カナダ・アルバータ 豚が人からH1N1インフルエンザに感染 ウィルス変異のリスク

農業情報研究所(WAPIC)

09.5.5

  カナダ食品検査局(CFIA)が5月2日、アルバータ州の豚群にH1N1インフルエンザウィルスを発見したと発表した。この豚群は、最近メキシコから帰り、インフルエンザに似た症状を呈していたカナダ人からのウィルスに暴露された可能性が高い。豚に病気の症候が見られた。人は既に回復、 感染した約220頭の豚も回復に向かっているという。

 CFIAは、ウィルスの一層完全な特徴づけにはさらなる検査が必要だが、予防措置を講じていると言う。発表によると、豚群は検疫下に置かれ、公衆衛生当局と共同して公衆と動物の健康保護を確保するための最も適切な次のステップを決める。しかし、これらの豚が人間にウィルスを移すことはありそうもない。

 カナダの豚は、ルーチンの呼吸器病調査でインフルエンザウィルスの検査を受けている。CFIAは、病気の症候を示す豚群の監視を強化し、全体の農場に対する強化された生物安全措置を維持するために、4月24日以来、州や養豚産業、民間獣医と共同しているということだ。

  An Alberta Swine Herd Investigated for H1N1 Flu Virus,CFIA,09.5.2
  http://www.inspection.gc.ca/english/corpaffr/newcom/2009/20090502e.shtml 
 

  この発表を受け、ビルサック米農務長官は次の3点を指摘、この発見は米国の状況を変えるものではないとする声明を出した。

 ・米国の豚にこのウィルスが発見されたという報告はない。

 ・これは食品由来の病気ではない。アメリカで供給される食品は安全で、豚肉と豚肉製品も安全だ。他の肉と同様、病気をもたらす微生物やバクテリアを殺すための安全な取り扱いと調理方法が用いられるべきである。

 ・予防措置として、インフルエンザ状の症状がある人は豚との接触は避け、インフルエンザ症状を示す豚は公衆から隔離し、州動物衛生当局か米国農務省(USDA)に知らせるべきだ。

 STATEMENT FROM SECRETARY VILSACK ON CANADA DETECTION OF H1N1 IN ALBERTA SWINE,USDA,5.2
  http://www.usda.gov/wps/portal/!ut/p/_s.7_0_A/7_0_1RD?printable=true&contentidonly=true&contentid=2009/05/0142.xml

  他方、中国は早速、アルバータからの豚と関連製品の輸入を停止した。4日までに、ロシア、中国、スイス、クロアチア、インドネシア、タイ、エクアドルを含む12の国が、主として米国とメキシコ、一部はカナダ、ニュージーランド、スペイン、フランス、イスラエル、コスタリカ、エルサルバドル、コロンビア、キューバ、ニカラグア、パナマ、ホンジュラス、グアテマラ、ドミニカ共和国からの豚肉・豚肉製品の輸入を禁止したということである。

 China suspends imports of pigs from Canada's Alberta,Xinhua,5.3
 http://news.xinhuanet.com/english/2009-05/03/content_11306169.htm

 Nations ban pork amid flu fears,National Post(Canada),5.4
 http://www.nationalpost.com/news/canada/story.html?id=1561461

 カナダ養豚産業は、牛肉産業が狂牛病で受けたような大損害を蒙ることになりそうだと戦々恐々だ。

 Pork industry in panic as pigs catch the flu,Globe and Mail,5.4
 http://www.theglobeandmail.com/servlet/story/RTGAM.20090503.wflupork04/BNStory/National/?cid=al_gam_nletter_newsUp

 しかし、養豚産業が被害を受けるだけならまだましだ。WHOの食品安全科学者であるピーター・ベン・エンバレック氏は、「一度起きたことはどこでもまた起きる可能性がある」、豚と人がウィルスをやり取りしているいるとどちらにも危険なウィルスに変異するリスクがある、さらに豚インフルエンザは鳥インフルエンザが既に存在するアジアの一部で報告されており、パンデミック株が混ざり合って一つの致死的なカクテルになる恐れがあると警告する。 

 Human-to-swine transmission escalates mutation risk,Globe and Mail,5.3
 http://www.theglobeandmail.com/servlet/story/RTGAM.20090503.wflumain04/BNStory/National/?cid=al_gam_nletter_newsUp

  実際、正式名称をインフルエンザA/H1N1とされた豚インフルエンザへの感染者は、既にH5N1鳥インフルエンザが存在する香港でも発見されている。グローバル化した現在の人の動きを考えれば、豚のH5N1鳥インフルエンザが確認されているインドネシアへの伝播も時間の問題だろう。豚のインフルエンザA/H1N1感染が防げなければ、H5N1鳥インフルエンザによる豚の体内でのその遺伝子の取り込み作業が急ピッチで進むことになるだろう。「致死的なカクテル」の誕生が現実味を帯びてきた。

 世界中での豚の監視の強化が喫緊の最重要課題となる。しかし、日本の農林水産省は連休でお休み、少なくとも連休明けまで何の動きもなさそうだ。