地球温暖化が疫病発生を増加させるー新たな国際共同研究

農業情報研究所(WAPIC)

06.9.1

 米欧研究者による新たな研究が、地球温暖化に伴う気温上昇が疫病バクテリア集団を50%増加させることを示した。ヒトの間で伝播する感染症の研究はバクテリアと気候変動の同様な関連を示してきたが、ネズミが持つ疫病バクテリアの発生率と気候変動の明確な関連が発見されたのは初めてのことという。

 Nils Chr. Stenseth et al., Plague dynamics are driven by climate variation,PNAS 2006 103: 13110-13115( published online before print),doi: 10.1073/pnas.0602447103;Abstract

 中世にヨーロッパを襲った疫病は人口の3分の1を殺し、下水道など衛生設備の改善で根絶されるまでの間、しばしば再発してきた。東欧、旧ソ連、極東、アジア、南米の一部地域では、黒死病バクテリアはなお普通に見られ、ネズミについたノミを介して広がっている。

 研究者は、1949年以来、ネズミ(gerbils、アレチネズミ)を監視してきたカザフスタン国家計画のデータを使い、これらのデータを樹木の年輪から推定される平均気温のデータと比較した。その結果、気温の僅かな増加も疫病の非常に大きな増加につながることが分かった。春季の気温が1℃上昇するだけでも、疫病バクテリアの50%の増加を引き起こす。

 この気温とバクテリア発生率の相関関係により疫病患者数の変動も説明できる。カザフスタンの樹木の年輪のサンプルにより、ここで14世紀に黒死病が勃発したときには春が温暖で、夏は湿潤であったことが明らかになった。同じ地域で19世紀に疫病が発生したときの条件も同様だったという

 研究者は、気候変動が疫病を引き起こすバクテリアの発生に影響を与えたと結論する。そして、黒死病やアジア型インフルエンザをもたらした遺伝的・気候的条件が出現したのはまさにこの中央アジア地域だった、人間と齧歯類動物やノミ(あるいはその他の野生動物)の緊密な接触があるところでは、これら病気の勃発の脅威が気温上昇ととも増加すると警告している。