大豆ブームがアマゾンを破壊 雨林は救えるか―二つの最新情報

農業情報研究所(WAPIC)

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04.8.27

 ブラジルを含むG5主導のドーハ・ラウンドは、多くの最貧途上国を犠牲に、先進国のみならず、ブラジル等の「中進途上国」の農畜産物の輸出をますます拡大させることになろう。それはこれら諸国の貧困を軽減するどころか増幅、環境にも破滅的影響を与える恐れがある。

 国際需要の増加で大豆ブームが起きたアルゼンチンでは、96年から04年までに大豆生産が1,100万dから3,650万dに増え、その95%が輸出されている。これに伴い、生産地域は50haで収益が出るという肥沃なパンパから、1,000ha-2,000haなければビジネスにならないという貧しい北部5州にまで広がり、この地域の耕地の80%までが大豆に当てられるようになった。それは、小農民を追い出し、森林保護区域まで侵食している。小農民を追い出して作られるこのような大規模プランテーションが雇う労働者は2人から5人に過ぎない。大豆生産の拡大にもかかわらず、失業が急増、この地域の98年から02年にかけての極貧人口の比率は、例えばカタルマルカ州で8%から29%、サルタ州で12%から43%というように、すべての州で激増したSoy Overruns Everything in Its Path,IPS,8.6輸出環境の改善は、このような事態を一層促がすだろう。

 ブラジルで起きている同様な事態は、「地球の肺」と言われるアマゾン熱帯雨林の急速な侵略につながるだけに、一層重大だ。大豆や牛肉の輸出ブームがアマゾン雨林の破壊を加速していることについては、これまでにも何度か報じてきた。国連開発計画(UNDP)と国連環境計画(UNEP)の後援を受けるインター・プレス・サービス(IPS)などが、その深刻な現状とブラジル政府の対応を生々しく伝える最新情報を伝えている。

 このような事態の直接の責任は、輸出拡大に血道をあげる多国籍巨大アグリビジネスにある。我々にはこれに歯止めをかける手段がないように見える。だが、これら企業が供給する安価で大量の農畜産物を何の疑問もなく受けいれている我々自身が究極の加害者かもしれない。大豆の多くは家畜の飼料となる。我々は一日たりとも欠かせないと、こうして供給される大量の肉を食べつづけている。これほどの動物の命を奪いながら、なぜこんなに食べるのかなど考えもしない。大量の肉を食べつづける日常的行為が遠いブラジルの人々と環境にどんな破滅的影響を与えているかなど、思ってもみない。それどころか、狂牛病(BSE)で米国牛肉の輸入が止まり、安くて旨い牛丼が食べられないと不平を言っている。狂牛病を贈ることで、天は狂っているのは牛ではなく、人間だと諭した。だが、こんなことでは、天は、地球とそこに生きる生き物を救うためには、人間に亡びてもらうほかないと開き直るかもしれない。こんな思いを込めて、以下の二つの報道を紹介する。

1.武装不法占拠者がアマゾン森林と原住民の生活を破壊、大豆畑を作り出す
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Armed land-grabbers set sights on Amazon jungle settlement,Knight Ridder,8.15

 12口径のショットガンを持つ見なれない男が入ってきて、アマゾン河奥地支流の川辺にあるフランシスカ・ソアレの小さな薄汚れた床の家の中にテントを張った。

 彼は公有地の不法占拠者で、彼の出現は野生の猿やインコに溢れるジャングルに終末が近づいたことを意味する。過去の経験に照らすと、緑内障を患う70歳の老母・ソアレを取り囲むジャングルが、10年以内にカンザスやミネソタに見られるような数百万エーカーの大豆畑に変わることになる。

 テラ・ド・メイオ(ミドルランド)と呼ばれる3万2千平方マイルの処女雨林は、アマゾン東部流域の最後の原始的生態を持つ区域だ。ローマカトリック教会の社会福祉部門をなす牧草地委員会(CPT)のアルタミラ所長であるフェイトサは、ミドルランドが、ハンターの射程に入ったジャガーのように、開発の標的になったと信じる。

 「君がいま見ているのは、森林破壊と占拠のプロセスがどう始まるかということだ」と言う。「事の始まりは、通告と武力による地方住民の追い払いだ。そのあと、自分の土地だと主張するために、森にいくつかの道を開く。それから奴隷がやってきて、森林破壊、木材の違法販売、違法伐採だ。続いて病気もやってくる」。

