カナダ 米国農業補助金はWTOルール違反と紛争処理パネル設置を要請

農業情報研究所(WAPIC)

 

07.6.9

 カナダ国際貿易相等が58日、米国農業補助金問題でWTO紛争処理パネルの設置を正式に要請したと発表した。

 Foreign Affairs and International Trade Canada News Release:CANADA REQUESTS WTO PANEL ON U.S. AGRICULTURAL SUBSIDIES,07.6.8
 http://w01.international.gc.ca/minpub/Publication.aspx?isRedirect=True&publication_id=385208&language=E&docnumber=77

 カナダは今年18日 、米国国内農業助成と輸出信用保証の一部がWTOのルールに違反するとして、パネル設置の前段階としての二国間協議を要求した。27日、EU、オーストラリア、ブラジル、アルゼンチン、ニカラグア、グアテマラ、ウルグアイ、タイの8ヵ国も加わったこの協議が開かれたが、不調に終わった。そのために、紛争処理パネルの設置を正式に要求することになった。これら補助金の問題は目下進行中の米国新農業法審議、ドーハ・ラウンド交渉における焦点の一つをなしており、カナダは今 がその削減や撤廃に向けて圧力をかける好機と見たわけだ。

  カナダの標的は二つある。第一は、米国の貿易歪曲的国内農業助成(いわゆるイエローボックス国内助成)全体のレベル である。 当初はトウモロコシ補助金を標的としていたが、バイオ燃料ブームによる価格高騰に伴う状況の変化でトウモロコシを標的とすることはやめた。しかし、他の商品を含めた年々(1999年から2005年)の総額(Total AMS)は、なおウルグアイ・ラウンドで約束した上限・191億ドルを上回っていると言う。

 この米国のTotal AMSは、トウモロコシ、小麦、大豆、砂糖など、これらに限られない広範な農産物に対する補助金からなる。カナダは、これら貿易歪曲的補助金は、直接支払、ローン不足払い、カウンターサイクル支払など、カナダ農業者の経済的利益を害し、国内・国際市場でその立場を不利にしている何十もの米国の農業助成プログラムを通して提供されると言う。

 第二の標的は、General Sales Manager (GSM) 102 program*を通して提供されるトウモロコシや大豆など一定農産品に対する輸出信用保証で、カナダは、これはWTOの義務に反する輸出補助に相当すると主張する。

  *米農務省傘下の商品信用公社(CCC)を通して輸出金融が得られない国(多くの途上国)や金融機関(米国内外の多数の銀行)にドル建て輸出代金の入金保証を提供するプログラム。3年間の期限で輸出代金の98%を保証する。

 カナダは、大部分の米国農業補助金は農業法のプログラミングに由来するものだから、農業法改訂過程が進行中の今こそ、米国がWTOの義務に従うように圧力をかける好機と信じると言う。 

 農業法改訂論議の行方はまだ知るよしもないが、最近のバイオ燃料ブームによって長期にわたる農産物価格上昇ー農業者所得改善傾向が見込まれることから、米議会内にも農業補助金削減、バイオ燃料振興策強化を目指す動きが現れ始めている。

  つい最近、かつての米国議会上院多数党院内総務、 トム・ダッシェル(民主党)とボブ・ドール(共和党) が グローバル化、技術の変化、貿易問題、連邦予算の制約、地球温暖化、高エネルギーコスト、土地開発の圧力、環境や食品安全性への関心の高まりなど、21世紀の米国農業・畜産業を取り巻く環境の変化に対応した米国農業政策の改革を勧告する報告書を発表した。

 それは、とりわけ、農業者への直接支払の廃止(ただし、価格が下がったときに支払われるカウンターサイクル支払は残す)で約50億ドルの農業補助金支出が節約される一方、更新可能な燃料など新興市場への農業者の参入の奨励で農業者所得を増やすことができると言う。 地球温暖化対策の強化はバイオ燃料の拡大や風力・太陽発電の利用の増大ー農場や牧場の土地の活用ーを通じて農業・畜産経済の強化にもつながると、義務的上限設定・温室効果ガス排出権取引の支持さえも打ち出す。

 Tom Daschle, Bob Dole;21st Century Agriculture Project,07,5.30