EU農相理事会 鳥インフルエンザ侵入による農家損害補償とワクチン接種で分裂

農業情報研究所(WAPIC)

06.2.22

 EU農相理事会が20日、野鳥の高病原性(H5N1)鳥インフルエンザ感染が広がりを受けて一部加盟国が計画し、要求している養鶏農家援助とワクチン接種に対する合意に失敗した。

 2708th Aricultural and Fisheries Council meeting - Brussels, 20.02.2006 (provisional version)

 野鳥の鳥インフルエンザ勃発で消費者の間に感染への怖れが広がっている。そのために、EU諸国の鶏肉・卵消費は急減した。養鶏農家援助は、それがもたらした損害を補償しようとするものだ。農相理事会では、特にイタリアとギリシャがこれを強く要求、フランスも支持した。しかし、欧州委員会は、鳥インフルエンザが引き起こした市場の混乱は当面は小さいと、生産者への特別援助を拒否する立場を取っている。ドイツなども支持をためらっている。結局は合意に達しなかった。

 EUの直接援助となれば、50%はEU予算から支出しなければならない。だが、養鶏部門に対するEUの直接援助は比較的制約されている。狂牛病危機に際して牛肉部門で構築されたような特別援助制度はないからだ。現在の養鶏危機がもたらした混乱は、狂牛病危機と比べれば、未だ比べものにならない。マリアン・フィッシャー=ボエル農業担当委員は、例外的市場支持措置は、重大な混乱の場合にしか取れないと主張する。

 イタリアは、それが駄目なら、国独自の援助(EUの用語で”国家援助”と呼ぶ)を行うとも示唆している。しかし、国家援助は加盟国間の競争条件を歪めるから、EUでは厳格に規制されている。EUの承認を得ることなく国家援助に踏み切れば、支払われた援助の全額払い戻しも含む厳罰を覚悟せねばならない。

 ただし、欧州委員会は、鳥インフルエンザの直接の被害は受けていないが、貿易制限と消費の低落で損害を受けた農家への補償を前向きに検討するとし、専門家委員会に可能なかぎり早く提案を行うと約束した。

 ワクチン接種については、フランスとオランダが、各国獣医当局主任で構成される食料チェーン・動物保健常設委員会(SCFCAH)の承認を求めている(注)。ワクチン接種はSCFCAHの承認を受けた上で、加盟国の特定多数決による決定に従わねばならない。ワクチンを接種すれば輸出ができなくなる。EU域内の他の国の家禽にもワクチンを接種された家禽が流通するだろうから、その被害はワクチンを接種しない国にも及ぶ。ワクチン接種計画のない国はそれを恐れる。オーストリア、ドイツ、デンマークは、健康な鳥が保菌者になる恐れがあると、ワクチン接種には非常に懐疑的な立場を取っている。

 欧州委員会も慎重だ。マルコス・キプリアヌ保健・消費者保護担当委員は、ワクチン接種は利益は損失を上回ることが確かでなければならないと言う。彼は、H5N1ウィルスは野鳥に発見されただけで、ヨーロッパのどの国でも鶏には発見されていない、このウィルスが人間を殺すとしても、人間の感染を避けるには現在の衛生規則で十分、市民が鶏を食べない理由はないと、ワクチン接種の緊急性を否定する。

 ワクチン利用についてのヨーロッパの意見は分裂しており、専門家による激しい議論が進行中だ。欧州委員会は、その結論を詳細に検討、是非は慎重に評価しなければならないと言う。

 (注)SCFCAHの検討(21日)に付されたフランスとオランダのワクチン接種計画は次のようなものだ。

 オランダ:全国の愛玩鶏と放し飼いの雌鳥にワクチンを接種。これは屋内に入れる代わりの任意の措置として行われる。

 フランス:接種の対象は、野鳥からの感染リスクが高い地域(ランド、ロワール・アトランティーク、ヴァンデの諸県)のアヒルとガチョウ。ワクチン接種は直ちに始め、4月1日まで続ける。この間に接種を受けるのは90万羽になると予想される。

 両国とも、ワクチンを接種された鳥での鳥インフルエンザ発生を監視するためのワクチンを接種されていない鳥の利用、両方の鳥の定期的検査などの監視・コントロール措置を取る。

 European Commission,Avian Influenza: France and Netherlands present vaccination plans for poultry,2.21