中国鳥インフルエンザ 勃発なし―政府 無症状のワクチン接種鳥に注意せよ―専門家 

農業情報研究所(WAPIC)

09.2.9

 中国農業部が2月5日、今年8人のH5N1鳥インフルエンザ感染(うち5人が病死)が発見された7省では、1月以来、鳥インフルエンザ勃発の報告はないと発表した。これは、先月行われた全体的な疫学的状況の研究と調査からの結論だという。

 これは、人間の鳥インフルエンザ感染の事実はウィルスが鳥のなかに蔓延しているに違いないことを示すという国連食糧農業機関(FAO)のヴィンセント・マーチン上級技術顧問の見解を真っ向から否定するものだ。農業部は、 香港沿岸で死骸が発見された鳥にH5N!ウィリスが検出された*ことから推測されている広東省の鳥の間での鳥インフルエンザ勃発も否定した(参照:中国の鳥 鳥インフルエンザ勃発は疑いない ”テリブルな秘密”と香港専門家,09.2.4)。

 農業部の専門家は、鳥インフルエンザウィルスの存在は、必ずしも鳥の間での勃発を意味しない、2005年以来中国で報告された人間の37感染例のうち、鳥の間での勃発に関連していたのは4例にすぎないと言う。声明は、「人間のケースのすべてが動物の病気に関連しているとかぎらないのは、まったくもって普通のことだ」と述べているという。

 No outbreak among poultry reported, says ministry,China Daily,2.6
 http://www.chinadaily.com.cn/china/2009-02/06/content_7449781.htm

 *2月7日には7羽の死骸からH5N1ウィルスが検出されたと発表されている。
  
Seven dead birds test H5N1 positive in HK,xinhua.net,2.8
    http://news.xinhuanet.com/english/2009-02/08/content_10780606.htm

 今までに世界で404人の感染例が発見されているH5N1鳥インフルエンザは、なお人から人に移る型に変異しておらず、感染した鳥や人との直接の、あるいは間近での接触によってのみ人に移るとされてきた。中国政府の見解はこのような通説を否定するわけではない。しかし、現に1ヵ月に中国史上最高の8人にも達した感染者の感染源、あるいは感染ルートは何なのか、これにはまったく答えない。

 FAOの専門家は、鳥の間での勃発はあるが報告されていないだけと推測する。しかし、これにも確かな証拠はない。日本の専門家は一向に答える気配がなく、マスコミもこれへの疑問さえ抱いていないようだ。

 そんななか、重症急性呼吸器症候群(SARS)などの感染症治療の第一人者とされる中国工程物理研究院の鍾南山(Zhong Nanshan)院士が、鳥はインフルエンザに感染しているがいかなる症状も示さないと警告したそうである。

 新華網が6日付けで伝えるところによると、彼は、「ワクチンを接種されたものなど、このような動物に特別の注意を払うべきだ」、「既存のワクチンはウィルスを完全に不活性にするのではなく、その量を減らせるだけだ」と語った。

 彼によると、1月以来8人に達した感染者の半分以上は鳥との直接の接触はなかったし、症状のある家禽が報告された地域に住んでもいなかった。彼は、人がすべての家禽や鳥との接触を最小限にするように要請、「自分の家ではなく、市場で解体された鶏を食べよ」と語ったという。

 Chinese expert issues new bird flu warning,Xinhua net.2.6
 http://news.xinhuanet.com/english/2009-02/06/content_10775326.htm

 真偽のほどは分からない。しかし、状況をもっともよく説明できる。もはや、感染した(恐れのある)鳥との接触を避けよという通常の勧告を守るだけでは、人の間での感染拡大は防げないかもしれない。日本の専門家を含む世界の専門家は、従来の人の感染予防策を早急に見直すべきときではないか。また、鳥へのワクチン接種戦略も、早急に見直すべきときではないか。

 専門家、マスコミ、ここにいたってもなおそ知らぬ顔を続けるようならば、新型インフルエンザなど対処すべくもない。