ナノサイドは安全か 環境団体がナノテクの評価と監視を要求

農業情報研究所(WAPIC)

05.2.8

 「ナノテクノロジーとは、物質の特性を決定する構造・・・の少なくとも一つが、ナノメートル(nm:1メートルの10億分の1)で定義できる大きさを持った物質を創製すること、及びそれらの物質を組み合わせて、コンピューターや通信装置、微小機械などを創製する技術である」、「希望の物性を持つ物質をデザインして、原子・分子レベルで組立てる」技術だという。それは、「二十一世紀の情報技術、バイオ、環境などの発展を支える共通基盤の不可欠の技術体系、知識体系」(文部科学省:わかる入門講座:ナノテクの世界)として期待を集め、その安全性が問題にされることは滅多にない。僅かに昨年、英国のアカデミーが、その手放しの礼賛に警鐘を鳴らしただけだ(⇒英国王立協会等、安全で適切に規制されたナノテクノロジー開発を勧告,04,7.31;英国科学・工学アカデミー、ナノテクノロジーに警告 GM技術の教訓に学べ,04.7・26)。それも、ほとんど無視されたままだ。

 そんななか、英国に本拠を置き、文化的・生態的多様性の保全と持続可能な発展に取り組む環境団体・ETCAction Group on Erosion, Technology and Concentration)が昨年11月、各国政府・国際機関などに、ナノ・スケールの技術の食料・農業影響の評価・監視を要請する報告書()を発表した。それは、少なくとも農業バイテクと同様の論議に値するだろう。この問題は、わが国では意識されることさえないようだ。従って、遅ればせながら、その要点を紹介しておきたい。

 報告によると、ナノテクノロジー(以下、ナノテクと呼ぶ)は、食料・農業システムを急速に変えるために、急速にバイテク、情報技術に収斂しつつある。その影響は農業機械化や緑の革命の影響を超えるだろう。それは、痛めつけられた農業化学・農業バイテク産業を再活性化させ、遺伝子組み換え(GM)食品をめぐる論争よりも一層激しい「原子組み換え食品」をめぐる論争を発火させるかもしれない。しかし、いかなる政府も、その影響に取り組む規制制度をもたない。目に見えず、無規制のナノ・スケールの添加物を含む食品や栄養剤が既に販売されている。同様に、ナノ・スケールで処方された多くの農薬(ナノ農薬、ナノサイド)が市場に出ており、環境に放出されている。

 ナノテクは、農場から食卓までの食料チェーン全体に深い変化をもたらすだろう。ナノテクはあらゆることにかかわるから、ナノ特許は食料システム全体、そしてすべての経済部門に深い影響を与える。「組立て」生物学とナノ製品は、加工業者が要求する農産原料品に対する需要を大きく変える。ナノ製品は、何の規制も、社会的論争もなく市場に現われ、増えつづける。ナノテクとバイテクの統合は、健康・生物多様性・環境への未知の影響をもたらす。政府やマスコミは、情報・公開論争・政策を求める社会の要請に応えるのに8年から10年は立ち遅れている。

 政府、アグリビジネス、科学界は、公開論議と規制的監視がないままにナノテク製品が流通するのを許すことで、ナノ・スケール技術のあり得る便益を既に危ういものにしてきた。第一に、そして何よりも、農業者・市民・社会運動を含む社会が、ナノテクとその経済・健康・環境にとっての意味をめぐる広範な論議を起こさねばならない。予防原則を堅持し、製造されたナノ粒子を含むすべての食品・飼料・飲料(栄養補助食品を含む)は、これら物質の特別な性質を考慮した試験プロトコルや規制制度が設けられるまで、またそれらが安全であることが示されるまで、店頭から撤去され、新製品は販売が禁止されるべきである。農薬・肥料・土壌改良材などの農業資材のナノ・スケールの処方は、これらの製品を審査するための新たな特別規制制度が安全であるとするまで、環境放出を禁じられるべきである。また、政府は、社会が健康・環境・社会経済的影響の完全な分析をできるようになるまで、「組立て生物学」物質を伴う実験のモラトリアムを講じなければならない。議論を専門家の会合に閉じ込め、あるいはなナノ・スケール技術の健康・安全側面にのみ焦点を当てる政府や産業のいかなる努力も間違いである。一層広範囲の社会的・倫理的問題にも取り組まねばならない。

 政府間レベルでは、食糧農業機関(FAO)の農業・漁業・林業及び遺伝資源に関する常設委員会は、農民や小規模農民組織からのフィードバックを伴いながら、新たなテクノロジーを監視し、論議すべきである。FAOの商品問題委員会は、即時、農業者・食品安全・国家政府にとっての社会経済的意味の検討を開始すべきである。世界食糧安全保障に関する国連/FAO委員会は、農業テロリズムや食糧主権にとっての意味を論議すべきである。国連貿易開発会議(UNCTAD)や国際労働機関(ILO)などの他の国連機関は、FAOと協力し、ナノテクの所有権・世界食糧供給コントロール・商品・労働への影響の検討に加わるべきである。国際共同体は、国際ニュー・テクノロジー評価条約を通して新たなテクノロジーとその製品を追跡し、評価し、監視することに専念する機関を設立すべきである。

 科学者・技術者は、人々が必ずしも望んでいたわけでもないGM食品・作物を発明、人類に多大な恩恵をもたらすと売り込む。だが、自ら生み出したこれらがもたらす結果・影響を制御する術は知らない。GM食品・作物がもたらす甚だ厄介な問題も未解決なままに、次々と新たな問題を作り出すことしか知らない。もう結構だ。こんな発明は打ち止めにしてもらいたい。彼らのお陰で、世の中住みにくくなるばかりだ。どうせ長くない命だが、ナノテク全盛時代まで生きようとする意欲も薄れる。