自由貿易で食料が一握りの多国籍企業の支配下にー途上国の貧困を助長

農業情報研究所(WAPIC)

05.2.1

 ブラジル南部のポルトアレグレで1月26日から開かれた世界社会フォーラムに向け、世界の貧困と闘う国際開発 NGOActionAidが、グローバル食品企業の力が余りに強大になり、途上国の貧困との闘いを阻害しているという報告書(http://www.actionaid.org/documents/power_hungry.pdf)を発表した。これら企業は農村社会から富を吸い上げ、小規模農業を疎外し、人々の権利を侵害している。農産物市場を貧しい人々に利益をもたらすように改変し、これら企業に人権・環境責任を負わせるための緊急な行動が必要だと言う。

 報告によると、モンサント、カーギル、ネスレ、ウォルマートなどの一握りの多国籍企業が種子からスーパー店頭までの食品・農産品供給チェーンを支配するようになった。トップ30の食品小売企業が世界の食品雑貨の3分の1を売り上げ、ペルーのミルク生産の80%をたった一つの多国籍企業が、世界の穀物貿易の90%を五つの企業が、世界の農薬市場の4分の3を六つの企業が支配している。二つの企業が世界のバナナの半分を販売、三つの企業が世界の茶の85%を貿易、ウォルマート一社でメキシコの食品小売部門の40%を支配している。 

 報告は、この20年間の貿易・経済自由化が、農産食品企業ーネスレ、モンサント、ユニリバー、テスコ、ウォルマート、バイエル、カーギルなどーのサイズ・支配力・途上国での影響力の巨大な拡張を可能にし、企業合併・買収・事業提携がこれら企業に巨大な市場支配力を与えたと言う。ネスレはガーナの国内総生産(GDP)を上回る利益を上げ(02年)、ユニリバーの利益はモザンビークの国民所得を3割以上上回る。ウォルマートの利益に至っては、これら両国の国民所得を上回る。

 そして、これら企業の罪状を次のように数え上げる。

 1.市場支配力の利用と乱用による貧しいコミュニティーからの富の吸い上げ

 市場支配力を行使、農業資材価格を引き上げ、不公平な購入慣行に従い、価格カルテルを形成、地方企業を市場から締め出し、農民生産物の価格を押し下げている。例えば02年、英国のアスダ・ウォルマートがバナナ価格引き下げのために供給者に交渉力を行使、他の小売業もこれに続いてバナナ価格が大きく下がった。英国では02年にキロ1.08£だったが、04年までにキロ0.74ポンドに下がった。これはコスタリカのバナナ栽培者が法定最低価格を得られないか、プランテーション労働者に法定最低賃金を支払えないことを意味する。世界的価格カルテルに科された最近の罰金の85%は農産食品企業に対するものであった。

 2.低価格で調達、その分を消費者に還元せず自分の利益にしている

 農産物価格は市場支配力の乱用に加え、供給過剰や貿易ルール変更などによってもも押し下げられる。コーヒー、コメ、砂糖、ミルク、小麦、茶など、これら企業が調達する重要商品の価格が劇的に下がっても、消費者が支払う価格はあまり下がらないことが多い。この農家手取価格の低下、あるいは市場圧迫による価格低下を自分の利益のために利用している。農家価格と小売価格のギャップは拡大しており、これら多国籍企業が市場支配力を集中した国でこのギャップが大きい。世銀は、このギャップが商品輸出国に年々1,000億ドルのコストをもたらしており、その基本的原因が農産食品多国籍企業の反競争的行為にあると推定している。

 3.貧しい農民と農村労働者を疎外している

 その支配力が供給チェーンにおける「ゲームのルール」の押し付けを可能にする。貧しい農民が満たすことのできない厳しい基準を課すことで、何億もの小土地保有者の生計を脅かしている。例えば、ネスレとパルマラットはブラジルで、5万以上の酪農民を供給チェーンから締め出した。その結果、これら農民は酪農放棄に追い込まれた。途上国から輸出される果実・野菜の供給チェーンの労働者の90%は婦人だが、これら企業が供給者に課すコストとリスクがめぐって婦人の権利の毀損につながっている。

 その他、活動国の法に違反したり(例えば03年、バイエル、モンサント、シンジェンタ、ユニリバーを含む多国籍企業の子会社にワタ種子を供給する農場で、少なくとも1万2,000の子供が働いていた)、かいくぐることによって人権や環境への影響に十分な責任を取らないし、自主的な行動規準による人権・環境保護の企業社会責任(CRS)も十分に果たさない。とりわけ農業部門では行動規準を持つ企業が少なく、食品製造業ではなお少ない。行動規準が取り上げる問題自体も恣意的でバラバラだ。現在6万4000と推定される多国籍企業中、年々のCRS報告書を出すのは1,500−2,000社(約3%)ほどにすぎないという。そして、このような違反に対して地方住民が訴訟に訴える道も、国当局の意思や企業を法的に拘束する国際メカニズムの欠如、訴訟費用の負担で閉ざされている。仮に訴えても、企業は判決を引き延ばし、あるいは有利にする強大な法的・政治的・財政的資源を持つ。

 ActionAidは、このような農産食品産業の悪影響には多くの農村コミュニティーで草の根の防衛活動が起きており、これを支援するが、政府や国際機関対しても行動を要求すると言う。そして、これは単なる企業権力の乱用への対抗措置ではなく、一層民主的なフード・システムを構築し、公平な持続的成長を生み出すための重要な手段でもあると言う。このために、報告は次の解決策を提案する。

 1.農産食品市場の開発促進に向けての制御

 これは、農産食品市場での多国籍企業の市場支配力の乱用の防止、農村生産者組織の強化と設立、小規模農業コミュニティーに影響を与える世界的農産商品危機への取り組みによる。

 2.多国籍企業に人権と環境への影響に対する法的責任を負わせること

 これは、国連ビジネス人権規範の下での人権促進・保証・保護の義務を多国籍企業が果たすように保証すること、途上国における多国籍企業の活動を規制する国内法の導入と執行、途上国における農民組織や市民団体の能力建設による。