中国食品安全法が成立 安心はまだ早い?

農業情報研究所(WAPIC)

09.3.2

  中国の全国人民代表大会常務委員会2月28日、「中華人民共和国食品安全法」を圧倒的多数(総投票数165に対して158の支持)で採択した。新法は今年(09年)6月1日に発効する。法律制定は2004年7月の国務院が勧告した。法案は2007年12月に常務委員会に提出された。08年10月に採択される予定だったが、同年9月に発覚したメラミン汚染ミルク問題を受けた修正で採択は延ばされてきた。5年越しの懸案が漸く解決されたことになる。

 法律の最大の目玉は、10以上の行政機関がかかわり、責任のオーバーラップと杜撰な法執行につながってきた食品監督システムを簡素化したことだ。これにより、繰り返される食品スキャンダルの元凶とされてきた監督システムの効率の欠如を解消するという。

 今後このシステムにかかわるのは衛生部(MOH)、農業部(MOA)、質量監督検験検疫総局(AQSIQ)、商工行政管理総局(SAIC) 、食品薬品監督管理局(SFDA)の5部局に限られ、それぞれの責任分担も明確にされた。中心的役割を担うのは衛生部で、リスク評価、基準の設定、事故の調査、情報発出などの新たな任務を負う。食用農産物は農業部、食品流通は商工行政管理総局、食品製造は質量監督検験検疫総局、食堂等料理提供部門は食品薬品監督管理局が監督責任を負う。

 そして、これらを調整・指導する高レベルの機関としての国家食品安全委員会を新設する。その責任と権限の詳細は国務院の今後の決定に委ねられるが、委員長は副総理レベルになろうという。

 このような監督機構の改革に加え、添加物の使用から安全・栄養ラベルにまでいたる広範な了領域をカバーする強制的安全基準が制定される。

 許可された添加物以外の一切の化学物質や物質の使用は禁止される。衛生部が食品添加物の評価と承認、使用規制に責任を負う。これに違反した食品生産者は、重大なケースにおいては、閉鎖か生産ライセンス取り消しの懲罰を科される。

 食用農産物の生産者は、農薬、肥料、生長調整剤、獣医薬、飼料と飼料添加物の使用にあたって、食品安全基準を遵守し、生産記録も保存せねばならない。違反者は、最大で販売額の10倍(現在は5倍)の罰金を科せられる。

 基準を満たさない食品の生産または販売が発覚した場合、消費者は損害補償に加え、販売価格の10倍の金銭補償を請求できる。

 China adopts law to strengthen food safety control, vows to punish offenders,xinhua,2.28
 http://news.xinhuanet.com/english/2009-02/28/content_10918728.htm
 Stars may become liable for food ads,China Daily,2.26
 http://www.chinadaily.com.cn/china/2009-02/26/content_7513919.htm

 これで、中国国民も、 輸入中国食品に大きく依存する日本国民も、一安心ということだろうか。中国社会科学院に所属する食品・薬品産業開発・規制研究センターの専門家は、法律だけではすべての問題は解決できない、「国には2億の農民と50万の食品生産者がいる。このような分散した生産モデルが、これほど多数の食品安全事故の背後にある基本的理由だ」と言っているそうである。  

 Food safety body set to take shape,China Daily,2.26
 http://www.chinadaily.com.cn/china/2009-02/26/content_7513281.htm

 メラミン騒動後の最近も、中国では添加物による食中毒事件が相次いでいる。先月も広東で、禁止添加物であるクレンブテロールに汚染された豚の内臓を食べた70人が胃痛や下痢を訴えた。黒龍江省では、スナックフードを食べた57人が吐き気や嘔吐を訴えた。患者は亜硝酸塩[発色剤として食品に添加される]中毒と判明、食品サンプルからは過剰な量の亜硝酸塩が検出された。

 70 ill after eating tainted pig organs,China Daily,2.23
 http://www.chinadaily.com.cn/china/2009-02/23/content_7501017.htm 
 57 people sick in snack food poisoning in NE China
,xinhua,2.24
 http://news.xinhuanet.com/english/2009-02/24/content_10884074.htm

 メラミン騒動における厳罰も、何の効き目もないようだ。国家当局による監視も、全国に散らばる無数の業者には行き届かない。