欧米当局 タミフルのインターネット販売取り締まり

農業情報研究所(WAPIC)

05.12.21

  フィナンシャル・タイムズ紙の報道によると、欧米の規制当局が抗ウィルス薬・タミフルの”違法”生産者・販売者の取り締まりに乗り出した。タミフルは、世界的大流行(パンデミック)がいつ起きてもおかしくないとされる新型インフルエンザの発症を防ぎ、重症化を抑えるのに有効とされる数少ない抗ウィルス薬だ。しかし、特許をもつスイス・ロシュ社のみが供給するこの薬の供給能力は限られている。各国は、自国民保護のために大量の備蓄を計画、タミフル争奪戦を演じているが、パンデミック勃発となれば、多くの国民がこの薬のご利益に預かれない恐れがある。恐怖に駆られた先進国の多くの人々が闇ルートからの入手を図ろうとしている。ために、インターネットを通して模造品を販売する”組織犯罪”が勃興、ますます隆盛に向かっている。米国、オランダ、オーストリアの当局がアジアからの模造タブレットの流入増加を発見、各国が取り締まりに乗り出したのだという。

 Health regulators target illegal Tamiflu,FT.com-world,12.20

  この記事によると、英国の医薬・ヘルスケア製品規制局(MHRA)は20日、タミフルを違法に販売するウエブサイトを世界中で20近く発見したことを明らかにした。それは、提供される薬を分析するためにいくつかの注文を行い、関係者の告発を始める。英国の動きは米国、スウェーデン、その他のヨーロッパ諸国の同様な動きに同調するもので、これらの国すべてがシンガポール、南アフリカ、オーストラリアの当局と協同しているという。

 米国税関と国境保護当局も20日、サンフランシスコに航空便で運ばれてくる米国人が注文したジェネリック(一般的には特許期間が切れた後の後発薬品を指すが、ここでは特許所有者の許可を得ないで製造・販売される薬品を指す)・タミフルの押収を続けていることを明らかにした。この1ヵ月で51の貨物を押収した。これらの包みには中国語の文字が書かれており、ジェネリック供給者からの薬はロシュの供給不足のために提供されると述べる粗雑な書面が付されている。

 これら発送したのは、オーストリアとオランダの当局が確認したものと同じく、中国の同一業者と見られる。試験所の暫定分析結果は、米国、オーストリア、オランダのタブレットは同一の生産者が製造したことを示唆し、本物のタミフルの活性成分はまったく含まず、代わりにビタミンCをベースにするものという。他方、カナダのインターネット供給者からの購入品はロシュ社のバッチナンバーが付いた本物だが、盗まれ、違法に再販売されたらしく、カナダ当局が調査している。

 ロシュ社は、安全と効能の確保のために、タミフルの入手の前に専門家の診断を受け、信頼できるところから入手するように要請している。しかし、英国当局者によると、これらの違法薬品は通常の3倍から4倍の高価格で売られている。これを競って購入する人々がいるかぎり、巨利をわがものとしようとするジェネリック・タミフルの生産と販売は後を絶ちそうにない。

 しかし、この状況を作り出したのは、パンデミック対策の基本がパンデミックの発生そのものを防ぎ、あるは可能なかぎり遅らせること、つまりアジアの鳥と人を襲い続け、今やアフリカにも拡散が予想されるH5N1鳥インフルエンザ・ウィルスを押さえ込むことにあることを忘れ、専らタミフル備蓄競争に走る諸国政府自身にほかならない。パンデミック対策予算の大部分が抗ウィルス薬備蓄(とワクチン開発)に注がれている。それでも、必要量を確保することはできないだろう。WHOは、およそ30ヵ国が大量に注文しているが、製造者は直ちにこれに応じる能力がない、ほとんどの途上国は、パンデミック期間を通して抗ウィルス薬を調達できないと言っている

 取り締まりを否定するつもりはないが、このような態度を改めるのが先決だ[この問題については、近々公刊される『週刊農林』誌に小文を寄せたので参照されたい]。