EU:食品品質・安全性改善をめざす新研究プロジェクト助成計画

農業情報研究所(WAPIC)

02.7.29

 7月25日、欧州委員会は、今年1月にスタートした第6次研究フレームワーク計画(EP6)の初年、食品の品質と安全性のを改善をめざす新たな研究プロジェクトとネットワーク形成にEU資金による1億6千600万ユーロの助成を行なうと発表した。2003年から2006年までの4年にまたがるEP6の総予算は200億ユーロ近く、優先分野の一つに選ばれた「食品の品質と安全性」に関する当初予算は6億8千500万ユーロとされている。この種のプロジェクトとしては初めて、EP6から資金を受け取ることになった。

 これらのプロジェクトとネットワークは、1)食品関連病やアレルギー、2)食品の健康影響、3)トレーサビリティー、4)分析・検出・コントロールの方法、5)環境に優しい生産方法、6)動物飼料の人間の健康への影響、7)環境から来る健康リスクの問題に優先的に取り組む。

 要請に応じて出された研究計画の提案が独立専門家により評価され、これに基づいて欧州委員会が選抜した計画の運営と実施が助成される。提案は4月に締め切られ、200(14億ユーロを要する)の提案が独立専門家により評価された。欧州委員会は、それに基き36の計画への助成を決めたが、優れた提案が非常に多く、予算は制限されているために、多くのトピックがカバーできず、一部は2004年の計画に取り込まれることになろうという。

 助成の対象に選ばれた計画の運営と実施の方式は、欧州委員会によりいくつかに分類されている。新たな方式として「統合プロジェクト(integrated projects)」と「エクセレンス・ネットワーク(networks of excellence)」が導入され、それぞれ六つのプロジェクトが選抜された。その他、伝統的方式の12の研究プロジェクトに加え、研究者の訓練やネットワーク形成、技術移転などを目的とする12の特別支援活動が選ばれた。新たに導入された統合プロジェクトとエクセレンス・ネットワークは、ヨーロッパで行なわれる研究のEUの諸活動へのインパクトを増し、調整を改善することを目指している。

 統合プロジェクトー低投入・有機生産システムからの食品

 統合プロジェクトは、新たな製品・加工方法・サービスなどに関する知識の開放を主要な課題とし、ヨーロッパの競争力強化や社会の重要ニーズに取り組む。プロジェクトの構成要素には研究が含まれねばならない。技術開発に焦点を当て、デモンストレーション(展示)や訓練も構成要素になり得る。一つのプロジェクトで基礎研究から応用研究までカバーすることができる。

 このようなプロジェクトの重要な一例が、農場から食卓まで、食品チェーン全体を通じて安全性を確保し、品質を改善する低投入及び有機生産システムからの食品にかかわるプロジェクトである。33の参加者によるこのプロジェクトは、消費者の態度や期待、有機食品の栄養への影響、食品の感覚的・微生物学的・毒性学的品質/安全性、新技術の開発、イノベーションの社会経済的・環境的影響と持続可能性に取り組む。これは、生産システムの違いが栄養価・味・安全性にどの程度影響するかという現在欠けている有意味な情報を科学的厳密さをもって提供し、有機産業の競争力の増強に大きな影響を与えるものと期待されている。

 統合プロジェクトとしては、その他、食品の健康影響に関して、「脂質メタボリックとメタボリック症候群」、「食品安全、リスク評価、コミュニケ−ション」、安全で環境に優しい生産方法と技術及びより健全な食料品に関して、「食品の品質改善のための動物福祉戦略改善」、「動物における宿主−病源体相互作用のゲノミックス」、飼料の人間の健康への影響に関して、「食品と飼料のための穀粒マメ科植物改良のための新戦略」が取り上げられた。

 ネットワーク・エクセレンスープリオン病の予防・コントロール・管理やアレルギー・喘息の研究

 ネットワーク・エクセレンス(NoE)は特殊研究トピックに関する科学的・技術的エクセレンス(卓越性)の強化をめざし、研究資源のネットワーク形成、ヨーロッパの世界的リーダーシップに必要な専門家のネットワーク形成によってヨーロッパの研究の断片化を克服するプロジェクトである。

 プリオン病予防・コントロール・管理のためのプロジェクトは、ヨーロッパの研究者に公衆・政策策定者との、また研究者間の有効なコミュニケーション戦略を提供し、過去・現在・将来の知見の共有を可能にする。また、それはEUと各国が供給する研究資金の価値を高め、知識の探求の改善を可能にし、問題や将来の伝達性海綿状脳症危機へのヨーロッパの協調対応を促すとされている。