 ソアレの家を取り上げた不法占拠者は、地域では誰も姓を知らない神秘的なセルソ博士のために働いている。彼は、ソアレの家から30マイルのジャングルを貫通する道路がまもなく開かれると信じている。そうなれば大豆販売はずっと容易になり、地価は急騰する。ともあれ、セルソ博士の手先の不法占拠者は、銃口を向けるという一番安上がりのやり方でジャングルの土地を乗っ取っている。

 不法占拠者が最近「立ち入り禁止」の標識を立てた土地に父が眠るソアレの隣人、60歳のオリベイラは、「それは私をとめどもない悲しさでいっぱいにする」と言う。投機者を引きつけるアマゾンのジャングル地域の辺鄙さは想像を絶する。一番近い町の光と医者は、むさくるしい川岸のアルタミラの町で、300マイルも離れている。40馬力の船外機を付けたボートで2日もかかる。ソアレや大抵の人が使うフェリーでは、一週間もかかる。

 それでも、不法占拠者たちのチームは、方々で売りに出す地所を測量し、標識を付け、これは自分のものだと主張する。土地にまつわる権利関係に問題はないと述べるウェブサイトに疑問をもたなければ、インターネットでミドルランドの雨林を購入できる。広告は土地は平坦だと強調する。言い換えれば、機械化された栽培と収穫のために平坦な土地を必要とする大豆に理想的ということだ。多くの買い手がいるに違いない。ジャングル1エーカーは、1?2年前には50ドルだったが、今は200ドルになっている。

 この土地が政府所有地であり、生態系保護区の候補地であることは問題にならないようだ。事実、アマゾンのジャングルを自分のものと主張し、切り開き、開発するのに必要とされる大部分の手段は違法なものである。問題になるのは、新たな不法占拠者が重武装しており、抵抗する者がいないということだ。

 ソアレの川岸の家から一日船を漕いだところにある人目につかない仮設滑走路の番をする男たちの野営地に短期間拘留された13歳のホセ・ペレイラ・ナシメントは、男は、コックさえ銃を持っていたと言う。滑走路は4年前にマホガニーの違法伐採者がジャングルの中に開いたが、最近の銃撃戦で大豆に夢中の不法占拠者に乗っ取られた。

 ブラジル政府は今年4月、02年8月から03年8月までに、開発のためにバーモント州の面積に等しいジャングルが失われたと発表した。70年代半ば以来、カリフォルニアの1倍半、アマゾン雨林のおよそ16%の面積の森林が破壊された。

 二酸化炭素を吸収し、地球温暖化に抵抗する地球の能力も、未だ発見されない植物・生物種とともに、ジャングルの切り払いで脅かされている。

 人類学者であり、ワシントンの「環境防衛」のアマゾン専門家として認められるスティーブ・シュバルツマンは、ミドルランドは既に失われつつあると警告する。

 ・・・。彼は、ミドルランドでのインタビューで、「この地域はアマゾン東部の無傷で残った最後の森林地域だ。ブラジル政府が介入しなければ、牛飼育、大豆生産、伐採がどんどん広がるだろう」と話した。

 マリナ・シルバ環境相は、インタビューでミドルランドが特に危険な状態にあると認めた。

 彼女は、「これが難題であることは疑いない」と言い、ブラジル現政府はミドルランドでの不法占拠、土地の窃盗、その他の違法行為を終わらせることを確約すると強調する。新たな衛星監視システムがどこで森林破壊が起きているかリアル・タイムで知らせると言う。

 東部アマゾンのサンタレム港のカトリック牧師、ファーザー・エディルベルト・M・セナは悲観的だ。

 「我々は河川の汚染、土地の荒廃に悩まされることになろう。彼らは樹を切り倒しているだけではない。根扱ぎにしている」と警告する。

 米国のインディアン問題局に相当する政府機関に雇われる68歳のアフォンソ・アルベス・ダ・クルスはアマゾンの大豆革命のあけすけな批判者だ。常に待伏せ攻撃の脅威にさらされており、動くのは夜だけだ。

 ミドルランドのイリリ河沿いのアララ・インディアン居留区で、蝋燭の光のもとで彼とインタビューした。彼は、「これは2年前に始まったばかりだ。今や地域全体が侵略されている」と語った。

 その中心的誘因となったのは、Br163として知られる1,071マイルの連邦道路を開く提案だ。この道路は、リオシンホ・ド・アンフリシオ河沿いの30マイルを通過、ミドルランドの大部分の西境を画する。

