NAFTA、WTO、FTAが輸入食品の安全性を脅かす 米国NPO・パブリックシチズン

農業情報研究所(WAPIC)

07.7.30

 米国の非営利消費者擁護団体・パブリックシチズンが7月25日、北米自由貿易協定(NAFTA)やWTOが、最近の中国食品スキャンダルで関心が急激に高まっている輸入食品の安全問題を大きく悪化させているという報告書を出した。

 Trade Deficit in Food Safety; Proposed NAFTA Expansions Replicate Limits on U.S. Food Safety Policy That Are Contributing to Unsafe Food Imports
 http://www.citizen.org/documents/FoodSafetyReportFINAL.pdf

 この報告は米国の食品由来病増加の大きな原因となっているシーフードの輸入を分析、NAFTAやWTOで食品輸入が急増する一方、これらの協定が国境検査や衛生要件に制限を課しているために食品輸入がもたらす安全への脅威が高まっている、現在ペンディングになっているペルー、パナマ、コロンビア、韓国との自由貿易協定(FTA)が批准・発効ということになれば、この脅威がますます高まる という。

 報告によると、米国の現在の食品輸入額は650億ドルにのぼり、NAFTAとWTO協定が発効して以来、ほとんど倍に増えた(p.8,Figure1)。そして、米国人が食べるシーフードの80%以上が輸入品だ。NAFTAとWTOの時代、シーフード輸入は65%増えた(p.17,Figure3)。1995年から2005年の間に、エビ輸入は95%も増えた。2005年、世界のパン篭として知られた米国は、初めて3億7000万ドルの食料輸入超過国になった。

 ところが、2006年、食品医薬局(FDA)は輸入シーフードの1.93%を検査し、85万9357の貨物の0.16%の輸入を拒絶しただけだ (p.19,Figure6)。残りはスーパーの店頭に出され、1万7252件の食品由来病の発生が疾病予防管理センター(CDC)により確認されることになった。シーフードに関連した下痢は1996年から2006年までに78%増加した。

 ペルー、コロンビアとのFTAでシーフード輸入はさらに増えるだろう。ペルー、パナマ、コロンビアは、既に米国へのエビ輸出上位20ヵ国の中に入っている。NPOのFood & Water Watchが情報公開法を利用して得た政府データによると、FDAの検査官は、ペルー、パナマからのシーフードを、不潔、混ぜ物、ブランド偽装、危険な病原体の存在などの理由で受け入れを拒否したきたことを示している(p.18,Figure4、5)。

 ペルー、パナマ、コロンビア、韓国とのFTAは、食品安全基準と国境検査に制限を課している。輸入食品の安全確保のために、米国は外国の規制組織と安全性検査官に依存せねばならない。不幸にして、報告が分析したデータでは、多くの外国規制システムはこの任に耐えない。協定は、輸出国の国内規制システムの弱体を埋め合わせるために輸入品検査の拡充強化が必要になる場合でさえ、米国食品安全規制官が国産品と同等の扱いをしなければならないと定めている。

 現在でも、FDAは輸入野菜・果実・シーフード・穀物・乳製品・飼料の0.6%を検査しているだけだ。これは、既に落ち込んでいたNAFTA、WTO以前の8%からさらに大きく低下した数字だ (p.10,Figure2)。牛肉、豚肉、鶏肉、卵 は農務省食品安全検査局(FSIS)の管轄だが、これも輸入品の11%が検査されているだけだ。

 FDAのデータは、米国人が国産食品よりも輸入食品から3倍も多く危険な農薬に曝されている可能性が高いことを示す。限定的検査でさえ、FDAはペルーからの輸入食品に多くの危険物質を発見している。果実・野菜への違法農薬残留、サラダ野菜とバジル中にクリプトスポリジウム、未知で未承認の薬剤、アボガドのリステリア、チョコレート・ボンボンやソフトドリンクの安全でない着色添加物などだ。

 そして、新たなFTA締結4ヵ国は、現在でもWTOの下での紛争処理に訴えることはできるとはいえ、現在登録されている1000以上のこれらの国の米国への食品輸出業者は、米国食品安全法に直接挑戦することができるようになる。NAFTAの下で、カナダ牛生産者が、BSE発生に伴うカナダ産牛肉の輸入停止による2億3500ドルの損害の補償を求めているのと同様にだ。

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 中国食品の安全性問題に関心が集中しているが、この報告は、中国という特定国の食品安全管理のあり方を超えた国際貿易制度ー安全よりも貿易拡大を優先する貿易政策(の強要)の問題にこそ注意を向けるべきだと教える。それは良い。グローバリゼーションの時代、輸入食品による危険は中国のみならず、世界中、どこからでもやってくる。

 例えば、今年6月のFDAによる輸入を差し止め件数は1196件、うち中国が146件(12.2%)で最大なのは確かだが、次いでインド、メキシコもそれぞれ141件(11.8%)、139件(11.6%)になり、中国だけが集中攻撃を受ける理由はない。関係国はイタリア(44)、カナダ(40)、英国(39)、日本(38)、ドイツ(24)を含め、先進国、途上国、世界中に及ぶ。日本も、中国のうなぎばかりでなく、例えば中米からの輸入食品の農薬汚染にも大いに注意を向けねばならない。ここでは大規模プランテーションが撒き散らす農薬ばかりでなく、コカ撲滅作戦のために大量に空中散布される枯葉剤までが、広範な農業地域に降り注いでいる。

 OASIS Refusals by Country for June 2007
 http://www.fda.gov/ora/oasis/6/ora_oasis_cntry_lst.html

 しかし、グローバリゼーションの時代、危険は外国だけにあるわけではない。とりわけ途上国からの輸入品に関心が集まり、先進国の国産品安全神話が生まれるならば、それはそれでまた危険だ。グローバリゼーションの時代、先進国の農業・食品生産者も食品安全よりも価格競争力を優先せざるを得ない。米国人は、カリフォルニアのたった一社が引きこし、米国26州とカナダ1州の消費者を恐怖に陥れた昨年秋の大規模なホウレンソウ大腸菌汚染事件をもう忘れようとしているのだろうか。BSE検査なしで大量の牛肉を食べ続けても大丈夫とも信じ切っているようだ。