米国NPO パプア・ニューギニア林業の大部分が違法操業ー世銀・政府委嘱の新研究

農業情報研究所(WAPIC)

06.3.2

 米国ワシントンDCに本拠を置く国際非営利団体(NPO)・フォレスト・トレンド(Forest Trends)が3月1日、現在のパプア・ニューギニア(PNG)の営利林業の大多数が生態的・経済的に持続不能で、事実上違法であることを示す新たな報告書を発表した。

 Logging, Legality and Livelihoods in Papua New Guinea
  http://www.forest-trends.org/documents/png/index.php

 3部からなるこの浩瀚な報告書は、PNGの林業活動に関する63の個別研究報告に基づく。この研究は、PNGの森林管理は国と国民に長期的利益を与えてこなかったという広く見られる見方に応えたPNG政府の発案で始まった。研究は、政府と世界銀行により承認された考慮事項に従い、法律学者、林業者、経済学者、環境・社会科学者を含む独立専門家チームが行った。チームは、公式記録、伐採サイト、企業文書へのアクセスを許され、産業職員、土地所有者、政府官吏との広範なインタビューも行うことができたという。

 フォレスト・トレンドの報道発表資料によると、英国木材貿易連盟のアンディ・ロビィ氏は、報告はPNGの森林統治に関する客観的で信頼できる価値ある情報源となるもので、世界中の貿易業者が違法木材と合法木材を区別することを助けるという。広大な調査地域からは、主としてマレーシア所有企業が伐採する大量の木材が輸出されるが、主要輸出先には日本も含まれる。わが国関係者も、この報告に無関心でいることは許されない。報告書全文を読むには相当の時間がかかるから、ここではこの報道発表資料が伝える報告の主内容を紹介しておくことにする。

 External Reviews Find Most Logging in Papua New Guinea Illegal, Unsustainable and Providing Little Benefit To the State and Forest Community,06.3.1
  http://www.forest-trends.org/resources/press/PNG_3-1-06.htm

 概括

 ・PNGの林業は、天然林の伐採による丸太輸出に焦点を当てている。植林地からの生産はほとんどなく、加工施設の数も少ない。この部門はマレーシア所有企業が支配しており、主要市場は中国、日本、韓国である。多くの丸太は、ヨーロッパと北米での消費のために中国で加工されている。

 ・この報告には、8万3000人が住む317万haの面積で行われる14の伐採プロジェクトの研究が含まれる。これらの事業は、2004年だけで130万㎥の木材を生産し、その価額は7000万ドル(約81億円)に上る。14のプロジェクトすべてが違法操業であることが判明、木材収穫は持続可能なやり方で管理されていなかった。報告書によれば、「これら14のプロジェクのどれも適法と確認することはできず、一つのプロジェクトが辛うじて合法的伐採事業の主要基準の半分を満たしているだけである」。

 ・PNG森林当局の統治は基本的に欠如している。

 合法性

 PNG政府とその規制機関は持続可能な木材生産が達成できるように保証するすべての必要な政策、法律、規則を有するが、これらの法律は執行されていない。「産業はPNGの法律を無視することを許され、実際には多くの場合、優遇措置を受けている。他方、農村貧民は大部分が規制制度の埒外で操業する産業の社会的・環境的帰結の被害を蒙るままに放置されている」。腐敗[汚職]は報告全体の底流を貫くテーマである。

 フォレスト・トレンドの財政・貿易マネージャーの Kerstin Canbyは、「腐敗は地域の生活水準にも、土地所有者の長期的利益にも破滅的影響を与えている。土地所有者の基本的権利が無視されている。地方土地所有者と国にとって有益に見える伐採事業はほとんどなく・・・、PNGのすべての輸出の国際社会によるボイコットの危険もある」と言う。

 環境的持続可能性

 森林は持続的木材収量を維持するように管理されていない。森林資源台帳は一般的に信頼できず、個別プロジェクトで年々収穫を許されるレベルが余りに高く設定されており、森林地域が効率的に刈り払われている。

