび、それが生産する大きな量の再生可能エネルギーも危険にさらすという思わざる結果を招く恐れがある」と行政管理予算局に書き送ったそうである。

 農務省は法律に従ってプログラムの執行を続けるしかないと言っているが、農業委員会委員長(当時)として08年農業法の起案を助けたトム・ハーキン上院議員は、最低限、ルールを見直し、支払いがエネルギー用の新たな、追加バイオマスの利用を促すように保証しなけれなならない」と言っているということだ。 


 日本でも稲わらや林地・製材所残材などの農林業廃棄物が次世代バイオマスエネルギーとして注目され、開発が進められているが、多くの場合、すべてにおいてこのような「思わざる」結果があり得ることに「思いいたっていない」ことを憂える。