農業情報研究所環境原子力東電福島第一原発事故関係2011年3月30日 (31日追補

放射能が日本に拡散 ”Nature News”の記事の要約紹介

 政府、東電、テレビジャーナリストや専門家による時々刻々の報告や解説にもかかわらず、すべては細切れ、福島原発事故の全体像、収束への展望、影響と対応に関する展望はまったく見えない。どこで暮らせば安全なのか、危険なのか、何を食べれば安全なのか、危険なのか、このような最低限知らねばならないことに関してさえ、国民を納得させる説明がない。こういうときは、例によって、海外情報の方がよほど役に立つことがある。もちろん、日本から発せられる情報・知識のすべての穴を埋めるわけではないが、この原発事故の影響の全体像を見極めるための一つの手助けになるかもしれないと、次のNature New誌の最新記事を日本語で要約・紹介する。

 Radioactivity spreads in Japan,Nature News,11.3.29

 放射性物質降下は局地的だが、一部地域は長期間存続の可能性

 この一週間、福島第一原発について明るいニュースはほとんどなかったが、原発からの放射性同位元素放散に関する最新データは、今までのところ、かすかな望みを与えている。

 モニタリングの努力が示すところでは、原子炉は大量の放射物を大気中にまき散らしているとはいえ、危険な汚染は、大部分、原発北西部の狭い地域に局限されている。放出量は最初の爆発の直後より減ってもいる。が、放射性同位元素放出は続いており、そのトレンドは予測不能、専門家は情況の評価に苦闘している。イギリス・ポーツマス大学の環境物理学者、ジム・スミスは、「十分なデータがない」と嘆く。

 ただ、既にはっきりしていることがある。海洋に囲まれた日本の地理が事故の影響を減らすのに決定的に重要な役割を演じているということだ。オーストリア中央気象・地球力学研究所が先週明らかにしたように(福島原発からのセシウム137、ヨウ素131の排出量はチェルノブイリレベルに近づいている)、福島原発から出た放射能の大部分は風が太平洋上に運び去っている。放射能雲は北半球全体に拡散したが、日本以外の国に到達したヨウ素131やセシウム137のような放射性同位元素の量は無視できるレベルにとどまっている。

 福島の放射能雲は損傷を受けた原子炉からの排出でなお養われているが、これが止まり、雲が散るときには、日本に対する長期的影響は、どのような放射性同位元素が、どれだけ地上に沈積したかにかかっている。どの地域をどれだけの期間、定住や農業のための立ち入り禁止にするかは、特に半減期が30年のセシウム137の濃度によって決まるだろう。

 国際原子力機関(IAEA)の27日の報告によると、日本の47県中の16県の1日・1平方メートル当たり地上沈積量はヨウ素131が860ベクレル、セシウム137が100ベクレルとなっている。また、18日から25日までの間を通じ、28県の汚染は増加していない。しかし、最高度の汚染は山形県内で記録され、汚染レベルは葉物野菜の栽培が許される限度―ヨウ素131が7500ベクレル、セシウム137が1200ベクレル―を超えている。もっと高レベルの汚染が予期される福島県についてはデータがない。

 これらのデータは、米国エネルギー省が行った地表放射能の航空モニタリングの結果とも符合する。3月22日のこの地域のサーベイは、ときに原発から内陸に向かう風が吹いたにもかかわらず、3月17-19日のサーベイと比べて放射能沈積が大きくは進まなかったことを示している。これは、大量の放射性同位元素がさらに降り注ぐことがなかったことを示唆している。

 サーベイは、地上の最高放射能レベル(1時間当たり0.125ミリシーベルト、  mSv h−1)は、原発から北西に延びる40 kmの狭いバンドに限られている。数週間継続して曝されると誰にでも健康悪影響を引き起こす可能性のある 0.3 mSv h−1を超えるところはどこにもない。それでも、吐き気、抜け毛、白血球減少など放射能疾患の兆候を引き起こすに十分な1000 mSvの年間被ばく量に達するいくつかのサイトがある。

 半径20km以内の避難地域の大部分は0.012 mSv h−1未満である。この場合でも、年間被ばく量は、イギリス原子力産業労働者に許される上限の5倍に相当する100 mSvに達し得る。降下物の細切れ分布は風のパターンとと放射性同位元素を地表に洗い落とす雨を反映している。スミス 氏は、全体としてみると、データに「救われる」、福島周辺の汚染はチェルノブイリ周辺で見られた汚染に比べるとはるかに低度だからだと言う。

 とはいえ、退避地域の外にも高汚染地域が見られる。日本文部科学省によると、原発から40km北西の場所で3月20日に採取された土壌のサンプルは、1 kg当たり163,000ベクレルのセシウム137、同じく1,170,000ベクレルのヨウ素131のレベルを示している。これは、作物栽培が許される典型的な汚染レベルの範囲―数百ベクレル―をはるかに超える。スミス 氏によれば、セシウム137の濃度が10万ベクレルを超える地域があれば、これら地域からの退避は永久的になる。彼は、セシウム137の詳細な分布図が人々が緊急に退避すべき場所を特定するのを助けると言う。

