農業情報研究所環境感染症ニュース:2012年1月11日

中国養鶏場で抗ウィルス薬濫用?薬剤耐性ウィルスを増加させる恐れも

  1月10日付の日本農業新聞が中国の養鶏場における「抗生物質」(抗生剤)濫用の問題を取り上げている。

 中国産鶏問題で波紋 耐性菌 発生危ぶむ 専門家や消費者団体 リスク管理徹底を e農net 13.1.10(要登録、無料)

 この記事には筆者の電話インタビューを通してのコメントも載っており、これを補足する意味で、この問題に多少触れておきたい。

 といっても、ここで触れるのは中国養鶏における抗生剤の使用実態やその影響についてではない。中国養鶏で大量の抗生剤が成長促進剤とし使われていることは間違いないだろうが、筆者は使用実態の詳細についての情報は持っていない。ここで指摘しておきたいのは、中国の国営メディアが大々的に取り上げているのは近年の薬剤耐性菌の発生と増加の最大の要因として欧米で大きな問題となっているような成長促進剤としての抗生剤の使用だけではなく、今まで聞いたこともないような「抗ウィルス剤」の大量使用の問題でもあるということだ。

 たとえば昨年12月26日付の新華網(xinhua.net)は、Chicken raisers involved in antibiotics scandals under probeと題する記事で、中国農業当局は鶏が過剰な抗生剤を与えられていた中国東部の養鶏場を閉鎖したと報じた。しかし、この養鶏農場調査のきっかけとなったのは、中国メディアが前週、山東省の一部養鶏農家が、過密な鶏舎で鶏が生き残るのを助けるために、アマンタジンリバビリンを含む過剰な抗生剤を与えていると報じたことである。

 この報道によると、この”抗生剤スキャンダル”にはKFC(ケンタッキー・フライド・チキン)もかかわっており、上海食品医薬局は、KFCのチキンのサンプルから検出された抗生剤のレベルは微量だったが、抗ウィルス薬は怪しい(suspicious)レベルだったという声明を出した。当局はKFCに対し、汚染製品の回収を指示、市内店舗の調査を始めたという。

 ところで、アマンタジンやリバビリンは抗ウィルス薬であり、欧米で問題となっているような抗生剤ではない。アマンタジンはA型インフルエンザの治療薬としても使われる抗ウィルス薬であり(ただし、睡眠障害や幻覚などの副作用がある)、リバビリンも多くのウィルに効果を発揮する抗ウィルス薬である(たたし、多くの副作用があり、日本ではC型肝炎治療に許可されている)。

 だから、日本農業新聞における筆者のコメントの一部が「抗生物質は、過剰投与で耐性菌が発生するだけでなく、鶏肉中にも残留する。鳥インフルエンザの予防に効果がある抗生物質の中には、睡眠障害や幻覚など副作用を引き起こすものもある」となっているのである。

 ともあれ、中国養鶏業者が抗生剤だけでなく、抗ウィルス薬も使っていることは間違いないようだ。しかし、何ためそんなことをするのか。抗生剤と違い、それが成長促進に役立つとは聞かない。あるいは、鳥インフルエンザ感染の予防を期待してのことなのだろうか(予防効果があるとも思えないが)。どんな効果があるか分からない。しかし、薬剤耐性ウィルスの発生と増加を促すことは確かだろう。ただちに食品安全に関係することはないかも知れない。しかし、中国国民は、とみに食品の安全性に敏感になっている。こんな慣行の横行は中国食肉産業が自ら首を絞めるに等しい。kFCの売り上げはかた落ちになったという。影響は急速に店舗増設中のマクドナルドやバーガーキングに及ぶかもしれない。

 KFC sales hit by chicken probe,China Daily,1.9

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