米国最大手スーパー 一部チリ産養殖鮭の仕入れを停止 鮭ウィルス病蔓延で

農業情報研究所(WAPIC)

08.4.20

 ニューヨーク・タイムズ紙によると、米国最大手スーパーチェーンの一つをなすセーフウェーが、チリで大量の魚を殺しているウィルスへの懸念から、一部のチリ養殖鮭の仕入れを制限する。このウィルスの蔓延を報じる3月27日のニューヨーク・タイムズ紙の記事を受けて、この決定を行った。同社スポークスマンは、”感染性鮭貧血症”( I.S.A.)を引き起こすこのウィルスは人間には無害だが、鮭のサイズに影響し、それが品質と味にも影響を与えるために、このウィルスの蔓延により一部養殖場の閉鎖に追い込まれているノルウェー企業・マリンハーベスト社からの買い入れを停止すると言う。

 Safeway Restricts Purchases of Chilean Salmon, Citing Fish Virus,The New York Times,4.18
 http://www.nytimes.com/2008/04/18/world/americas/18chile.html?scp=16&sq=april+18+2008&st=nyt

 ただし、3月27日のニューヨーク・タイムズ紙の記事が伝えていたのは、このウィルスの蔓延だけではない。それは、囲い込まれた狭い水面での鮭飼育が水を汚染し・不健康な魚を生み出している、衛生管理の欠如で寄生虫・ウィルス・菌、あらゆる感染が広がっている、最近のウィルス病勃発も、大量の抗菌剤(米国では動物への使用が禁止されているものも含む)の使用につながった非ウィルス病の頻発の後に起きたものだった、鮭の糞や餌のペレットが水から酸素を奪い、他の海洋生物を殺し・病気を広げている、逃げ出した鮭が他の魚を食べており、隣国のアルゼンチンにまでいたる河川や湖沼を侵略し始めた、等々、生物・環境専門家たちの数々の懸念を伝えていた。

 Virus Kills Chile’s Salmon,The New York Times,3.27
 http://www.nytimes.com/2008/03/27/world/americas/27salmon.html?ref=science

 この記事は、年に100万匹もの鮭の逃亡を抑え、02年に禁止された発癌物質・マラカイトグリーンのような殺菌剤の使用をコントロールし、鮭を一層赤くするために使用され・人間の網膜の問題に関連する着色剤を規制する必要がある、抗生剤の使用も”過剰”だなどとチリ鮭養殖産業の問題点を指摘した2005年のOECD報告も引き合いに出し、こうした問題が少しも改善されていない現実を報告する。

 オスロのマリンハーベスト社スポークスマンも、チリでの抗生剤や着色剤の使用が余りに多いと認める。研究者は、フルメキンやオキソリン酸のようなアメリカの水産養殖では許されていない抗生剤もチリでは合法で、人々の抗生物質抵抗性を強める恐れがあると指摘する。養殖場近隣漁民は、以前は一日に1100ポンドの漁獲もあったのに、最近では88ポンドしか獲れない、最近の魚な以前より赤くなった、野生の魚も海底に落ちた鮭の餌を食べているのではないかと言う。


 環境に破滅的影響を与え、食品安全問題も提起するチリの鮭養殖産業のこのような問題については、古くから指摘されてきた。従って、筆者は、”チリ産養殖”の表示のある鮭には、どんなに安くても手を出したことがない。それでも、スーパーでは飛ぶように売れるようだ。スーパーの鮭売り場の半分以上は、常にチリ養殖鮭に占拠されている。理由はともあれ、セーフウェーに追随する動きが日本のスーパーにも現れることを期待する。