農業情報研究所環境原子力東電福島第一原発事故関係2011年11月26日

福島県 放射性セシウム暫定規制値超の玄米が続出 土壌汚染は人が住めないほどに深刻ではないか

 福島市大波地区の農家が生産した玄米からの暫定規制値超の放射性セシウム検出(11月16日)を受けて実施されている福島県の米の放射性物質緊急調査の結果第1報が25日に発表された。

 調査実施地域は福島市旧小国村(大波地区)で、34の農家(総稲作農家数は662)の864の検体を調査した結果、28戸からの864の検体は暫定規制値以下だったが、3戸の検体の一部(総検体数105のうちの34)、別の3戸の検体すべて(97)から暫定規制値超の放射性セシウムが検出されたという。

 暫定規制地値超米農家の内訳は次のとおりである ( Fは16日に最初に規制値超が発見された農家)。    

農家

検体数

超過検体の最高・最低値(Bq/kg)

総数 超過数 最低 最高
A 8 2 700 710
B 67 6 550 750
C 30 26 540 1,110
D 45 45 650 910
E 24 24 970 1,270
F 28 28 590 670
6戸 202 131 540 1,270

 県は基準値を超えた米は隔離・保管するというが、規制値超の放射性セシウムが検出された原因の究明は手つかずのようだ。マスコミは、「県によると、新たに確認された5戸は、最初の農家から約1〜2キロの距離にあり、山あいだったり、道路沿いだったりとさまざま」(例えば複数農家で基準超 福島市大波地区の生産米 福島民報 11年11月26日)と報じるだけで、何の手ががりも得られない。原因の究明には、当該水田土壌の放射性セシウム濃度と、土壌中の放射性セシウムの稲への移行割合に大きく関係する土壌の性質に関する情報が不可欠だが、これに関しては、今までのところ何の情報もない。県は情報開示を故意に怠っているのだろうか。あるいは調査ができていないのだろうか。

 しかし、今となっては、これは米の放射性セシウム濃度の調査以上に重要な意味をもつ。というのは、玄米のこれほどの高濃度汚染は、土壌の性質如何にかかわらず、農業者・近隣住民に危険を及ぼすほどに水田土壌が汚染されているのではないかと疑わせるからである。国も、県も、マスコミも、生産された米の安全性ばかりに気を配り、この問題を完全に看過している。許されてはならないことだ。

 土壌から稲(全体)に移行した放射性セシウムの20%が玄米に含まれると想定しよう。これは、多分、多めの想定である。とすると、上の表に見られる最低濃度(540Bq/kg)の玄米が採れた稲は、全体として、最低2,700(540×100/20)Bq/kgの放射性セシウムを含むことになろう。最高の1,270Bq/kgの玄米が採れた稲は6,350Bq/kgの放射性セシウムを含むはずである。

 ところで、稲は土壌中の放射性セシウムのどれほどを吸収するのだろうか。100%吸収するとすれば、土壌の放射性セシウム濃度は上記の稲全体の濃度に等しくなる。しかし、100%吸収はあり得ないだろう。50%(農水省が想定した、実際には大きめの玄米への移行係数0.1に相当する)吸収ということなら、上の数字はそれぞれ5,400Bq/kg、12,700Bq/kgとなる。

 ただし、この移行係数も高すぎるかもしれない。福島県の水田土壌の50%を占める灰色低地土から玄米への放射性物質の移行率は0.5%から1.5%だったという福島県農業総合センターの試験研究結果がある(福島の粘土質土壌から玄米への放射性物質移行率は微小 ヒマワリの除染効果も微小 福島の試験研究)。その真ん中の1%という移行率(移行係数0.01)を想定すると、この地区には玄米の濃度の100倍、つまり54,000Bq/kgから127,000ベクレルの濃度の水田土壌が存在することになる。

 そして、大波地区の当該水田の土壌は「細粒灰色低地土」か、「礫質赤色土」かのどちらかだ(→福島で暫定規制値超の玄米 礫質土壌が関連?土壌・玄米調査の強化が不可欠福島で暫定規制値超の玄米 礫質土壌が関連?土壌・玄米調査の強化が不可欠)。「礫質赤色土」なら移行係数は相当高いだろうが、「細粒灰色低地土」だとすると、この水田土壌の放射性セシウム濃度は5万Bq/kg超から10万Bq/kg超にも達している恐れがあるということになる。これは、地表1mの空間線量率に換算すれ ば毎時9マイクロシーベルト超から18マイクロシーベルトというとんでもない値になる*

 こんなところで年中野良仕事を続ければ、年間被ばく線量は悪名高い”20ミリシ―ベルト”も越える恐れがある。それ以上に怖いのは、耕作で舞い上がる土ぼこりを吸い込むことによる内部被ばくである。危険は農地周辺に住む人びとにも及ぶだろう。

 ここは、もはや安心して農業生産活動と生活を営める場所ではないのかもしれない。米の安全性以前の問題だ。米の隔離・保管だけではない。住民の移住も視野に入れた対応を考えるべきだろう。米が売れなければ、いずれそうならざるを得ない。

  *文部科学省の放射線量等分布マップ拡大版でみると、大波地区に近い伊達市の福島市との境辺りに、地表1mの空間線量率が毎時1.9〜3.8マイクロシーベルト、セシウム沈着量が60万〜100万Bq/u(12,000〜20,000Bq/kg)の”ホット・スポット”があるのが認められる。とすると、この地区の玄米移行係数は農水省想定(0.1)の半分程度とみるのが妥当かもしれない。それでも、ここで毎日、無防備で野良仕事を続けるのは決して安全とはいえない。例えば、一日平均4時間、年に200日働くとすれば、(外部被ばくだけでも)年間被ばく線量は1.5〜3ミリシーベルトになる。

 追記

 今年の稲作付の可否をするために県が行った農地土壌の放射性物調査では、福島市については「松川町浅川」の1地点の水田土壌が調べられただけである。そこではセシウム134が1,222ベクレル、セシウム137が1,431ベクレル、計2,653ベクレルが検出され、5,000ベクレルを下回った。福島全県でも5,000ベクレルを上回ったのは飯舘村2地点の9,644ベクレルと15,031だけで、原発から半径20キロメートル以内の地域と計画的避難区域、緊急時避難準備区域を除く全県での稲作付が許された (ただし、これらの計測値は表面から15センチの深さまでの土を混ぜ合わせたものの計測値で、混ぜ合わせなければ放射性セシウムの90%以上は地表から5センチの範囲にとどまっているのだから、耕作に取りかかったときの地表から5センチまでの土壌の濃度をほぼ3倍に薄めていることになる)。

 http://www.pref.fukushima.jp/keieishien/kenkyuukaihatu/gijyutsufukyuu/05gensiryoku/230406data.pdf

 今回の事態の遠因は、このような余りに杜撰な土壌調査に基づいて作付を許可したことにある。従って、今回の事態を招いた責任は国と県にある。ただ、もっと稠密な検査が行われていたとしても、今回の事態が避けられたかどうかは分からない。水田土壌の放射性セシウム濃度は田んぼ一枚ごとに大きく変わる可能性があるだけでなく、時とともにも変わるからである。代かき・田植えのために引いた水が山野に落ちた大量のセシウムを田に運び込んだだろう。水は、梅雨の時期には図らずとも田に流れ込む。田は河川・湖沼とともに、山野に降った放射性物質が集積する湿地の一つをなす。これを考慮することなく許可を出せば、今年の事態は繰り返されることになるだろう。