ナノ粒子吸引で中国印刷工場の女子工員7人が肺疾患 2人は死亡 中国チームの研究

農業情報研究所(WAPIC)

09.8.29

  中国人研究チームが、中国の印刷工場の二人の女性労働者の死因がナノ粒子の吸引であるとする研究を発表した。ネイチャー・ニュースによると、この結論に疑問を呈する研究者もいるが、研究は活発な議論の引き金となった。

 Y. Song et al.,Exposure to nanoparticles is related to pleural effusion, pulmonary fibrosis and granuloma,European Respiratory Journal,Published online before print August 20, 2009(Eur Respir J 2009, doi:10.1183/09031936.00178308);Abstract
 
Nanoparticle safety in doubt,Nature News,8.18
  http://www.nature.com/news/2009/090818/full/460937a.html

 この研究は、息切れや悪性胸水で入院、うち2人はのちに死亡した7人の婦人印刷工場労働者に関するものである。これら患者のすべてに、免疫システムが肺から異物を排除できず、肺上皮に大量の液が貯まっていることを示す症候が見られた。研究によると、婦人たちは、ナノ粒子からなるプラスチック(ポリアクリレート・エステル)のペーストで被覆されたポリスチレンを高温に熱することで発生する蒸気を吸引した。仕事場の換気装置は壊れており、壊れてから5ヵ月後から症状が現れた。マスクもたまにするだけだった。

 婦人たちの肺とプラスチック・ペーストからは直径約30ナノメートルの粒子が見つかった。仕事場からは、壊れた換気装置のシャフトも発見された。肺上皮細胞はナノ粒子でいっぱいになっていたから、病気が微粒子や蒸気によるものでないことは明らかという。

 ウッドロー・ウィルソン国際学術センター(ワシントンDC)のナノテク専門家であるアンドリュー・メナード氏は、患者に見られる症状は、ナノ粒子に暴露された動物に見られる症状に"似ている”と言う。また、肺を取り巻く部分のダメージは、より大きな粒子によるものではない、これは肺の中にとどまる傾向があるからだとも言う。しかし、研究はどんなナノ粒子が関係しているのか、あるいはその濃度はどれほどかを確認していないから、何が関連しているのか、病気を悪化させる別の要因があるのかどうか、言うことはできないと言う。

 エジンバラ大学の呼吸器毒性学者であるケン・ドナルドソン氏は、ナノ粒子犯人説を疑う。症候は化学物質暴露の典型的症候の方に近く、患者が扱ったプラスチック物質が犯人である可能性が高い、仕事場の広さと換気の欠如から彼女たちが曝されたと思われるレベルでは、その毒性は非常に高いからだと言う。

 アバディーン大学のアンソニー・シートン環境・職業医学名誉教授は、研究はナノ粒子の毒性学の洞察というより、”保健・安全手続きの完全な不利履行”の一つの例だと言う。


  直接的な病因・死因が何かということについては議論があり得るのだろう。しかし、ナノ粒子が肺の内部にとどまらず、肺上皮細胞がナノ粒子でいっぱいになったというのは、何とも薄気味悪い話である。それは”保健・安全手続き”が不備だったからなのか、ナノ粒子を扱う職場ではどこでも起き得ることなのか。もしそんなことが起きれば、どんな健康影響があり得るのか。これは、早急に解明しなければならない問題だろう。

 この研究の意義を測りかね、ためらううちに紹介が遅れたが(毎日新聞は8月22日付けで簡単に報じている→中国:印刷工場で「ナノ粒子吸い死亡」 医師が発表、やはり看過していい問題とは思えず、敢えて紹介することにした。