G20、WTO農業交渉で立場を固める 輸出補助金は5年で廃止 最貧国との統一を強調

農業情報研究所(WAPIC)

05.3.21

 3月18-19日、インド・ニューデリーで、今年12月の香港で開催され、WTOドーハ・ラウンドの交渉の行方を決するWTO第6回閣僚会合臨む立場を討議するG20グループの会合が開かれた。G20グループは、メキシコ・カンクン閣僚会合の直前に結成されたブラジル、インド、中国を含む途上国グループである。その主張は、カンクン会合を失敗に導く中心的要因となった。香港会合には、ドーハ・ラウンドの最終的成否がかかっている。この意味で、ニューデリー会合の結果は、ドーハ・ラウンドの命運を占うカギを握っている。

 会合の焦点は農業交渉に臨む立場に置かれた。会合を終えての宣言は、農業交渉はすべての途上国にとって死活的に重要で、ドーハ開発アジェンダの中心的要素をなす、「先進国が維持する貿易歪曲的政策を終わらせることで、途上国の成長と開発、そして世界貿易システムへのその建設的統合に寄与することが我々の共通の目標」と言う。

 宣言は、何よりも先進国の貿易歪曲的輸出補助金の廃止の必要性を強調、合意実施から5年以内の廃止の要求を盛り込んだ。16日、17日のジュネーブでの農業交渉では、輸出補助金撤廃の段取りが論議の一つの焦点となり、やはりG20やケアンズ・グループが輸出補助金の早期撤廃を主張したが、決着は先送りされた。5年以内廃止の要求を先進国が飲むかどうかが、農業交渉のみならず、ドーハ・ラウンドの成否を占う最大のカギとなるだろう。宣言は、5年以内の輸出補助金(米国が多用する輸出信用の貿易歪曲的部分も含む)が農業交渉に新たな弾みをつけると強調する。とりわけ米国との妥協は難しい。

 市場アクセスの問題については、どのような関税削減方式を採用するかが先決問題で、柔軟性の確保の問題以前に取り組まねばならないと強調する。削減方式は漸進的で、均衡が取れ、柔軟なものでなければならない、関税交渉の前提となる従量税品目の従価税への転換は「交渉できない(non-negotiable)」、途上国に対する特別かつ異なる待遇は食糧安全保障、農村開発、農業に依存する無数の人々の生計を護るためのすべての要素の一部をなさねばならないと言う。また、関税エスカレーション(加工度の高まりとともに関税を引き上げる慣行)の排除は途上国にとって重要で、それによって農産物に付加価値をつけ、多角化と輸出収入を増やすことが可能になるとも言う。さらに、途上国の関心品目の輸出の障害として作用する先進国による非関税障壁の増大傾向にも懸念を表明する。これらも先進国の強い抵抗に出会うだろう。

 宣言は先進国の国内助成にも言及、「貿易歪曲的国内助成の実質削減」の約束を果たすために、技術的に一貫し、政治的に信頼できる方法で、貿易歪曲的国内助成全体の削減についての基準期間と当初及び最終の数値を決定すべきと言う。さらに、このような削減は、実質削減を「ボックス間移転で回避するためのブルーボックス及びグリーンボックスの規律」の強化を伴わねばならない。自らはグリーン・ボックスと主張する大部分の綿花補助金を違法とするWTOパネルの裁定を受け、削減が暫定的に猶予される「ブルー・ボックス」基準の緩和を画策する米国とは真っ向から対立することになる。

 先進国は、途上国のなかでも比較的豊かなG20グループと、最貧国であるアフリカ・グループ、ヨーロッパの旧植民地等でEUが特別の開発援助と貿易特恵で優遇してきたアフリカ・カリブ・太平洋(ACP)諸国、カリコムなどの後発途上国の分裂を期待し、また画策してきた。ニューデリー会合は、それに抗し、途上国全体の統一を固めることも目指した。この会合には、これら最貧国の代表も参集、これら小国、脆弱国の関心にも有効に取り組むべきことを確認した。

 後発途上国の調整役を努めたザンビア貿易相は、南は大小途上国に分類されるべきだという先進国の最近の示唆に言及、分裂を創り出すことは後発途上国の心にはないと述べたという。ブラジルのアモリン外相もこれに呼応、ニュアンスにかかわる相違点はあろうが、グループは岩のように堅固、多様性のなかの統一を表現していると語った。カリコムからの調整者であるガイアナの貿易相も、特恵関税に関する相違にもかかわらず、「G20は我々の自然の同盟者」、G20諸国との合意は「不可能ではない」し、グループ内のいくつかの国はこの問題で交渉の用意ができていると言う。

 とはいえ、関税水準の一般的低下が最貧国の享受する特恵の恩恵を蚕食することは間違いない。とりわけ、ブラジル、タイ、オーストラリアがWTOで有利な裁定うを勝ち取り、世界価格の3倍にもなる砂糖保証価格を世界価格なみに引き下げる改革案を討議しているEU砂糖保護制度が抜本改革されることになれば、このような価格による輸出割当の享受で持ちこたえてきたACP諸国の砂糖産業は、ブラジルやタイの砂糖のEU市場氾濫で大打撃を受ける。EUの生産性増強・多角化援助も、これにより失われる雇用を到底埋め合わせることはできず、これら諸国に深刻な経済・社会的混乱をもたらすことは避けられない。G20も、このような問題は認識している。しかし、解決策は見出していない。

 ブラジルのアモリン外相は、他の途上国の特恵関税蚕食の問題は深刻な関心事で、これらの国を長期的に助ける解決策が発見されねばならないと言う。だが、同時に、特恵関税は、砂糖の場合のように、豊かな国の生産物の保護のためにのみ使われてはならないと言うだけで、具体的解決策は示さない。インドの貿易相も、関税引き下げの「スイス・フォーミュラ」の拒否を言うだけで、農産物関税の野心的削減を言うこの会合の提案には最貧国グループは賛同しないだろうが、サービスなどの分野のG20のアプローチとは共通するところがあるとお茶を濁す。

 G20と最貧途上国の相違には「ニュアンス」の相違とはいえない現実がある。一枚岩の主張は楽観的にすぎる。

 なお、この会合でウルグアイがG20のメンバーに加わった。これで、G20を構成するのは、インド、ブラジル、中国、アルゼンチン、南アフリカ、メキシコ、グアテマラ、ベネズエラ、ボリビア、チリ、キューバ、ウルグアイ、パラグアイ、フィリピン、タイ、インドネシア、パキスタン、エジプト、タンザニア、ナイジェリア、ジンバブエの21ヵ国となった。

 この記事の主要ソース
 End agro subsidies of rich countries'',The Hindu ,3.20
 G-20 denies any cracks,The Hindu ,3.19
 G-20 sets deadline,The Hindu ,3.18