農業情報研究所

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インドネシア:森林消滅の危機、農民にも脅威

農業情報研究所(WAPIC)

2002.9.29

 かつてブラジルに続く生物多様性の宝庫と言われたインドネシアの森林が消滅の脅威にさらされている。

 世界銀行のレポート(Where have all the forests gone?,02.6.30)がインドネシア林業省(MoF)の最近の分析結果として示す数字によると、インドネシアの森林消失率は、1985年から1997年の間に、年間100万ha以下から少なくとも170万haとほぼ倍増している。20年の間に、スマトラの670万haとカリマンタンの850万haを含む2000万ha以上が消滅した。1997年にスマトラ・カリマンタン・スラウェシの3島に5700万haの森林が残っているが、最も豊かな木材供給源であり、高度の生物多様性をもつ低地の非湿地森林はその15%を占めるにすぎない。その他は、伐採困難な急傾斜の丘陵・山岳地域(66%)と沖積層湿地(15%)にあるものである。

 1985年から1997年までの年平均消失率を適用すれば、1997以来、さらに670万haが消滅していることになるが、1990年代半ばの森林消失は加速しており、実際にはそれ以上が失われているであろう。レポートは、これには、1997‐98年の森林火災が大きく影響しているが、火災は単発的な事故ではなく、数年にわたるエル・ニーニョが誘発したものであり、不法伐採が至る所で起きており、それが天然林を火災に弱くすることから、将来のエルニーニョの脅威は永続すると言う。現在の傾向が続けば、非湿地森林は、スマトラでは2005年まで、カリマンタンでは2010年までに消滅すると予想している。

 こうして、レポートは、健全な森林管理のために、既存の法律・規制・政策の執行のための抜本的手段を緊急に講じ、また新たな政策を確立する必要があると言う。それは、伝統的森林コミュニティ及び生物多様性などにかかわる科学界の森林管理への参加とともに、すべての関係者の参加した透明な過程を通さない森林転換を承認してはならないと勧告した。しかしながら、事態は一向に改善に向かっていないようである。人口は急増し(1950年代の5千万人から50年で2億1千万人へ)、かつて豊かであった天然資源は希少化、長期的利益を無視した目先の利益を求める開発が跋扈しているが、政治も行政も法制もこの変化に対応できていない。

 今月に入り、The JakartaPost紙が執拗にこの問題を追及している。12日には、伐採権保有者が事業に持続可能な原則を適用してきたかどうかをチェックするために林業省により指名された会社の一部と伐採権保有者との癒着の疑惑を報じた。疑われいるには、林業省により指名された12の会社の中の3社で、中には汚職にかかわったとして6年間の刑に服している「木材王」が含まれる。現在、監視機関が3社との契約を解除するように林業大臣に請求するための証拠を集めているが、今までのところ、十分な法的証拠は見つかっていない。会社のスポークスマンは、この木材王とされる人物は2000年に会社の株を売却しており、この会社がインドネシア・エコラベル協会(LEI)から認証を得た信頼できるプロフェショナルな評価企業だと言う。LEIも認証を認めているが、木材王は代理人を使って会社支配を維持している可能性があるとして、注視している(Forest auditors accused of links to timber convict,9.12)。

 19日には、森林管理にかかわる中央省庁間及びこれらと地方政府の「共謀」(協調の欠如)と不法伐採・密輸取締りへの財政支援の欠如が不法伐採抑制を困難にし、年に30兆ルピアの損失を招いていると報じた(Efforts to curb illegal logging hampered by collusion,9.19)。林業森林保護局のディレクターによれば、林業省を含む官僚間の共謀が不法伐採への挑戦を困難にし、また共謀は地方政府による行動を統制不能にする地方自治に関する政府の政策によって一層助長されている。地方政府は、森林保全に配慮することなく、自身の利益のために過伐を行なう傾向がある。伐採企業と官僚の共謀もこの努力を妨げているという。

 林業省と貿易産業省は、2001年、丸太輸出を禁止した。しかし、林業省森林計画局の専門家によれば、伐採企業は、多額のカネを払って不法木材の密輸を行なっている。船荷の60%から70%は法的に記録されていない。事態を一層悪化させているのが、森林を護り、不法伐採と密輸を防ぐために決定的に重要な森林レンジャーが熟練しておらず、装備(交通B・通信手段)も足りないことである。その数も足りず、1万人が1億2千万haの森林を監視しなければならない。この専門家によれば、不法伐採は警戒レベルに達しており、原因は高い木材需要に帰せられる。国内需要を満たすために利用可能なのは年に2,500万から3000万立法メートルだが、8,000万立方メートルの需要がある。合板産業が6,000立方メートルを必要としており、不法伐採以外にこれを満たす方法はない。

 不法伐採により、インドネシアの森林は、1990年から2000年の間に200万ha失われた。最近のデータでは、過去数十年の間に75%の天然林が失われ、現在は6,000万haが残るにすぎない。

