農業情報研究所

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米国のWTO農業提案(要約版)

農業情報研究所(WAPIC)

02.7.27

 以下は7月25日に発表された米国のWTO農業交渉に向けての提案の要約版を翻訳したものである(原典はU.S. Proposal for Global Agricultural Trade Reform,7.25を参照のこと)。

 米国のWTO農業提案

 米国はWTOにおける農業貿易の野心的改革を提案する。一括案としての輸出競争・市場アクセス・国内支持に関する米国提案は、農産物の貿易障壁を削減し、世界農業における一層の公平、農産物販売の成長機会の拡大をこたらすあろう。

 米国は次の2段階のプロセスを提案する。

 ・第一段階は、5年間で輸出補助金を廃止し、世界全体の関税と貿易歪曲的国内支持を削減する。

 ・第二段階は、すべての関税と貿易歪曲的国内支持の最終的廃止である。

 輸出競争

 輸出補助金 米国は、5年の間に毎年等率で削減したのちに廃止することを提案する。
 現在のWTOのルールは、輸出補助への年々の支出予算と特定生産物についての補助輸出量に上限を課している。輸出補助金使用の特定の上限は1986-1990年における輸出補助から導かれた。結果として、EUは大規模な輸出補助金使用を許されることになり、2000年には20億ドル以上を支出した。米国も、一定の生産物について相当な額の輸出補助金を使用することができる。しかし、米国は、2000年に2千万ドルを支出しただけである。

 国家貿易企業 米国は、輸出独占を廃止し、どんな生産者・流通業者・加工業者にも農産物輸出を許すことを提案する。米国は、国家貿易業者に特別の財政支援を与えることを止め、WTOの透明性の義務を拡張するように提案する。
 WTOルールは、カナダ小麦ボードのような国家貿易企業が、特別財政支援を含む輸出販売における特別の権利または特権を享受することを許している。これらの特権は、輸出業者と生産者に向けた市場歪曲に帰結する悪しきインセンティブを作り出し得るし、輸出補助を隠蔽する可能性がある。

 輸出税 米国は農産物に対する輸出税の禁止を提案する。途上国については、一定の条件で、歳入創出目的で例外を設ける。
 現在のWTOルールは加盟国がほとんど制限なしに農産物輸出関税を課すことを認めている。これらの税は、特にグローバルな供給不足のとき、または基礎産品の輸出の阻止や半加工品・加工品輸出の奨励のために使用されるときには、市場歪曲に寄与する可能性がある。米国は、憲法により輸出税が禁止されている。

 輸出信用、信用保証、保険 米国は、WTO加盟国により現在使用されている各種の手段全体について、許容される方法を定めることで輸出信用を律するための特別のルールを確立するように提案する。これらの規律に合致しない方法は輸出補助金をみなされ、輸出補助金を禁止する厳格なルールに服する。 
 現在のWTOルールは、補助金の要素をもつものも含む輸出信用プログラムを、多角的原則に合致するかぎりで許している。多くの国が農業における輸出信用プログラムを利用しており、米国も含めて、広範な種類の特別な方法を使用している。輸出補助規律の迂回を防ぐために、WTO加盟国は輸出信用プログラムに関する特別の規律を開発する。

 食糧援助 米国は、食糧援助の透明性を増し、食糧援助見直しの責務を負う国際機関における市場代置分析を強化するために、WTOにおける報告要件の拡張を提案する。
 WTOルールは、食糧援助の方法が食糧援助協定及び食糧農業機関(FAO)の下で策定されたガイドラインに合致するかぎり、食糧援助の使用を許している。輸出補助規律の迂回を防ぐために、いくつかのWTO加盟国は交渉において食糧援助規律を見直すように提案してきた。

 市場アクセス

 関税 米国は、すべての農産物関税(割当外関税及び関税のみの品目)の引き下げに向け、高い関税ほど引き下げ幅を大きくし、5年間かけての段階的引き下げを経てすべての個別関税が25%を越えないように保証するハーモナイジング方式(「スイス方式」)の使用を提案する。米国は、関税引き下げが実効税率を出発点として実施され、関税適用が単純な従価方式か特別関税のどちらかに簡素化されるように提案する。米国は、WTO加盟国が、交渉において、すべての農産物関税の最終的廃止のための特定の期限に合意するように提案する。
 現在のWTOルールは、すべての加盟国に、どんな生産物にも適用できる最大限関税の上限設定を要求している。
 近年、関税は低下してきたとはいえ、許されたレベルは、しばしば相当に高い。農産物についての世界平均は62%であるが、米国は平均12%である。

