アフリカにH5N1鳥インフルエンザが拡散 「鳥インフルエンザとは誰も我々に知らさない」と現地農民

農業情報研究所(WAPIC)

06.2:13

 ナイジェリアでH5N1鳥インフルエンザの発生が確認された。専門家たちが最も恐れていたことがついに現実となったのだ。

 多くの専門家は、既に確認されたようなヨーロッパへのH5N1ウィルスの拡散は、恐れられている新型インフルエンザの世界的大流行(パンデミック)にはつながらないだろうと見てきた。ヨーロッパの家禽でのH5N1鳥インフルエンザ勃発は比較的早く発見され、速やかにコントロールされる、家禽と人間の”緊密”な接触もなく、人間の感染のリスクも小さいと見られるからだ。

 しかし、アフリカ諸国では、鶏の放し飼いが多く、野鳥からの感染リスクは高いにもかかわらず監視網が貧弱だから発見は遅れる、封じ込めのための備えも不十分で、速やかなコントロールは見込めない。その上、家禽と人間との”緊密”な接触もあり、その回避を徹底させる手段も欠けている。鳥インフルエンザ勃発となれば人間の感染も爆発的に増え、ウィルスに曝された栄養不良やエイズで免疫力を損なわれた多くの人々が命を失うことになるだろう。

 既に食料不足やエイズがもたらす災厄に襲われている人々を、それ以上の大災厄が襲うことになる。養鶏の危機、交易のストップは、経済・生計の危機、食料危機の加速も意味する。アフリカの人々は未曾有の危機に曝されることになる。それだけではない。制御不能な人の感染は、パンデミックの可能性を一気に高める。

 ウィルスのアフリカへの拡散を専門家が最も恐れていたというのはこのためだ。世界保健機関(WHO)や国連食糧農業機関(FAO)も、このような事態を回避すべく、懸命な努力を注いできた。だが、現在のナイジェリアの状況は、このような努力もいかに無力であったかをはっきりさせたようだ。

 国連統合地域情報ネットワーク(IRIN)が10日付けで伝えるところによると、大量の鶏が死んだ北部・カノ州の農民や地方官吏は、これらの鶏の死がH5N1鳥インフルエンザによるものであることを未だに誰も知らされておらず、この病気の拡散を防ぐために自分たちにできることを行っているだけという。自分たちにできることとして一商業養鶏農場の労働者が行っているのは、生き残っている鶏の中から死んだ鶏を素手で拾い上げることだ。防護服はまったく使われず、山積みの死体が燃やされるか、埋められている。生きている鶏は農場にそのまま残されているというのだ。

 IRIN;NIGERIA: “Nobody has told us that it is bird flu”, says farm official,2.10
 http://www.irinnews.org/report.asp?ReportID=51658&SelectRegion=West_Africa&SelectCountry=NIGERIA

 この報道によると、H5N1ウィルスは隣のカドナ州にも広がっていることが確認された。カノ州でも拡散が続いている。国立獣医学研究所は、カドナ州、カノ州、プラトー州で鳥インフルエンザのケースを確認した。4万羽の感染を確認したカドナ州の当局者は、ウィルス拡散を止めるために家禽の射殺を進め、農民が感染した鶏を隠し、あるいは販売するリスクを減らすために不可欠な所有者への補償の問題の解決にも取り組んでいると言う。しかし、農民は、養鶏協会に登録していないために補償を受けられないことを恐れ、また支払を受けるには当局にどう接触したらよいのかも知らないと言う。

 同じ日のIRINの別の報道は、アフリカは先月の北京国際会議で約束されたいかなる資金援助も受け取っていないという。アフリカ同盟の動物資源局長は、「我々は、アフリカの他の国や地域への鳥インフルエンザ拡散を回避するために、国際社会が速やかにアフリカ大陸を助けるように要請している」と言う。

 AFRICA: Lacking the financial support it says it needs to fight the spread of bird flu
 http://www.irinnews.org/report.asp?ReportID=51648&SelectRegion=Africa&SelectCountry=AFRICA

 北京国際会議では、アフリカは鳥インフルエンザから自らを守るための1億5000万ドルの援助を約束された。彼は、「地域レベルでの試験所の更新、診断事業の改善、動物ワクチン購入能力の確保のために、この資金が緊急に必要だ。約束された資金は未だまったく受け取っていない」と言う。資金の一部は、政府による補償を助け、また農村地域での情報提供を強化するためにも使われる。

 彼によると、鳥インフルエンザの安全な検査ができる試験所は、アフリカ全体で二つー南アフリカとエジプトーしかない。セネガル、コートジボワール、ケニアの試験所は、スタッフを感染リスクに曝さないように検査するために、緊急の更新が必要だ。アフリカ全体のために役立てる地域事務所の設立が望まれ、各国の専門試験所の必要はないという。

 ナイジェリアで鶏の大量死が発見されたのは1月の10日だったが、H5N1鳥インフルエンザと確認されたのは2月になってから、しかも多くの農民はそのことさえ知らされていない。これでは鳥インフルエンザ蔓延防止だけではなく、新型インフルエンザ勃発に際して、その被害を最小限に食い止めることも不可能だ。先進各国は、パンデミックに備えて自国民保護のみを最優先する姿勢を早急に改める必要がある。

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