農業情報研究所環境原子力東電福島第一原発事故関係2011年10月13日

福島県玄米放射性物質調査完了 規制値超えなしで続く消費者、生産者の不安

 12日、福島県の2011年産玄米の放射性物質調査が完了した。放射性ヨウ素の検出例は皆無、検査された1174件のうち210件(18%)で放射性セシウムが検出されたが、国の暫定規制値である1キログラムあたり500ベクレルを 超えた例はなく、すべての市町村で出荷可能となった。

 参照:2011年産米放射性物質検査結果(農業情報研究所)

 福島県知事は早速「安全」宣言を出したそうだが、消費者は、そして生産者も複雑な心境だろう。

 消費者にしてみれば、暫定規制値を下回ってといって安心できるわけではない。 暫定規制値は、それを下回れば健康影響がないと保証できる「安全基準値」ではない。それは、「飲食物中に放射性物質が健康に悪影響を及ぼすか否かを示す濃度基準ではなく、緊急事態における介入のレベル(防護対策指標)、言いかえれば、防護対策の一つとしての飲食物摂取制限措置を導入する際の判断の目安とする値である」(飲食物摂取制限に関する指標について 原子力安全委員会 2010年3月6日)。そして、この意味での「安全基準値」は、これを設定するために必要な「内部」被ばくの健康影響に関するいかなるデータも欠いている。結局は、児玉龍彦教授が言うように、「少なければ少ないほどいい」とうほかない。その上、多くの東日本住民は、そうでなくても、いつ、何処からくるとも分からない避けようのない外部被ばくの脅威に怯えている。余計な、すなわち避けようとすれば避けられる可能性のある内部ひばくは避けたいと思うのが当然だ。

 チェルノブイリ事故を受けてウクライナ保健省が定めたセシウム137の規制値は、パン・パン製品20ベクレル、野菜40ベクレル、果物70ベクレル、肉・肉製品200べクレル、魚・魚製品150ベクレル、乳・乳製品100ベクレル、幼児食品40ベクレルなどだ。この規制値内の食品ならば、それぞれを標準的な量だけ日常的に食べ続けても食品からの内部被ばく量が 年間1ミリシーベルトを超えないという(日本の暫定規制値設定に際しては、年間被ばく限度は5ミリシーベルトとされている)。

  *オレグ・ナスビット;今中哲二 「ウクライナでの事故への法的取り組み」 
  http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/saigai/Nas95-J.html

 ベラルーシの民間の研究機関、ベルラド放射能安全研究所のウラジーミル・バベンコ副所長は、原発事故を受けて日本政府が設定した食品や飲料水の放射性物質の基準値が甘すぎ、「まったく理解できない」とあきれている。例えば、日本では飲料水1キログラム当たりの放射性セシウムの暫定基準値は200ベクレルだが、ベラルーシの基準値は10ベクレルだ。ベラルーシでは内部被ばくの影響を受けやすい子どもが摂取する食品は37ベクレルと厳しい基準値が定められているが、日本では乳製品を除く食品の暫定基準値は500ベクレルで、子どもに対する特別措置がないことも問題視、「37ベクレルでも子どもに与えるには高すぎる。ゼロに近づけるべきだ」と指摘したということだ。

 日本の食品基準は甘すぎ ベラルーシ専門家が批判(共同) 産経ニュース 11.10.12

 日本政府が現行規制値でも安全と消費者を納得させるためには、これら国際的基準の「非科学性」を立証して見せる必要がある*。それなしで消費者を安心させるためには、今回の検査で明らかになった福島県の玄米の放射性セシウム濃度が、「過去にわれわれが体験し、健康被害報告のなかった領域」(東北大大学院農学研究科の南條正巳教授玄米セシウム汚染濃度 福島、国係数の1割以下 河北新報 11.10.7にとどまる必要があった。しかし、検出例の平均濃度は 県全体では29.8Bq/kg、伊達地区で41.2Bq/kg、県北地区で31.0Bq/kg、安達地区で31.2Bq/kg、不検出の場合の濃度をゼロとした全検体の平均濃度も県全体で5ベクレル超、伊達地区で22Bq/kg、県北地区で13Bq/kg、安達地区で7Bq/kgほどであった。ところが、事故以前の日本全体の玄米放射性セシウム平均濃度は、1963年に11.5Bq/kgを記録したあと、1969年からはずっと1ベクレル未満にとどまっている(下図)。福島県の玄米の放射性セシウム濃度は、特に伊達地区、県北地区、安達地区では、過去にわれわれが体験し、健康被害報告のなかった領域」をはるかに超えている。