 北のマト・グロッソ州の大豆農場をサンタレムにあるアマゾン河の港につなぐこの砂利道は、「土地のない人に人のいない土地」を与えると約束した開発熱心なブラジル軍指導者により、数十年前にジャングルの中に開かれた。 

 道路の半分以上が、大部分はパラ州で未完成のままであり、11月から6月までの雨季には通行不能になる。 

 道路の開発に熱心で、周年トラック輸送を唱導するのは、サンタレムに新たな2千万ドルの大豆を輸出するターミナルを持つカーギルなどが作る共同企業体だ。

 南部のパラナ出身の大豆農民、フランコ・ダ・クルスは、「もし彼らが道を開けば、地価は上がるだろう。もし開かれれば、(穀物の)移動は3倍に増えるだろう」と予想する。彼は02年にサンタレム近郊で千haの所有権付き土地を買い、家族も移り住んだ。

 10年前には600万トンほどの大豆を輸出したブラジルは、03-04年の収穫から2千50万トン輸出することを目指している。これは、2千540万トンを輸出した米国に次ぐ。昨年83億ドルになったブラジル大豆の輸出は、今後2年の間に米国をしのぐと予想される。主な理由は、米国生産者は土地を使い果たしているが、ブラジルにはなお切り開き、利用する豊かなアマゾンのジャングルがあるということだ。

 ともあれ、不法占拠者はミドルランドの保護された先住民領地、地域の残り少ないマホガニーの立木に圧力をかけつづけ、世界の最も原始的で、孤立した部族を脅かしつづける。ブルドーザーが、70年代まで食人を行い、自製の弓矢、はだしで狩をしていたアララに属する180万エーカーに入る不法な砂利道を突き進んでいる。侵略者が一人のアララを殺したものも含むいくつかの戦いがあった。

 勇敢な隻眼の首長は、「彼らは我々の土地を取り上げようとしている」と言う。彼の言葉は、侵略者が最近どう言ったかを詳しく話す別の部族の指導者によっても裏付けられる。侵略者は、「だんな、インディアンに自分の土地はないのだ。インディアンは死に、白人がこの土地を占拠するのだ」と彼に言い放った。

 サンタレムの連邦検事のニロ・デ・アルメイダ・カマルゴは、サンタレムとその周辺の小農民も同様に脅迫されていると言う。

 彼によると、「彼等は土地から立ち去れ、さもないとここに埋めるぞと脅されている。これは農業の拡大ではない。これは農業の強奪だ」。彼は3月、明確で完全所有権を持たない者に対する連邦政府開発銀行からのすべての農業融資を停止するように求める訴訟を起こした。

 批判者たちは、カーギルが森林破壊の触媒になってきたと主張する。サンタレムのカーギル・ターミナルのマネージャーは、アグリビジネスの巨人は地域の農民に立ち上げ資金1100万ドルを提供してきた、このカネは土地所有権を持つ農民だけに貸され、大豆の現物で償還されていると主張する。ミネアポリスのカーギル世界本社では、スポークスマンのローリ・ジョンソンが、カーギルのターミナルと道路建設共同企業体はアマゾン東部の森林破壊を誘発しているという批判者の主張に反駁した。

 「このターミナルにそんなに大きな責任はないと考える。最初はマト・グロッソ地域とサンタレムの一部地方生産のために建設されただ。環境的に適切な方法で大豆生産を拡大する余地があると信じる」と言う。

 ターミナル近くの小さな農地を大豆栽培者に最近売った58歳の農民、ホセ・フランシスコ・マルセル・ド・オリベイラは同意しない。

「高木は雨をもたらす、それが切られたら何が残るか」と質し、「サンタレムへの道路がマト・グロッソで開かれたら、それはあらゆるものを破壊する」と言う。

2.アマゾン民有化法案
A Plan to Privatise the Amazon?,IPS,8.18

 メディアのニュースで、ブラジルアマゾンの「民有化」法の話が流れている。

 超国家主義グループは、なお起草段階にあるこの法律はアマゾンを外国資本の手に渡すものと主張するが、政府の役人は、議会で論争が燃え上がることが確実なこの立法は、ブラジルの領土が外国人の手に落ちるのを防ぐためものだと言う。Tierraméricaに対し、環境省の森林・生物多様性担当相であるパウロ・カポビアンコは、これは「領土に対する国の主権の強化」にかかわる問題だと語った。