 アレルギー・喘息に関するプロジェクトは、子宮内の生活や胎児−母体の相互作用、生涯の早い段階での遺伝的要因と環境的要因の相互作用、既存の・また新たな出生コーホートを通じてのアレルギーの進展など、生涯全体にわたってアレルギーと喘息を研究する。それは、環境(屋外と室内の汚染を含む)・栄養・生活スタイル(職業を含む)、感染と遺伝的罹病性に関係する問題に関する特別の統合学際的研究計画を実施するエクセレンスヨーロッパセンターの国際的ネットワークを築く。遺伝的・環境的研究は、最近の何十年間のEUにおけるアレルギーの劇的増加の説明要因となるかもしれない遺伝−環境の相互作用に光を当てる。研究は、地域特定的な疫学的研究を通して、栄養状態のアレルギー素因への影響も包含する。さらに、アレルギーと喘息の社会・経済的負担を減らすための基本課題として、患者と公衆に情報と研究成果の平易な解説を広めることも考える。

 その他のNoEプロジェクトとしては、食品の人間の健康への影響に関して、「食品・栄養・健康に関連した機能的ゲノミックス」、分析・検出・コントロールの方法に関して、「食品由来病を含む人畜共通感染症の予防とコントロール」、環境関連健康リスクに関して、「環境中の残留化学物質への暴露の健康上のインプリケーション」が取り上げられた。

 伝統的方式の研究プロジェクト

 一つの方式は、研究とイノベーション活動のネットワーク形成と調整を促進し、支援する協調行動(CA,Co-ordinated action)であり、会議、研究、人員交流、良好な慣行の交換と普及、共通情報システムと専門家グループの立ち上げなどが対象をなす。今回は健康な加齢に対する栄養の影響に関するプロジェクトが選抜された。

 もう一つの方式は、目標特定研究プロジェクト(STREP)と呼ばれ、既存製品・加工工程・サービスなどに関する知識を獲得したり改善することをめざす研究プロジェクト、あるいは新技術の実行可能性を立証することをめざすデモンストレーション・プロジェクトがある。今回は、病原体フリーの生産システム、熱処理食品の健康リスク、生物学的作物保護システム、動物・植物・人間の抗生物質耐性など、11のプロジェクトが選ばれた。

 特別研究支援

 この方式はEP6の実施を支援し、特に中小企業や新設の小規模研究チーム、遠隔地の研究所、EU加盟候補国の諸機関の参加を奨励し、容易にすることをめざすものである。12の支援活動が選ばれ、この中には、特に加盟候補国における研究者の訓練とネットワーク形成と技術移転、研究成果の普及、研究から生まれる良好な慣行の共有、技術進歩に照らしての国際的論議の支援などが含まれる。

 プロジェクトへの参加の状況

 このようなプロジェクトにはEUの外からも参加できる。選抜されたプロジェクト全体として、参加者の17%が域外(現EU15ヵ国以外)からの参加者であった。伝統的方式のプロジェクトについては、162の参加者のうち134が域内、16(10%)が加盟候補国、11がノルウェー、イスラエルなどのEUとの連合国、その他の第三国(ロシア、中国)からの参加者であった。403の参加者がある新方式のプロジェクトでは、26が加盟候補国、33がアイスランド等の連合国、10がオーストラリア、カナダ、中国、キューバ、米国などの第三国からの参加となった。特別研究支援への参加者の50%はEU域外国の参加者が占めた。

 中小企業からの参加は全体の15%となったが、EUの助成規模でみると、この比率は下がる。予算で15%が目標とされてきたが、これは達成できなかった。選ばれたコンソーシアムは、中小企業を含めるように連携を広げることも考えている。研究を通じて中小企業の機会を増やすことはEUの優先目標の一つである。

 食品の安全性を確保するための適切なリスク評価とリスク管理の前提は信頼できる科学的データと情報である。これを適切に確保するためには、研究と情報収集の組織化が不可欠である。リスク評価とリスク管理の機構がいかに整備されたとしても、この基盤を欠けば何の意義もない。予算不足により十全は欠くとはいえ、EUのフィリップ・バスキン研究担当委員は、この助成計画発表にあたり、「これら主要な新たな研究のイニシアティブは、信頼できる科学的データと勧告による適切なEU施策の実施に貢献するだろう」と述べた。

 資料:European Commission,Improving food quality and safety: EU to fund 24 new research projects and networks (02.7.25)