低病原性鳥インフルエンザが人間に感染、初の血清学的証拠ーヨーロッパの新研究

農業情報研究所(WAPIC)

05.9.14

 イタリア等ヨーロッパの研究者が、低病原性・弱毒鳥インフルエンザ(LPAI)ウィルスが人間に感染する証拠を示す研究結果を発表した。これは、イタリアの養鶏労働者の研究による発見で、鳥インフルエンザウィルスが人間のインフルエンザウィルスと交わり、人間のインフルエンザ の世界的大流行(*パンデミック)を引き起こすことができるハイブリッドを創り出す機会が以前考えられていたよりも多いことを示唆するという。

 Puzelli S, Di Trani L, Faviani C, et al. Serolgoical analysis of serum samples from humans exposed to avian H7 influenza viruses in Italy between 1999 and 2003,Journal of Infectious Diseases, 2005; Oct 15 (early online publication)
 http://www.journals.uchicago.edu/JID/journal/issues/v192n8/34097/34097.web.pdf

 イタリアでは、1999年4月から2003年7月まで、何回かの鳥インフルエンザ発生をみた。これらの鳥インフルエンザは、H7N1型の低病原性株と高病原性(HPAI)株の両方とH7N3・LPAI株が引き起こしたものであった。研究者は、この期間の983人の労働者から血清サンプルを採取、鳥インフルエンザウィルスの抗体検査にかけた。正確を期するために、赤血球凝集抑制 (Hemagglutination Inhibition; HI) 法検査とマイクロ中和試験(microneutralization=MN assay)で抗体を測定、これらのどれかで陽性の結果で出たときにはウエスタン・ブロット分析を行った。結果は次のようなものだったという。

 最初の4回の発生期間中またはその後に採取されたサンプルのいずれも、H7N1またはH7N3に対する抗体をもたなかった。しかし、2002年と2003年のN7N3発生期間に採取された185サンプル中の7サンプルはHI検査陽性となり、そのうちの4サンプルはHI検査で両方のウィルスに陽性であった。どちらの検査でもH7N3(LPAI)に対する抗体の力価が高いことが示された。ウエスタン・ブロット検査では、7サンプルすべてが明確な反応を示した。

 報告は、「我々の知識では、これは家禽における流行時の人間へのLPAIウィルス伝達の初めての血清学的証拠である」 (抗体陽性の労働者が鳥インフルエンザに罹ったという報告はない)と言い、他の鳥インフルエンザ勃発に関連した人間の感染の報告はすべてHPAI株にかかわるものだったと指摘する。

 報告は次のように結論する。

 「ここで報告された養鶏労働者の感染の血清学的証拠は、鳥インフルエンザウィルスの人間への感染の潜在力をさらに実証し、パンデミックの潜在力をもつウィルスを生み出す手段であるように見える種の壁を越えることに関する一層の知見を得るために、動物と人間の恒久的サーベイランス研究が実施されるべきことを示唆する。この研究で血清陽性が発見されたすべての個人はLPAIウィルスに暴露されただけとはいえ、我々の研究は、LPAIウィルスにより引き起こされる鳥インフルエンザの発生期間中に、鳥の株と同時的に広がる人間の株が再集合する結果、あり得る大流行株が出現するリスクを際立たせ、HPAIウィルスによる鳥インフルエンザ発生期間中だけでなく、LPAIウィルスが広がっているときにも、特別のサーベイランスシステムを強化することの重要性を強調する」。

 我々は、低病原性鳥インフルエンザの発生に際しても、鳥と人間のインフルエンザウィルス株が遺伝子を交換するチャンスを可能なかぎり減らす対策を講じなければならないーとりわけ養鶏労働者の保護 (定期的ワクチン接種も考えられる)の強化を通じてーようだ(注)。

 (*パンデミック):「流行(エピデミック)」という言葉が単一のコミュニティー・人口集団・地域で起きる病気の広範な発生(勃発)の意味で使われるのに対し、「パンデミック」は、世界中に広がり・多数の国の非常に多数の人々を感染させる一層大規模な発生を意味する。

 (注)もっと基本的には、対症療法を超えて鶏の数を減らすことだ。1961年に7221万3000頭であった日本の鶏飼育羽数は、2004年には2億8600万にまで増えた。世界全体では38億8354万から163億5158万にまで増えている(FAO)。それが10個入りたまご1ケースを71円!で売る(我が家近くのスーパーの最近の新聞折込広告)ことを可能にした。これに消費者が競って飛びつくような現状では、飼育羽数は減らすどころか、ますます増やさねばならないだろう。