 不法伐採抑制は停滞しており、年に30兆ルピアの損失に比べ、286ルピアが不法伐採で没収されただけである。政府は、不法伐採との戦争のために世界規模でのキャンペーンを行なってきた。今年6月のバリでの地域会合でアジア諸国はいかにして密輸を克服するかのコンセンサスに達し、ノルウェー、フィンランド、イギリス、中国を含む他の国との連繋を作り出した。ヨハネスブルグの地球サミットでは、環境相は腐敗の抑制と法執行の強化のための新たな三つのプランも定義した。林業省は伐採権保有者の行動を評価する独立機関の設置も計画している。権利保有者の大部分はルールを守っておらず、伐採区域の30%が深刻なダメージを受けている。海外に密輸される丸太は年に1,000立方メートルに及び、大部分は中国、シンガポール、マレーシア、ベトナム向けである。

 さらに21日には、政党が選挙活動資金を伐採企業に依存しているし、再植林資金の流用・横領の横行を考えると、総選挙が予定されている2004年まで、森林の状態は悪化を続けるだろうという環境運動家の主張を伝えた(Reforestation campaign plagued by gloomy political landscape,9.21)。すべての政党は、選挙運動の資金調達のために国の天然資源に助けを求める。政党は、伐採権保有者を含むビジネスの献金に依存している。インドネシアの森林の惨状は、少なくとも2004年まで続くであろう再植林の停滞により、倍化する。再植林の歴史は、そのための資金がしばしば流用され、横領されることにより挫かれてきた。別の環境運動家は、損傷を受けた森林の10%から15%しか回復できない再植林計画に警告する。林業省もこれを認める。過去5年に損傷された森林4,300万haのうち、700万haの即時回復が必要である。2001年再植林計画の目標は200万haであるが、34%が実現されただけである。貧弱な管理・植栽技術が主な拘束だという。

 26日には、森林管理にかかわる法令の不整合性のために、林業省、エネルギー・鉱物資源省、国家農地局(BPN)、地方行政が権限を争い、それぞれが自己の利益のために勝手に伐採許可を出すことが森林破壊の一因になっていると暴いた(Bad law blamed for forest damage,9.26)。森林管理には、林業省、エネルギー・鉱物資源省、国家農地局(BPN)、地方行政がかかわり、それぞれがときに矛盾する法令をもつ。森林管理に誰が責任をもつかで混乱があるというだけでは足りない。それぞれが一番責任があり、合法だと主張するから、事態は一層悪い。これにより、すべての法令が無意味になってしまう。さらに、国際林業研究センターで働く一科学者は、地方住民・原住民の参加を拒む法令の欠陥を心配する。森林保全の失敗は、原住民の生活を危機に陥れ、破滅させる。「森林ウォッチ・インドネシア」の関係者は、法令の改正と関係機関の協調の改善を要請しているという。28日には、森林利用に関する不整合で重複した立法のために、森林の伐採と鉱業利用を許可された森林面積は、国の陸地総面積1億9千100haを超える2億haに達しているという非政府組織の数字を伝えた。この面積は残存森林総面積1億400万haも超えている(Concession areas exceed the country's total area, Jakarta Post,9.28)。

 こうした立法の矛盾とそこから生じる森林破壊は、生物多様性のみならず、農民への深刻な脅威にもなっている。やはり28日付けの同紙によれば(New agrarian law needed to settle land disputes,9.28)、土地所有に関する不明確な法制のために、120万農民に関係する6000の土地紛争が未解決のままだという。1960年の農地基本法は、継承可能な土地所有への権利を認めるとともに、国家・個人・企業が所有権を要求できない共有地も定めた。しかし、公的証書が必要だと知らない多くの農民は、多くの規則や法律が、関連当局の同意による強制または低価格での企業の土地利用を許しているために、絶望的状態におかれている。そのために、ビジネス区域・ゴルフ場・住宅地域等への転用のための権利移転を容易に行なうことができる。国家土地機関(BPN)の長は、紛争地の歴史的追跡によって多くの土地紛争の解決を助けると言う。しかし、1960年農地基本法により設置されたこの機関の業務の70%は、この法律では律せられない森林伐採の管理だと認める。

 彼によれば、森林・水資源・鉱業法のような自然資源に関する他の法律を下位に置く包括法として1960年法を修正する必要がある。農地改革会議(KPR)も、原住民社会の土地への権利と土地利用のエコロジー的側面の保護のために、1960年法は修正が必要だと言う。BPNとKPAにより組織されたセミナーに出席した一議員は、来年には、土地紛争も律する一層包括的な農地・自然資源法が成立する望みがあると語っている。紛争は農民の政府への信頼を損ってきたから、早急に行動しなければならないというのである。

 世銀が言うように、問題解決のためには、すべての関係者の参加による、透明な森林管理が必要である。ヨハネスブルグ地球サミットはそれを確認した。政府はその方向に進みつつある。Jakarta Post紙のようなマスコミ報道がこの動きを加速する力も大きいであろう。しかし、森林消失までの期限はあまりに短い。