米国科学アカデミー 米国動物・公衆衛生システムの病気発見・診断能力に欠陥の報告

農業情報研究所

05.7.19

 米国ナショナル・アカデミー(wev)が18日、米国政府は、狂牛病、鳥インフルエンザ、西ナイルウィルスなどの新たな、また出現しつつある動物由来の病気と闘うための現在の断片的フレームワークを協調させるための新たな高レベルのメカニズムを必要とするというレポートを発表した(Animal Health at the Crossroads: Preventing, Detecting, and Diagnosing Animal Diseases )。また、獣医学研究に一層多くの獣医や科学者を採用する努力を強める必要があるとする第二のレポートも出した(Critical Needs for Research in Veterinary Science)。全文は未だ見ていないので詳しい報告はできないが、同時になされた緊急発表Reports Call for High-Level Coordination of Animal Health and More Research-Oriented Veterinariansによると、両方とも、特に公衆衛生に関係する獣医学病理学者、実験動物科学者、その他の獣医学研究者の不足が進んでいることが、動物保健の分野で増えつつある難題への挑戦をますます困難にしていることに注目している。

 わが国でも、米国産牛肉の輸入再開問題に関連して、米国の狂牛病対策が公衆保健との関連でどれほど信頼に足るものかを知ることが喫緊の課題となっている。このレポートは、この点に関する現在の米国のシステムの多くの欠陥を指摘しており、この問題に答える格好の材料を提供すると思われる。また、その指摘の一定部分はわが国にも当てはまる。したがって、緊急発表によって、この問題に短期的に直接関係する第一のレポートが指摘する主要な問題点を取り急ぎ紹介しておきたい。

 今年6月に確認された狂牛病のケースは、いくつかの国が米国産牛肉・牛肉製品にへの市場を閉ざしたように、病気勃発のありうる経済的影響を例示した。出現しつつある病気と食料供給を標的とするバイオテロの可能性は、とりわけ米国動物保健に挑戦する変化しつつある脅威をなす。

 現在、数十の連邦・州機関、大学研究室、民間企業が国の動物保健を監視し、維持している。政府機関の多くが類似の機能を果たしているが、特に家畜でない動物の病気の連邦レベルの監視においては、責任のギャップが存在する。第一のレポートは、動物保健を護る官民グループの仕事を調和させるために、中央集中的な調整が必要であると言う。調整のメカニズムは、諸機関での情報の共有を容易にするとともに、特に病気勃発時における公衆とのコミュニケーションを改善すべきである。
 
 レポートはまた、検査を行い、また動物病を診断する官民試験所のネットワークの連携を強めるように要請する。米国農務省(USDA)のために検査を行う試験所を結び付ける国家動物保健試験所ネットワークの確立は望ましい出発点であるが、ネットワークは多種の病気を扱う能力を欠いており、現在は発見できる病気の種類は限られている。その上、動物保健ネットワークは、人間の病気を発見し、診断する公衆衛生システムとの一層の連結を必要とする。

 USDAや米国本土安全保障省などの動物病勃発に対する保護に責任を負う機関は、病気を防ぎ、迅速に発見するための新たな技術の開発を支援すべきである。これら機関は、現れつつある情報・センサー・遺伝的技術を活用すべきである。農産物貿易と食用動物の大規模生産の増加のような要因によって引き起こされる病気拡散のリスクの増大に対応するために、このような革新が必要である。

 複雑で急速に成長するグローバルな食料システムが新たな病気の米国内への拡散に寄与するとの考えから、レポートは、米国が動物病の防止と発見のためのグローバルなシステムを設立する他の国や国際機関との新たな協定を結ぶように要請する。外来動物、家畜化されていない動物、野生動物の販売と所有に対する統制を強める新たな規則も必要である。

 国の動物保健フレームワークの強化への公衆の支持を取り付けるために、政府と民間部門は、動物病が人間の保健と2兆ドルの米国食品・繊維産業にもたらす脅威への意識を高めるべきである。ほとんど4分の3の動物病が人間に感染しうるのだから、動物保健機関と公衆衛生機関の協同が緊急に必要である。さらに、USDA、州の動物保健機関、アメリカ獣医医療協会(AVMA)、獣医カレッジは、他いかなる病気の兆候も見逃さず、迅速に報告するために、農場労働者、動物園管理者、その他の前線労働者を 訓練する国家計画を開発し、実施すべきである。

 不幸にして、動物保健への挑戦が増しているときに、公衆保健と獣医研究のキャリアを追及する獣医の数は減りつつある。例えば、USDAは、そのスタッフについて、2007年までに数百人の獣医が不足することになると予想している。また、このレポートを作成した研究委員会の以前のレポートは、米国とカナダで獣医学病理学者が336人不足すると予想している。

 これらの指摘は、とりわけ動物病・それに関連した人間の病気の発見と診断の能力に大きな限界が存在することを示唆している。獣医科学研究の強化を訴える第二のレポートでも、正確な病気の診断に非常な時間がかかるという問題を指摘している(米国産初の狂牛病の場合がそうだったし、レポートは、99年にニューヨークで人間に西ナイル熱が勃発したときに正確な診断に数週間かかったと言い、獣医学研究者の数の増加と訓練・施設の改善を要請する)。

  今日の朝日新聞の広告記事・「食の安全」対談(酒井ゆきえ、小澤義博)で、小沢氏は、「アメリカでは、BSEが自国で発見される前の1990年代初期から、BSE対策を開始し、BSE発生地域であるヨーロッパの専門家を招きアメリカ国内における調査や監視員の教育を実施してきました。一方で、消費者に対して、その情報を公開するなどリスクコミュニケーションも行ってきています」と言う。ならば、いまさらなぜ「病気勃発時における公衆とのコミュニケーションを改善」したり、「農場労働者、動物園管理者、その他の前線労働者を訓練する国家計画を開発し、実施」せねばならないのだろうか。

 (ついでながら、小沢氏は、「今年の[OIE]総会では、「たとえBSEに感染していたとしても、特定危険部位以外の部位は、食べても安全である」ということがはっきり示されました」と言っているが、OIE基準のどこにもそんなことは書かれていない。BSEステータスと無関係に貿易できるとされた「脱骨骨格筋」でさえ、「BSEと疑われなかったか、確認されなかった」(30ヵ月以下の)牛由来のものでなければならないとされれいる。 発見・診断能力の限界のために「BSEと疑われなかったか、確認されなかった」感染牛がいくらでも混じる可能性はあるが、これは「たとえBSEに感染していたとしても、特定危険部位以外の部位は、食べても安全である」と認めたということではまったくない。彼の言うことをまともに信じてはならない)