 法案は三つのアプローチで州に属する森林の持続的利用と管理の法的枠組を創出することを提案する。

 三つのうちの二つは既に知られているものだ。すなわち、保全区域の創設とインディアン及び地域の他の「伝統的」住民による資源の共同体利用である。第三のアプローチが、限定された森林開拓のための免許を民間部門に与えるというものだ。カポビアンコによると、ブラジルアマゾン諸州の面積は500万平方キロに及ぶが、その25%が既に民間に手に渡り、29%が保全区域と先住民居留区になっている。

 法案は、伐採免許が出される区域は「厳格なフィルター」、持続可能な開発を確保するための基準を使って選ばれると述べる。また、最初の10年、許可を与える土地は利用可能な土地の20%を超えないようにする。カポビアンコは、伐採は熱帯林において既に有効性が証明されている政策により規制される、1ha当たり5本から6本、樹齢25年から30年の成木の3%に制限すると説明する。

 彼は、外資が支配するものであっても、ブラジルで操業するすべての企業が免許を申請できるが、土地所有権自体は州に残るから、民営化ではないと言う。

 この構想は数年前から論議されてきたもので、大部分の環境活動家は一般論としては受け入れているが、各論では保留、実施と規制に疑問を抱いている。名高い地理学者であり、保全論者であるアシス・アブサベルなどのナショナリストは糾弾の声を上げてきた。

 彼は、「私は反対する。これはアマゾンを占有するための戦略的プランの始まり、国際化の始まりだ」と語った。彼は、環境省が「外国の圧力」に屈し、「生物多様性を傷つけ、企業家、大部分は国際的な企業家だけに利益を与えることになる」モデルを採択したのだと言う。彼によると、アマゾンには、持続可能な開発を促進し、森林破壊と戦うために利用できる地方的経験がある。

 しかし、既存の監視や法律の執行は、年に230万ha以上の森林破壊を止められず、その大部分が農業のために開拓された。地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出の4分の3はアマゾンの焼き払いによるものだ。

 非政府組織の地球の友・ブラジルアマゾンのロベルト・スメラルディは、問題の根源はアマゾンの混沌とした法的状況にあり、土地のおよそ半分は州に属するが、登記されていないと言う。彼は、法案の主要なメリットは、時間がかかり、困難な仕事だが、州に対してその土地の所有権確立を強制することにあると語る。

 彼によると、現在は「不正な民営化」が起きている。これは、土地を事実上所有する者に2,499haまでの所有権を認めることを政府機関に許すルールの下で起きている。これが、「暴力や小農民の追い出し」を伴う土地乗っ取りを助長、真の所有者である州に何の利益も生まない民間の土地支配を拡大させている。さらに悪いことに、不正行為によって土地を我がものとする者たちは、土地を専用していると証明するために、しばしば焼き払いにより森林を破壊する道を選ぶ。

 彼は、提案された免許のメカニズムに二つの理由で賛成すると言う。

 第一に、アマゾンの持続可能な利用のために提案されたプランの99%は、「所有権の適切な登録の欠如」のために拒絶されており、既存の法的保証の欠如が企業家の「善意」を失わせ、「どんなことでもやってやろうとする」者を引き付けている。免許はこの障害を取り除き、監視を可能にする。

 第二に、「免許保有者がいい仕事をしていれば」、免許の延長・更新は長期的投資を刺激する。

 しかし、法案は、免許保有者が義務を守らない場合に免許料の即時回収を可能にする金融システムを通じての保証の基準とパラメーターを欠いている。さらに、固定された価格が一層有効な資源利用を促進するとき、生産と利潤に基づく免許保有者からの可変的支払いのシステムも必要と言う。

 一部環境活動家は、免許保有者に対する政府の監督が、アマゾンにおける他の州営事業でそうであったと同じように、不適切なものになることを恐れている。グリーンピースは、アマゾンの権力としての「ブラジル国家の有効なプレゼンス」を要求する。

 しかし、カポビアンコは、免許による収入が監督機関と監視員への支払いを助けるから、その恐れはないと言う。環境NGOのジャン・ピエール・ルロイは、法的に持続可能な利用技術は違法伐採よりも高くつくから免許が経済的に有効であるという保証はないと反論する。

 環境省のタッソ・デ・アセベドは、免許保有者は土地を購入する必要がなくなり、原料を法的に保証されて取得するから、カネを節約することになると応酬する。彼らは、設備のための貸付にアクセスできるし、木材加工や樹脂・果実などの副産物を利用する長期計画の策定も可能になると言う。