FAO ドーハ・ラウンドは貧困国・小農民の利益無視、大国・企業優先のために崩壊

農業情報研究所(WAPIC)

06.8.9

  国連食糧農業機関(FAO)が8日、ドーハ・ラウンドは、主として強大国・企業・圧力団体による農産物市場で優位に立とうとする戦いのために崩壊したとする声明を発表した。

 交渉は貧困国と小農民の必要性に関連した貿易問題に取り組むと期待されたが、途上国の利益を十分に考慮することに失敗、公正貿易よりも自由貿易に焦点を当てた。そのビジョン、過程、成果における公正の欠如のためにラウンドは崩壊してしまった。

 名指しこそはしないが米国、EU、日本であることが明瞭な3つの最大農業補助国の一つは他の国々が受け入れられるレベルにまで農業補助金を削減しようとしなかった、他の二つは農業関税を受け入れられる額まで削減しようとしなかった、先進国は自らの輸出条件を改善するために途上国の市場開放を要求したと、国連機関としては異例の激しさで強大国、先進国を非難する。

 New focus needed for Doha Round,8.8
  http://www.fao.org/newsroom/en/news/2006/1000375/index.html

 ラウンドを崩壊させた別の要因は、先進大国の関心に重点を置く協定からは途上国がほとんど得るところがないことだと言う。声明によれば、

 「ドーハ・ラウンドの焦点は、過去のWTO農業貿易協定からほとんど何も利益を得てこなかった後発途上国(最貧途上国)には大部分無関係だった」。

 「先進国による農業補助金削減と関税引き下げは途上国の利益になるとはいえ、それは途上国小農民の所得を増やし、食料安全保障を改善する枠組のなかで実施されねばならない」。

 しかし、FAOは学ぶべき教訓と捕らえるべき機会はあると言う。「交渉が再出発するときは、ドーハ・ラウンドは一層広範で参加型の方式によって真の”開発ラウンドとならねばならない。一方では、それは、開発の土台を掘り崩さないために国内補助金と市場アクセスの問題に取り組むべきである。他方では、後発途上国が公正貿易から生じる市場機会から利益を得るために必要な供給サイドの能力と投資に関連した問題に真剣に取り組まなければならない」、現在の競争は近代的技術を利用する企業と適切な水管理や基礎的な農村インフラストラクチャーを持たない小農民の間の競争になっている。

 FAOは、”貿易のための援助”(Aid for trade)と、ドーハ・ラウンドの開発次元の具体的成果を実現するためになされた約束に関するコンセンサスが”すべてが合意されなければ何も合意されない”という原則によって失われないようにパートナーと協力すると言う。

 ドーハ・ラウンド凍結で、早速最貧途上国は香港閣僚会合における先進国市場への無税・無割当アクセスの約束も失おうとしている。EUはせめて既存の最貧国向け合意だけは救おうとしているが、ラミーWTO事務局長は一括合意の原則(すべてが合意されなければ何も合意されない)を盾に取り合わない。米国などはこれ幸いと約束を反故にしようとしている。米国は、既存の途上国特恵の見直しにまで動いている(U.S. to Review Trade Preferences Following Collapse of Doha Talks,AP,8.8)。FAOの努力も空しく終わるかもしれない。