農業情報研究所環境原子力東電福島第一原発事故関係2011年12月28日

福島県 米放射性セシウム濃度規制値超の要因 土壌は高濃度汚染 空間線量率は毎時1.4μSv超

追補:2012年1月7日

 新聞報道によると、福島県と農水省が25日、暫定規制値を超える放射性セシウムを含む米(玄米)が発生した要因の調査中間報告を公表したそうである。 報告書本体を見ることができないので、詳しいこと、正確なところは分からないが、新聞報道で見るかぎり、調査は相当難航しているようだ。

 規制値超の米は、県の本調査完了後、福島市旧小国村大波地区の生産農家の依頼を受けたJA新ふくしまが11月14日に簡易分析器で調べたのをきっかけに見つかった。県はこれを受け、福島市大波地区で生産されて、すでに袋詰めにされて保管されいた米の全袋検査、特定避難勧奨地点が存在する地域等の1戸当たり1点を調査する全戸検査の「緊急調査」に乗り出した。12月18日に完了した大波地区の全袋検査では、135戸の農家の5066点が検査され、283点から暫定規制値(500Bq/kg)を超える放射性セシウムが検出された。放射性セシウム最高濃度は1,270Bq/kgで、1,000Bq/kg以上も83点を数える。全戸検査では、12月22日までに18旧市町村の351戸が生産した米355点が検査され、最低510Bq/kg、最高1,540Bq/kgの米を含む11点の規制値超米が見つかっている2011年産米放射性物質検査結果)。

 このように、さまざまな水田からの米が混じりあった米袋の中から見つかる規制値超の米は、それが生産された水田を正確に特定することができない。玄米の放射性セシウム濃度は、その米が生産された水田土壌の放射性セシウム濃度と、土壌から玄米にどの程度の放射性セシウムが移行するかを示す移行係数に依存する(玄米の放射性セシウム濃度=土壌の放射性セシウム濃度×移行係数)。しかし、これでは、ある特定の規制値超米が生産された土壌の放射性セシウム濃度は調べようがなく、土壌の性質によって異なる移行係数も見当のつけようがない。従って、調査が難航するのも当然のことである。

 ただ、今での調査でも、一般的な傾向はある程度見えてきたようだ。

 日本農業新聞によると、規制値超の米が生産された地点では、@土壌のカリウム濃度が低い(福島市平均の3分の1程度)、Aセシウムの固定力が強い粘土鉱物が少ない、B空間線量率が毎時1.4μSv超と高い、C沢水などを使う山林に囲まれた狭い水田が多い、などの一般的傾向が見られるという(米の暫定規制値超え 土壌カリと相関 福島県と農水省 発生要因で中間報告 日本農業新聞 11.12.26)。

 @は施肥の仕方の違いによるものか、それとも粘土鉱物が少ない砂質土壌ではカリウムが流亡しやすいという土壌の本来の性質によるものか、どちらかは分からない。しかし、ともあれ、@とAは、規制値超の米が生産された地点の土壌の移行係数が、他の地点の移行係数より高いことを示唆する。そして、BとCは、これら地点の土壌の放射性セシウム濃度が他の地点に比べていことを示唆する。

 これら地点の土壌の現時点(収穫後)の放射性セシウム濃度は2,321〜11,660Bq/kgだという。これら土壌から510〜1,540Bq/kgの玄米が生産されたとすると、稲が吸収したセシウムの最大20%が玄米に分布するというから(日本土壌肥料学会 放射性セシウムに関する一般の方むけのQ&Aによる解説)、稲全体としては2,550(510×5)〜7,700(1,540×5)Bq/kgの放射性セシウムを土壌から吸収したことになる。しかし、これら土壌には、収穫後にもなお2,321〜11,660Bq/kgの放射性セシウムが残っている。従って、作付け前、あるいは生育途上の土壌の放射性セシウム濃度は4,871(2,321+2,550)〜19,360(11,660+7,700)Bq/kgだったことになる。これら地点の一部水田の土壌放射性セシウム濃度は、警戒区域や計画的避難区域の水田土壌の濃度にも匹敵することが示唆される。、

 作付け前の土壌調査では、これほどの土壌放射性セシウム濃度の水田は見つかっていない。福島大学の小山良太准教授によると、同じ地区の田んぼの土壌分析結果で10倍近い開きがあったという(日本農業年報58 110頁)。1市町村1〜数地点を選んでの作付け前土壌調査では、こういう水田が見つからなかったのも当然だ。

 今後の稲作付に向けて何をなすべきか。同准教授は、「第一段階は田んぼ1枚ごとの土壌分析と全域放射能汚染農地マップの作成である。・・・これにより、汚染度合いに応じた対応が可能になる。・・・第二段階は、作物の予備検査から放射性物質の移行率を測定することである。現在の検査では土壌汚染度を測定していないため移行率を計れない。・・・予備調査を行い出荷制限を判断する段階から次年度以降のためにデータ収集を行うことが必要である。今後も同じ混乱を続けることは避けねばならない」と言う。