 社会的影響

 伐採は地方資源所有者の短期的現金収入をもたらしているが、これらは急速に消失に向かっており、一般的には永続的なインフラやその他のサービスなど、地域社会に持続的・長期的利益をもたらしていない。雇用やその他のスピンオフ(副次的)便益は、通常は外部労働者に刈り取られている。賃金と労働条件は、一般に非常に貧しく、一つのプロジェクトでは公式に「現代の奴隷制」と記されている。

 財政的側面

 現在の公式輸出価格は、産業が長年にわたり収益的でなかったこと、従って経済的に持続できないことを示しているが、伐採は続き、企業はなお新たな森林地域へのアクセスを求めている。不公正な移転価格設定が止まらず、企業の伐採価額過小報告を止めるための財政的刺激策もない。加えて、政府は林業の第一の受益者であり、年々3000億ドルの現金収入を受け取っている。これはサービスやその他の支援を通じて地域社会に還元されていない。

 輸出検査は輸出税を確保するための数量と木材種類を検証するだけで、森林事業の違法性と木材製品に付される法的文書には何の関係もない。従って、輸出品に付される文書は、出所が隠された違法木材を世界の政府と小売業者に受け入れられる合法的に生産された輸出品に”洗浄”(ロンダー)するだけだ。

 かくして、報告は、地域における活動の継続的監視、裁判制度を通じての訴訟を支援するための基金の設立、土地所有者の権利に関する啓発、オンブズマン委員会に対する支援、腐敗や木材産業の政治グループとの関係の調査の国際的支援など、基本的問題を改善するための一連の勧告を行う。

 フォレスト・トレンドの会長兼最高責任者のミカエル・ジェンキンスは、「伐採企業と政治的エリートの癒着が打ち壊されることが必要だ。そのための一つの方法は、土地所有者が彼らの権利を理解するのを助け、彼らが防衛できるように基金を立ち上げることだ」と言う。

 さらに、「中国などの輸入国はグローバルなリーダーシップを取る機会をもつ。2008年の北京オリンピックのための木材が合法的出所から来るように保証するパイロット・プログラムから始めて、グリーンな公共調達を確立すべきである。大量の木材製品を輸出するいくつかの政府(特にインドネシアとマレーシア)は、違法輸出品が輸入国国境で受け入れられないように保証する税関レベルでの共同に関心を表明した。中国はこのシステムをテストするインドネシアとマレーシアとの地域協定に加わるべきである」と言う。

 なお、グリーンピースに触発された英国木材貿易連盟の加盟企業は、2005年11月、PNGのビンタンゴール・ベニヤで表装された中国の合板に関する数百万ドルの将来の全輸入契約を、即刻停止することに合意、合法と検証された、望むべくは持続可能な出所からの代替ベニヤを探し出すことに合意したという。

 この報告を取り上げた3月1日付けのファイナンシャル・タイムズ紙の記事は、PNG政府報道官のコメントは得られなかった、マレーシア木材委員会は報告を読んでいないからとコメントを控え、いずれにせよ、国外の事業に判断を下すことはないだろうと語ったという。

 他方、グリーピースは大規模な破壊的伐採に注意をひきつけるために、PNG首都のポートモレスビーにレインボー・ワリアーU世号で入港した。グリーンピースによると、PNGの100万haの原生林の4分の1が伐採企業により毎年破壊されている、インドネシアからソロモン諸島に広がるアジア太平洋の”楽園”と呼ばれる雨林の1%が営利林業から保護されているにすぎない。グリーピース・オーストラリア・パシフィックの最高責任者・スティーブ・シャルホーンは、「破壊的伐採を止める手段が取られなければ、種が絶滅に至り、降雨のパターンが撹乱され、地球の気候も今以上に速く変わるだろう」と言う。

 Most Commercial logging in Papua New Guinea 'illegal',Financial Times,06.3.1,p.2.

  関連ニュース
 PAPUA NEW GUINEA:Rainforest Thrown Open to Illicit Logging,IPS,3.1
 http://www.ipsnews.net/news.asp?idnews=32341