バイオエネルギー 「カーボン・ニュートラル」は基本的間違い 米国家科学者90人が政策メーカーに書簡

農業情報研究所(WAPIC)

10.5.28

 さすがにこんなことを信じる人はもう誰もいないと思っていたから、あえて紹介するのはやめていたが、相も変わらず「バイオエタノールは、原料の植物が成長する過程で二酸化炭素(CO2)を吸収することから、燃焼させてもCO2排出はゼロとみなされる」(「カーボン・ニュートラル」とみなされる)などという言い方がまかりとおっているようだ。近年のバイオエネルギー研究から、まったく、何も学んでいない。 (こんな言い方が未だにまかり通っているのは、おそらく日本のマスコミにおいてだけであろうが)

 http://www.sankeibiz.jp/business/news/100528/bsd1005280504007-n1.htm

 そこで、思いなおして紹介する。多数の全米科学アカデミー会員も含む90人のアメリカ科学者が米下院有力議員・与党指導者・オバマ政府の中心的官僚宛てに送った5月17日付の書簡のことだ。

 http://216.250.243.12/90scientistsletter.pdf

  それは、バイオエネルギーが”カーボン・ニュートラル”などというのはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のガイドラインの誤解に基づ間違った観念であり、それに基づく気候変動・エネルギー関連法・規則は温室効果ガスの排出増加につながると警告する 。書簡は次のように言う。

 この書簡の目的は、エネルギー利用による温室効果ガス(GHG)排出の削減を目指すいかなる法律または規則においても、バイオエネルギーからの二酸化炭素排出を正確に計算することの重要性に注意を促す ことにある。これを適切に計算すればバイオエネルギーはGHG削減に貢献できるが、不適切な計算は、国内にも国際的にも、GHG排出の増加につながる恐れがある。

 化石燃料をバイオエネルギーに置き換えることは、直接には車や煙突からの二酸化炭素排出を止めるものではない。化石燃料からの排出は減るか、なくなるけれども、バイオマスの燃焼は化石燃料からの排出をそれ自身からの排出(バイオマスの炭素含有率が低いために、エネルギー単位あたりでは却って増える)に置き換えるだけでである。

 土地や植物がバイオマス燃焼による排出をオフセット(相殺)できるかどうかは、植物の成長の速さと植物及び土壌の炭素貯留の変化にかかっている。

 非生産的な土地に成長の早いエネルギー作物を植えれば、植物と土壌が貯留する炭素を減らすことなく、そのエネルギー利用からの排出をオフセットする植物による追加低炭素吸収につながる。他方、木を発電施設で直接燃やすか、森林をバイオエネルギー作物に置き換えるかするために森林を刈り払えば、化石燃料の採掘や燃焼とまったく同様に、さもなくば隔離されていた炭素を大気中に放出することになる。それは炭素負債を 創り出し、森林による炭素吸収を減らし、結果としてGHGの純排出を、排出削減が必要とされる数十年の期間を超えて増やし続けることになる。

 多くの国際条約や国内法は、すべてのバイオエネルギーを、バイオマスの源泉とは無関係に、排出を100%減らす(カーボン・ニュートラル)ものとして扱っている。この一般化したアプローチは、IPCCのガイドラインの誤解に基づく。多くの優れた研究は、世界中に横行するこのような不適切なバイオエネルギーの説明が、世界の森林の大規模な刈り払いにつながるだろうと推定してきた。

 学ぶべきは、GHG排出を減らすためのいかなる法的措置も、バイオマスの源泉に基づいてバイオエネルギーからの排出を差別化するシステムを含まねばならないということである。  


 日本も、2020年までに200万キロリットル(石油換算)のバイオ燃料を導入、それによって二酸化炭素排出量を510万トン減らすのだそうである。

 http://www.env.go.jp/earth/ondanka/mlt_roadmap/shian_100331/main.pdf

 どんな方法で生産されたどんな原料のバイオ燃料をどれだけ導入することでこういう目標を達成できるのか。何も分からない。このバイオ燃料は、ただ「持続可能性基準を満たすもののみ」と言うだけである。、