国連 先住民の自決権を認める宣言を棚上げ なくならない世界のいじめ

農業情報研究所(WAPIC)

06.12.1

  社会・人道・文化問題を扱う国連総会第三委員会が11月28日、先住民の自決と伝来土地の管理の権利を国際的に承認しようとする宣言案を拒否した。多数の国が採択延期を求める決議に賛成、さらなる論議のために問題を棚上げすることを決めた。世界の3億7000万の先住民のリーダーやその支持者が悲しみと怒りを表明したという。

 U.N. Delays Vote on Native Self-Determination,IPS,11.28
  http://www.ipsnews.net/news.asp?idnews=35638

 この宣言は、政府、先住民代表者、非政府組織(NGO)がかかわる20年以上にわたる交渉の末、昨年5月に国連先住民問題常設フォーラムによりまとめられた。それは、この夏、ジュネーブの人権委員会で既に採択されており、国連総会で承認されると期待されていた。この宣言は、先住民の土地と資源への権利を認めるとともに、先住民が強制的同化と彼らの文化の破壊から保護されねばならないと述べている。

 ところが、ジュネーブではこの宣言を支持したアフリカ諸国が、土壇場で立場を変え、”自決への権利”の文言の修正を要求した。この動きが、現在の会期中における総会での採択の見通しを失わせることになったという。

 アフリカの立場が何故急変したのか。アフリカの国の一外交官は、IPSに対し、一部の国の政府が、もし自決の原則が承認されれば、一定の部族による反乱に出くわすことになると恐れれていると語った。彼は、「ほとんどすべてのアフリカ人は先住民だ。自決の概念はここでは不適だ。それは混乱を生み出す恐れがある」と言う。

 しかし、それは前からわかっていたことだ。先住民のリーダーは、米国とその同盟国からの圧力があったと示唆している。一リーダーは、これには米国、カナダ、オーストラリアに責任があると言う。多くのリーダーは、宣言に関するアフリカブロックの立場の変化は外圧の結果だと信じて疑わない。米国とその同盟国は、宣言は”国際法と不整合”だと論じている。米国は、先住民の土地要求は、他の市民が現在合法的に所有している土地の正式承認を要求するように見えるから、現在の現実を無視しているとも繰り返し主張してきたという。

 アフリカを代表するナミビアの宣言修正については、82ヵ国が支持、67ヵ国が反対、25ヵ国が棄権した。オーストラリア、カナダ、ニュージーランドは賛成し、米国は棄権した。

 カナダのブリティッシュ・コロンビア州北東部に居住する先住民族・セクウェップムゥ・ネーションの首長は、「これは恥ずべきことだ。これは国連が少なくとも我々の”譲渡され得ない権利”(アメリカ独立宣言文中の言葉) を認める歴史的機会だった」、オーストラリアのアボリジニのリーダーは、「これは正当化できない。すべての過程を遅らせる試みだ」と怒る。

 宣言は拘束力を持つものではないが、ロンドンに本拠を置く国際アムネスティーは、宣言は「先住民の権利の保護の重大な欠陥を埋める」試みだと言い、テキストを”弱める”いかなる試みにも反対すると諸国政府に警告した。その声明は、「これは達成し得る最善のものだ。宣言案のいかなる修正も、透明で、先住民とNGOの完全で有効な参加を許すものでなければならない」と言う。

 ”いじめ”は子供の世界だけのことではない。子供の世界の”いじめ”をなくそうという大人自身が、世界中の弱者をいじめ続けている。先住民問題もかくのごときだが、土下座させて復党を認める政治家、これに対して白刃を抜く(健さん)どころか白旗を上げる政治家が毎日テレビに映るようなどこかの国で、子供の”いじめ”を失くせるはずがない。老人、障害者、病弱者、生活保護世帯、農家、弱小地方市町村住民・・・、まさに弱者”いじめ”(というより”殺し”?)のオンパレードだ。