渡り鳥をH5N1ウィルス国内持ち込み犯人とすることは”科学的”か

農業情報研究所(WAPIC)

07.9.7

 9月6日に開催された農水省食料・農業・農村政策審議会家畜衛生部会第26回家きん疾病小委員会において、今年1月から2月にかけて宮崎県と岡山県で発生した高病原性鳥インフルエンザは、海外から渡り鳥によって国内に持ち込まれたと「想定される」と結論された。「渡り鳥からウイルスが分離されるなどの直接的な証拠はないものの、海外の事例などから渡り鳥による国内へのウイルスの持ち込み、野鳥や野生生物による農場内へ持ち込みが想定される」という。

 食料・農業・農村政策審議会家畜衛生部会第26回家きん疾病小委員会の概要について,07.9.6

 このように言うことで、小委員会は、事実上、他の感染経路をすべて排除している。「直接的な証拠」がないにもかかわらずこのように結論することは”科学的”なのかどうか、疑問を禁じえない。

 というのも、今月初めにバンコクで開かれた、H5N1ウィルス株の拡散における野鳥の役割について情報を共有するためのアジア12ヵ国代表者の会合において、”肯定的”検査結果だけが認められ、”否定的”検査結果については科学誌に発表されることさえない伝統的な科学の”慣行”への疑問が噴出したからだ。

 HEALTH: 'Avian Flu Spread by Poultry, Not Wild Birds' ,IPS,9.3

 この疑問は、家禽集団に感染した鳥インフルエンザのケースに野鳥を関連づける明確な証拠がないことから出てきた。鳥インフルエンザ・サーベイランス・グローバルネットワーク(GAINS)のウィリアム・カレシュ氏の語るところでは、”否定的”結果が正しい可能性を証明する科学の”規定”は存在せず、繰り返し”否定的”結果に直面したとき、科学者は、この情報を公表せず、”肯定的結果”か、”新発見”しか公表しない。

 国連食糧農業機関(FAO)の鳥インフルエンザにかかわる国際野鳥コーディナーターのスコット・ニューマン氏は、”これは、我々が直面する興味あるパラダイムだ”、”肯定的検査結果(陽性)は病気(鳥インフルエンザ)のエコロジーを理解するために重要だ。しかし、この場合、否定的結果(陰性)も同じようにこの病気の理解に貢献している”と言う。 

 カレシュ氏は、”参加国からの否定的発見の諸報告は魅惑的なものだった。しかし、そのほとんどがすべてが科学誌に発表されることはないだろう”と言う。野鳥のH5N1ウィルス検査結果についても同様だ。FAOのバックグランド・ノートは、”2005-2007年にヨーロッパ、アジア、アフリカ、アメリカで採集された健康な野鳥からの35万以上のサンプルがH5N1陰性だった”ことを明らかにしている。ほんの僅かな研究が”陽性”を報告しているにすぎない。

 ニューマン氏は、過去3年、世界中で多くの野鳥サーベイランスを行ってきたが、この病気の野鳥宿主は見つからなかった、それだけでなく、渡り鳥が家禽農場から感染した例をあげ、”現実には野鳥が犠牲者である”ことを示唆する証拠が増えつつあると言う。 野鳥の世界にウィルスが入り込むのはこのようにしてだ。FAOによると、H5N1で死んだ放し飼いの鳥は三つの種類に分けられる。渡り水鳥と、渡り鳥ではないが”家禽から野鳥に病気を伝達する役割を演じる”ブリッジ種”と、”略奪、病気や死んだ鳥を漁ることで最も病気を得やすい”捕食鳥だ という。

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  実際、宮崎、岡山のケースでも、たった一例の野鳥(熊本のクマタカ)”陽性”が強調されるだけで、他の多数の”陰性”例は何を意味するのか、十分な解明、あるいは説明がなされているようには見えない。だからといって、、小委員会 の結論が間違っているとか、別の結論をすべきだったとか言うつもりはない。言いたいのは、検査で「繰り返し”否定的”結果」が出る渡り鳥を国内へのウィルス持ち込みの唯一の”犯人”とすることが”科学j的”かどうかを疑う余地は十分にあるのではないか、そうする(疑う)方がはるかに”科学的”な態度ではないかということだ。そして、この結論に基づく鳥インフルエンザ予防・防止策に大穴が開かないように祈るのみである。