 

 それにもかかわらず、全市町村で出荷可能とされたことは、当面は生産者にとっての救いだろうか、長期的に見れば不幸の始まりでもある。南條教授が言うように、土壌から玄米への放射性セシウムの移行係数は非常に小さく、土壌は過去最高レベルの汚染に至ったが、玄米の汚染度は大気圏核実験が盛んだった1960年代のピーク時とほぼ同じ水準だ(前述のように、これは真っ赤な嘘である)という話になれば、生産者(そして行政は)は農地の除染をないがしろにし、来る年も来る年も、今年は大丈夫か、果たして売れるだろうかと不安をかかかえ、場合によっては危険なレベルの放射線にさらされながら、汚染農地での耕作を続けることになる。さらに、恐らくは玄米の数倍の濃度に汚染される稲わらの発生で、毎年毎年、その処分に往生することになる。今までのような収穫の秋の喜びは味わえなくなるだろう。生産者と行政も、こう いう現実を直視し、新たな選択肢を探るときではないか。 長期的選択肢はさまざまあろうが、少なくとも今年は、”風評被害”に文句をつける前に、全農福島が計画して言われるように、出荷米のすべてを検査、少しでもセシウムが検出されたものは売らないという販売戦略が考えられよう。

 Rice Farmers in Japan Set Tougher Radiation Limits for Crops to Spur Sales,Bloomberg,11.10.13(こういう情報を日本のマスコミは何故伝えないのだろうか

 *そのために、広島・長崎の原爆被爆者の追跡調査で100ミリシーベルト未満の(瞬時)被ばくの健康影響(癌のリスクの増加)は確認されないなどと喧伝されてきた。しかし、それと食品を通しての内部被ばくの健康影響は無関係である。食品安全委員会作業部会は食品からの内部被ばくの影響に関するデータはないとして、外部被ばくを含めた生涯の累積被ばく線量(日本で年平均1.5ミリシーベルトとされる自然被ばくや医療被ばくを除く)の許容上限を100ミリシーベルトとしたが、原子力情報室の渡辺美紀子氏の計算によると、暫定規制値の汚染レベルの食品や飲料を、原子力安全委員会が一日あたりの目安とする量だけ摂取すると、年間の被ばく量はヨウ素とセシウムだけで12.9(成人)〜26.4(幼児ミリシーベルトに達する。幼児では4年弱、成人では8年弱で100ミリシーベルトに達してしまう。その上、そもそも生涯累積被ばく量が100ミリシーベルトまでなら大丈夫なのかという問題もある。

 「遺伝子を研究することで、様々な病気が発症する仕組みを解き明かし」、また「アイソトープを患者の体内に入れて、癌の治療をする研究もして」きた 東大病院の内科医・児玉龍彦教授によると、累積100ミリシーベルト以下の「低線量被曝」が健康被害をもたらすか否かという、今巷間で展開されている議論には、あまり意味がない。これまで、遺伝子への影響は「確率的影響」でみるしかなかったので、「低線量被曝」が健康に影響を与えるという統計結果が証明されない限り、100ミリシーベルト以下は問題ないとされてきた。「しかし、このシーベルトの議論は例えば甲状腺に濃縮されるのか、膀胱の細胞が被曝するかで一律に議論してもしようがありません」。「特定の部位のDNAの損傷をくりかえせば、それはほぼ確実に癌を発生させます」。「そうであれば、政府と国民は内部被曝は少なければ少ないほどいいという考えに立つべきではないでしょうか。大量の広範囲にわたる放射能汚染に対して、この数値以上は危険だ、いやここまでなら大丈夫だといった、受動的な防御の姿勢で防げる被曝には限界があります。大量に撒き散らされた放射性物質の「総量」を減らし、できるだけ身の回りの放射線レベルを下げるために除染を行っていくのが今、取るべき最善の方法なのです」(児玉龍彦 「除染せよ、一刻も早く」 『文芸春秋』 2011年10月特別号 100-101頁)。