 多くの放射能の大洋への拡散は、明らかに内陸の状況の悪化を防ぐのに役立つ。しかし、それは固有の問題ももたらす。文部科学省の先週の発表によると、原発から約30kmの沖合の海水のヨウ素131とセシウム137の濃度が、それぞれ1リットル当たり24.9–76.8ベクレル、11.2–24.1ベクレルを示した。これらの濃度は低下しているように見えるが、今週のIAEAの報告によると、原発排水管近くの放射能レベルは、ヨウ素131が74,000ベクレル、セシウム137と137が合わせて12,000ベクレルに上がっている。原発廃水の放射能の勧告値最大レベルは4000ベクレルである。

 原発事故の結果、日本は福島原発から20km以内でのすべての漁業を禁止した。海藻その他の海洋生物は放射性同位元素を海水から集めるだろう。食品チェーン全体の輸送の監視が必要になる。スミスは、海洋による巨大な希釈が汚染レベルと影響を制限するとはいえ、海洋システムの重大な汚染は明らかだ」と言う。

 3月27日、一部区域では致死的な1,000 mSv h−1もの放射能を帯びた水が原発の地下構造物に溢れ出すという新たな脅威が生じた。水は海面から70メートルほどのトレンチに浸み出しており、地域の海と地下水の重大な汚染を予感させる。

 原発が放射性同位元素を放出しつづける限り、福島原発による人と環境の損失は膨らみ続ける。排出が止まれば、大気の放射能レベルは急速に下がる。短命の放射性同位元素の地上でのレベルも同様だ。しかし、原発が制御されるまでには何週間、あるいは何か月もかかり、長命の放射性同位元素に汚された日本北部の一部地域が住めるようになるまでには何年もかかる。 


 (3月31日追補)

 ちなみに、チェルノブイリ事故がもたらしたものを20年にわたって研究してきたスミス氏は、福島原発の廃炉までには、炉心の損傷の度合いによって異なるが、数十年を要するだろう、健康リスクをめぐる不確実性は、放射能による肉体的危害を上回る心理的 危害をもらたす恐れがあると言う。

 チェルノブイリでは1986年11月に大急ぎで建てられたの石棺 が事故機を覆っているが、その石棺自体がボロボロになり、赤いカビの筋が入り、毎時5マイクロシーベルトの放射能が漏れだしている。崩れる前、2015年までに100年はもつ高さ105m、幅257mの鉄のアーチをかぶせ 、その内部でロボットのようなクレーンを使って2065年までに石棺と原子炉を解体する 予定だというが、鉄のアーチ自体の構築が資金不足で遅れている。チェルノブイリ25年、未だに廃炉=解体に着手もできないでいる。

 その上、原子炉冷却システムからは今も月に30万リットルもの冷却廃水が出され、これを貯めておく 地域の地下水面より高いとこいろに造られた22㎢もの広大な池は 溢れんばかりになっている。この水は長命の放射性物質、セシウム137やストロンチウム90を含む。いずれは川に放出、川の水で汚染を薄めるしか手はない。微細な放射性沈殿物の影響が分からないために単純に水位を下げることもできない という。

 炉心からヨーロッパの20万㎢、イギリスの果てまで飛び散った6.7トンの放射性物質の健康リスクも、未だに分からないことばかりだ。事故の収拾に当たった労働者134人が急性放射能疾患と診断され、28人が4ヵ月以内に死んだ。そのほかの19人は様々な原因で死に、生き残った労働者の多くは白内障や皮膚障害を負っている。当時子供で、旧ソ連地域に住んでいた人々には、今までに甲状腺がんの5000以上のケースが見つかっている。これは通常の10倍のレベルだ。大部分は放射性ヨウ素に汚染されたミルクが原因だ。最新の研究結果は、甲状腺がんの発生率は被ばく量に比例し、特に若い人と貧しい食事のためにヨウ素が欠乏している人のリスクが高いことを明らかにしている。

 しかし、ヨーロッパの広範囲に住む人々に対する影響はほとんど分かっていない。かつて、チェルノブイリ後に見られる低レベルの長期被ばくのリスクは、原爆から出る強力な放射能へ一回限りの被ばくのリスクより小さいと考えられていたが、両者のリスクはほとんど変わらないという証拠が蓄積されつつある。これが確認されれば、低レベルの放射能に毎日曝される人々の健康リスクは、以前考えられていたよりもずっと大きいことになる。

 Chernobyl's legacy,Nature News,3.28
 http://www.nature.com/news/2011/110328/full/471562a.html

 「日本北部の一部地域が住めるようになるまでには」、少なくとも「何十年」かかかるということであろう。