 関税率割当(TRQs) 米国はすべての割当量を20%増やし、5年間の段階的削減を経て割当内関税を廃止することを提案する。米国は、一定の輸入制限を禁止し、またTRQ再配分メカニズムを設定を要求することを含めて、割当を満たし、透明性を増大させるように、TRQ管理に関するルールの強化を提案する。米国は、非伝統発展途上国供給者のためのTRQ増加のシェアを確保しておくことを提案する。
 多くのWTO加盟国は、低い関税率での特定の量の輸入アクセスを許し、すべての追加輸入を高率関税に服させる制度ーTRQをもっている。米国は牛肉、乳製品、ピーナッツ、砂糖、タバコ、ワタについてTRQsを維持している。

 国家貿易企業 米国はどんな利害関係企業にも産品輸入を許す貿易権限の拡張を提案する。米国は、TRQsが存在するところでは、TRQsの下での増加輸入シェアが政府関連企業以外の企業に向けられるべきことを提案する。
 現在のWTOルールは、加盟国が単一の企業を通して輸入することを許しており、輸入制限の機会を創り出し、輸入品需要に応じられない結果にもなっている。

 農業特別セーフガード 米国は特別セーフガードの廃止を提案する。
  現在のWTOルールは、特定のリストの生産物について、輸入急増または価格下落の際に追加関税の適用を許している。米国では、このセーフガードは牛肉、乳製品、ピーナッツ、砂糖、ワタ製品に使うことができるが、効果的に使用されたことはない。米国は、WTO交渉の文脈のなかで、WTO加盟国が季節的で腐敗しやすい産物についての輸入救済メカニズムを改善する必要性を認めてきた。

 国内支持

 貿易歪曲的支持 米国は、すべての国の貿易歪曲的支持の使用を、現在の上限を5年間で削減し、農業生産価額の5%に制限する方式の使用を提案する。米国は、生産制限に関連した貿易歪曲的支持を削減対象補助金とすることも含め、貿易歪曲的国内支持の原罪の計算システムを簡素化することを提案する。米国は、WTO加盟国が、交渉において、すべての貿易歪曲的支持を廃止する特定の期限に合意することを提案する。
 現在のWTOルールは貿易歪曲的支持と非貿易歪曲的支持を区別している。上限が設定される貿易歪曲的支持は、一般的には、過剰生産や国際市場の歪曲につながる価格支持や投入補助のような生産者インセンティブを歪曲する措置からなる。生産制限に関連した貿易歪曲的支持は、現在は上限がない。貿易歪曲的支持の許されたレベルは1986-1988年の補助から導かれた。EUは貿易歪曲的支持を年に600億ドル供給でき、生産制限プログラムを通して相当な支持を供給している。日本は300億ドル以上を供給できる。米国の上限は190億ドルである。その他の国は、いくつかの欧州小国が農業経済の規模に比べると比較的高いレベルの支持を行なっているとはいえ、許された貿易歪曲的支持は非常に少ない。

 非貿易歪曲的支持(「グリーン・ボックス) 米国は非貿易歪曲的支持の基本的基準の維持を提案する。
 非貿易歪曲的支持は、一般的には、フード・スタンプ、研究、普及、病害虫コントロールのような生産インセンティブとの関連のない措置や生産インセンティブと関連がない直接支払で構成される。非貿易歪曲的支持には、生産歪曲を最小限にするための特定の基準に合致するかぎり、上限はない。

 部門別イニシアティブ

 米国は、WTO加盟国が、特定部門に関する交渉において、すべての産品に適用される基礎的削減を超えた一層の改革を約束するように提案する。これには、一層の関税引き下げ、貿易歪曲的支持の産品特定制限、影響を受ける商品部門における貿易歪曲慣行に一層有効に取り組むためのその他の約束が含まれる。

 特別かつ異なる待遇

 GATTとWTOは、伝統的に、発展途上国、そして特に後発途上国が、競争に適応する時間を与え、経済開発の必要性に取り組むことを可能にするために、貿易ルールの下で特別かつ異なる待遇を要求できると認めてきた。多くの国は、これらのWTO交渉に特別かつ異なる待遇を含めるための特別のアプローチを提案してきた。
 米国と発展途上国はこれらの交渉で多くの利害を共有しており、米国の提案は先進国の農民にも、途上国の農民にも同様の多くの利益を生み出すであろう。これらには、輸出補助金廃止、輸出信用及び食糧援助プログラムの継続、関税引き下げ、貿易歪曲的支持の削減が含まれる。
 市場アクセスに関しては、米国は非伝統的途上国供給者にTRQ割当量における拡大されたシェアを提供することを提案する。輸出競争の下で、米国は発展途上国のみが輸出税を使用できるように提案する。国内支持に関しては、補助金制限を免除される資源が貧しく・所得が低い農民に向けた特別支持プログラムの認定を提案する。米国は、世界農業貿易の自由化と保護、及び貿易歪曲的支持において存在する格差の縮小という全体的目標に合致した過渡的・開発目標に引き続き取り組むことを途上国に約束する。

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