ブラジルの獣医薬・農薬利用は野放し 食品残留基準も満たさない恐れーEU監視報告

農業情報研究所(WAPIC)

06.6.30

 EUの食品及び獣医局(FVO)のブラジルにおける動物性食品への獣医薬や飼料添加物の残留統制に関する現地監査報告書を発表した。これは2003年の報告に次ぐものだが、2003年の報告で指摘された欠陥の大部分が修正されておらず、そのとき約束された対策の多くが実施されていない。従って、現在の残留物質と獣医薬の統制のシステムは不適切で、ブラジルの食肉や食品はEU基準を満たしていない恐れが強いという。

 Food and Veterinary Office - Inspection reports:BR Brazil - Control of Residues and Contaminants in live animals and animal products, including controls on veterinary medicinal products,06.6.21

 報告によると、ブラジルでは、EUで利用が禁止されている成長促進ホルモンや抗生物質が自由に利用でき、農場に存在するが、当局の統制はなく、残留物質の検査も行われていない。EUに輸出される商品に残留している可能性が高い。

 特に検査なしでEUに輸出される蜂蜜、EUに承認された残留統制計画なしで輸出される卵、EUの動物保健要件に違反する輸出が継続している豚肉に対する大きな懸念を表明している。

 このような懸念があるのは動物製品に限られない。FVOは28日、植物由来の食品、特にリンゴとパパイヤへの農薬残留統制に関する監査報告も発表した。

 Food and Veterinary Office - Inspection reports:BR Brazil - Pesticide Residues ,06.6.28

 残留統制権限をもつ農業・畜産・食料省は、EU向け輸出品の農薬残留統制を実施していない。ブラジルの多くの残留許容量はEUと異なり、EUにおける許容量を適用する法的基盤もない。

 残留農薬の国家分析プログラムも部分的に実施されているにすぎない。このような分析の結果は、19%のサンプルが国の基準も満たしていないことを示している。

 輸出向け・国内向けの植物製品に関する副次的分析プログラムの一環をなす”継続的監視”は権限ある当局が実施しておらず、民間産業が実施しているが、結果は当局に報告されていないか、報告が遅れている。そのために、結果が分かったときには既に製品が輸出されてしまっていることがたびたびある。輸出向け植物製品の公的残留農薬分析をする試験所は8つ認証されているが、国際基準を満たすのは1つにすぎない。

 ヨーロッパへの輸出品の品質基準を満たすために、大多数の輸出業者が自主的な品質統制システムを運用しているが、このシステムが持つべき条件を満たしているかどうかは公的にチェックも監視もされていない。

 概して言えば、限定された公的統制のために、EUに輸出されている植物由来品、とくにリンゴとパイナップルがEU基準を満たす保証はほとんどないという。

 ブラジルは、ドーハ・ラウンドの最優先目標を農産物輸出機会の拡大に置き、農産物関税の大幅引き下げを主張している。しかし、関税が大幅に引き下げられたとしても、この状態で実際にどこまで輸出を拡大できるというのだろうか。特にEU市場は、ブラジル農畜産物の最大の輸出市場の一つをなす。自らの足元を見つめる必要がありそうだ。

 安価なブラジル牛肉の氾濫で既に農民が大損害をこうむっているアイルランドでは、この報告を受けてブラジル牛肉輸入を禁止せよという声が上がっている。 早くからブラジル畜産物の衛生問題を指摘してきたアイルランド農民協会(IFA)は28日、EUは昨年20万トン近くに達したブラジル牛肉の輸入を全面禁止 するほかないという声明を出した。欧州委員会も、この報告を受け、何らかの輸入規制措置を考えざるを得ないだろう。

  IFA:EU Food and Veterinary office report confirms IFA findings in Brazil on lack of standards,06.6.30