福島第一原発廃炉「戦略プラン」 「石棺」の記述削除へ それでも石棺はないと保証できない現実
農業情報研究所>環境>原子力>東電福島第一原発事故関係>2016年7月16日
原子力損害賠償・廃炉等支援機構は13日、福島第1原発の廃炉に向けた新たな「戦略プラン」で、燃料を取り出さずに「石棺」で原子炉建屋を覆う可能性に言及した。ところが、内堀福島県知事の国への抗議を受けた15日、林幹雄経済産業相が機構に表現の修正を指示、同日福島県庁を訪れた機構の山名元理事長は報道陣の取材に対し、「石棺」の記述を削除する考えを示したという。
第一原発廃炉プラン 「石棺」表現削除へ
福島民報 16.7.16
「石棺」記述を削除へ 福島第1原発廃炉プラン、週明け修正計画 福島民友 16.7.16
しかし、これで福島県が喜ぶのは未だ早い。石棺の記述は削除しても、現実は何も変わらないからだ。
プランにおける石棺への言及についての福島民友新聞社の取材に対して、「石棺は問題を先送りするだけの安易な方法で、デブリ(溶け落ちた核燃料)を全て取り出すという方向に変わりはない。しかし原子炉内の状況が分かり、再び環境を汚染する可能性や作業員の命を危険にさらす可能性が極めて高い場合でもデブリを取り出すのかと問われれば、それはできない。内部の状況も分からずに石棺は100%ないといううそはつけない」と説明している(廃炉「石棺」に初言及 支援機構戦略プラン、「柔軟見直し」と含み 福島民友 16.7.14)。
石棺の記述は削除しても、デブリを安全に取り出せると保証されないかぎり、そうせざるを得なくなるかもしれない現実は残るのである。
「再び環境を汚染する可能性や作業員の命を危険にさらす可能性が極めて高い場合でもデブリを取り出す」というなら、その被害は、福島県が恐れる石棺で覆う場合の被害―〈1〉避難指示の解除が進む中、帰還するか迷う住民に不安を与える〈2〉燃料を取り出さず封じ込めれば本県の風評を固定化させるほか、建屋内に隠すことで事故が風化する〈3〉燃料取り出しが前提の福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想が無意味になる(福島民友・前掲16.7.16)―をはるかに超える実害になるかもしれない。
危険を犯しても燃料取り出しとなれば、今度は県の方がそれはやめてくれ、石棺にしてくれと言いだすことだってあり得よう。福島県民、日本国民、チェルノブイリのように福島第一原発を石棺で覆い、溶け落ちた核燃料を冷やすために生じる汚染水を永遠に垂れ流し続けることも覚悟せねばならない。
これはずっと前から予想されていたことだ(東電 福島第一原発1号機のメルトダウンを認める 収束の日は来るのか 農業情報研究所 11.5.13)。今になって騒ぐのは、県が事態の深刻さを未だ認識していないことの証左である。経産省で内堀知事と会談した高木陽介経済産業副大臣は「石棺で処理する考えは一切ない」と述べたそうだが、国も事態の深刻さを全く認識していない。事故当初の官邸の対応を非難する資格もない(「炉心溶融」公表遅れの真相 当時社長が官邸から要請されたと「理解」した(と「推認」される)理由 農業情報研究所 16.7.1 )