 ただ、農水省には、ここにおよんでも田んぼ1枚ごとの土壌分析など、さらさら行うつもりはないようだ。 関心は専ら米の放射性セシウム濃度、土壌の濃度には向いていない。「 農林水産省は27日、厚生労働省が食品に含まれる放射性物質の新基準値案を示したことを受け、2012年産米の作付け制限の方針を示した。11年産米の検査で暫定基準値(1キログラム当たり500ベクレル)を超えた地区では、12年産米でも新基準値案(同100ベクレル)を超過する可能性が高いと判断。作付け制限を行う必要があるとした。11年産米の検査で新基準値案を超えた地区については、作付け制限を行うかどうかを十分検討する必要があるとした。制限区域を現行の旧市町村単位とするかどうかも含め、福島県が進める全戸検査の終了を待って来年4月までに決める」(セシウム汚染米、500ベクレル超地区作付け制限 農水省方針 河北新報 11.12.28← 「24年産稲の作付に関する考え方」及び「100 Bq/kgを超える米の特別隔離対策」について 農林水産省 11.12.27)。これでは、「汚染度合いに応じた」適切な対応など不可能だ。多くの稲作農家が、今年と同じような不条理に泣かされることになるだろう。

 なお、この適切な対応は、生産者とその家族の健康を守ることも念頭に置く必要がある。規制値超の米が生産された地点の空間線量率毎時1.4μSv超は、年間空間線量率7mSv超に相当する。このような土地で野良仕事をする生産者の健康被害が心配される。こんな所にはとても住めない妊婦や子どもがいる家族は、生産を続けるかぎり一家離散に追い込まれるだろう。米は暫定規制値を超えなくても、こういう場所は他にもあるはずだ。農地の土壌放射性物質濃度や空間線量率が一定レベルを超える場所の生産者は、移住の権利も与えられるべきである。年間20mSv以下なら居住可能として避難者を警戒地域・避難区域に追い返す極悪非道な政府の下では、これはとても実現しないだろうが。

  (追補:2012年1月7日)

 1月4日、福島県が緊急調査で規制値超の放射性セシウムを含む米が生産された要因の解析にかかわる中間報告をウエブページで公表した。

 福島市、伊達市、二本松市における要因解析 福島県・農林水産省

 そこで示された収穫後の今回調査による土壌放射性セシウム濃度の計測値と稲が吸収した放射性セシウムの量の推測値(玄米の放射性セシウムの5倍とした)を加えたこれらの米が生産された水田の土壌の作付前または栽培途上の土壌放射性セシウム濃度の推測値、およびこれによって推定した土壌から玄米への放射性セシウム移行係数を下に示す。 

試料採取地 放射性セシウム濃度(Bq/kg) 移行係数
土壌* 玄米
最小 最大 最小 最大
福島市旧小国村 8,950 9,400 970 1,060 0.1030.118
同上 10,970 12,170 1,030 1,270 0.085〜0.116
同上 11,750 11,800 700 710 0.059〜0.060
同上 8,130 9,130 550 750 0.060〜0.082
同上 10,580 12,730 550 980 0.043〜0.059
同上 13,220 13,970 710 820 0.051〜0.062
同上 9,020 12,270 460 1,110 0.037〜0.123
同上 6,580 9,180 580 1,100 0.063〜0.167
同上 9,970 11,470 970 1,270 0.084〜0.127
同上 9,202 9,602 590 670 0.061〜0.073
同上 6,923 530 0.077
同上 8,641 10,541 710 1,170 0.067〜0.135
同上 7,650 760 0.099
福島市旧福島市 9,876 590 0.057
同上 9,640 550 0.057
同上 9,678 510 0.053
伊達市旧月舘町 16,910 1,050 0.062
伊達市旧小国村 9,355 580 0.062
同上 12,973 780 0.060
伊達市旧柱沢村 9,929 580 0.058
伊達市旧富成村 13,508 1,240 0.092
伊達市旧渋川村* 6,071 6,571 750 850 0.140

*圃場の場所を再確認中

 移行係数は福島県水田土壌の50%を占める灰色低地土での試験結果から得られる0.005〜0.015は大きく上回るものの (福島の粘土質土壌から玄米への放射性物質移行率は微小 ヒマワリの除染効果も微小 福島の試験研究)、2011年稲作付前に農水省が想定した0.1以内にほぼ収まっている。しかし、土壌放射性セシウム濃度は作付許容レベル(5000Bq/kg)を、軒並み大きく超えている。規制値超の米が生産された要因は、農家のカリ肥料施肥が少なかったなど、こまごまと議論できようが、すべての水田で作付前土壌調査を行っていれば規制値超の米は出なかったはずだ。規制値超の米が出た責任は国と県が一手に負うべきである。

 なお、農水省の「農地土壌中の放射性セシウムの分析値」(2011年8月30日)に示された警戒区域・計画的避難区域内の水田土壌の放射性セシウム濃度は、田村市都路町古道の308〜1,780Bq/kg、南相馬市小高区の723〜8,546Bq/kg、楢葉町の1,335〜6.562Bq/kg、富岡町の4,655〜23,179Bq/kg、川内町の398〜7,412Bq/kg、大熊町の7,404〜25,757Bq/kg、双葉町の5,831〜7,404Bq/kg、浪江町jの12,389〜28,041Bq/kg、1,335〜6.562Bq/kg、飯舘村の3,280〜24,918Bq/kg、川俣町山木屋地区の2,486Bq/kgである。