農業情報研究所環境原子力東電福島第一原発事故関係2014年8月7日

環境省新除染基準 空間線量率でなく個人被ばく線量と言うが 現実の個人被ばく線量は測り難い  

 環境省が、多くの自治体が空間放射線量毎時0.23マイクロシーベルトを目指している福島第一原発事故にかかわる除染に関し、今後は「個人線量を重視して放射線防護やリスクコミュニケーション等を検討・実施していく」方針を示した。「福島市、郡山市、相馬市及び伊達市の各市長からいただいた要望等を踏まえ、国と4市」が開いてきた「勉強会」の結論ということだ。

 個人線量に関しては、次のように言う。

 「事故発生後初期においては、個人線量計等を用いた個人線量の測定が困難であったため、空間線量率から推定される被ばく線量を用いて防護策をとってきた。その後、福島県内の自治体において個人線量が測定され、その結果等の知見も積み重ねられてきている。これらの知見からは、以下のことがわかってきている。

  1. 4市における多くの地区では、個人の年間追加被ばく線量は1ミリシーベルトに近く、現在も低減している。
  2. 空間線量率の平均値が毎時0.23マイクロシーベルトを超える地域においても、当該地域に住む市民の平均的な年間追加被ばく線量は、1ミリシーベルトを超えない場合が見られる。

 居住地区の空間線量率(平均)との関係では、空間線量率が毎時0.3〜0.6マイクロシーベルト程度の地域においては、個人の年間追加被ばく線量は平均的には1ミリシーベルト程度となることが見込まれる。
 個人の年間追加被ばく線量は、生活パターンによる差異が大きいため、空間線量率に基づく除染のみでは、必ずしも個人の被ばく線量低減には結びつかない可能性がある。そのため、個人の被ばく線量を継続的に把握し、住民一人一人に対して必要な放射線防護を実施することが重要である。

 市町村除染に関する国と4市の勉強会中間報告の公表について(環境省報道発表 2014年8月1日)
 http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=18531

 もちろん、「個人の被ばく線量を継続的に把握し、住民一人一人に対して必要な放射線防護を実施する」ことは重要である。しかし、国も県も、これにまともに取り組んでこなかった。その意味では、これは歓迎すべき方針転換と言うべきだろう。しかし、4市における個人線量測定の結果としてここで強調されるのは、専ら、空間線量率を毎時0.23マイクロシーベルトまで下げなくても、1ミリシーベルトという年間追加被ばく線量目標は達成できるということだ。

 方針転換の真の狙いは、住民の適切な「放射線防護」というより除染目標の切り下げであり、それによる避難者の「帰還」促進(あるいは帰還強制)ではないかと勘ぐられても仕方がない。これに関し、「子連れで県内外に避難する母親からは一斉に不安や疑問の声が上がった。福島県浪江町から福島市の仮設住宅に避難する大島まゆみさん(44)は「毎時0.23マイクロシーベルトを達成できないから基準を変えたのではないか。国はやりたい放題だ」と不信感をあらわにした」(除染見直し 「国はやりたい放題」母子避難者憤り 河北新報 14.8.2)というが、それも当然の反応である。

 ただ、空間線量率を毎時0.23マイクロシーベルトまで下げなくてもこの目標を達成できるということが科学的に確認されたのだとすれば、(年間追加被ばく線量1ミリシーベルトという目標を妥当とするかぎり)このような批判も当を得ているとは言えない。しかし、問題は、4市における個人線量測定結果がどこまで実際の被ばく線量を示しているかである。

 今日の東京新聞特報欄によれば、伊達市における個人線量計による被ばく線量測定調査の実情は次のようなのだ。

 「高校一年の女子生徒は、『持ち歩くのは面倒くさい』と語る。個人線量計は『「首からぶら下げて』と指示されたが、自宅の机の上が定位置だった。女子生徒の被ばく線量を測るというより、机の上の線量を調べでいたのが実際のところだ。

 別の高校一年の男子生徒は通学用のかばんの中に入れていたが、かばんを持ち歩くのは平日のみで、週末は自宅に置きっぱなしになっていた。

 『ずっと車の中に置いていた』と話す主婦もいるが、車に乗るのは買い物の時ぐらいだ。

 モモ農家の男性は日中、屋外で農作業に汗を流しているが。『個人線量計を首から下げるのは仕事の邪魔になる。だから、一日中、家の中に置いていた」と話す。

 夫婦二人ぐらしの主婦は、自宅の軒下に二人分の個人線量計をぶら下げていたという。」

 除染目標 事実上の緩和個人線量重視まやかし(特報) 東京新聞 14.8.7 朝刊 28−29面

 常時首からぶら下げていたとしても、それで最大被ばく線量が測れるかどうかも分からない。この調査で被ばく線量を正確に測れたとは到底思えない。多くの場合、被ばく線量は線量計が示すより多くなるだろう。特に、モモ農家の男性が線量計を家の中に置いていたというのはハナシにならない。伊達市の大半の樹園地の空間線量率(2012年)は0.74−1.47マイクロシーベルト/時であった(福島県の放射性セシウム濃度別農地分布)。

 伊達市等の調査で確認できるのは住民の実際の被ばく線量ではない、悲しいことだが、「個人の被ばく線量を継続的に把握し、住民一人一人に対して必要な放射線防護を実施する」などというのは、少なくとも現体制では、現実には不可能であるということである。