ノルウェー政府年金基金 倫理基準違反でウォルマート等への投資から引き上げ

農業情報研究所(WAPIC)

06.6.8

 ”ノルウェー政府年金基金-グローバル”が政府の倫理基準に合致しないウォルマート等への投資から手を引きつつある。

 ノルウェーの政府年金基金は昨年12月に改組され、国内およびグローバルの2部門に分けられた。グローバル基金は、ノルウェーの石油資源を次世代に残すためのかつての”石油基金”を受け継いだもので、現在2500億ドル(約28兆円)の巨額を誇る。この改組で、基金の運用に関する倫理ガイドラインが設けられた。今回の決定はこのガイドラインを適用したものだ。

 報道によると、クリスティン・ハルヴォシェン財務相が6月6日、Wal-Mart Stores Inc、Wal-Mart de Mexico、Freeport McMoRan Copper and Gold Incへの投資の禁止を発表した。投資から手を引く理由は、ウォルマートについては”人権と労働権の重大にして組織的な侵害”、フリーポートMcMoRanについては、会社が引き起こす”重大な環境損傷”だという。財務相は、このような企業への投資は、「基金が重大な・・・規準の侵犯に連座することになる容認し難いリスクを伴う」と言う。

 Norway dumps Wal-Mart stock,Aftenposten,6.6
 http://www.aftenposten.no/english/business/article1341741.ece

 世界最大の小売企業であるウォルマートに関しては、ノルウェーの倫理委員会は、国際ルールに反して常に・組織的に未成年者を雇っており、多くの商品供給企業の労働条件は危険あるいは健康に有害であり、労働者は補償なしで超過勤務を強制されており、賃金で女性を差別し、労働組合組織化の試みが阻止されていると主張した。

 委員会は、米国とカナダのウォルマートと、ニカラグア、エルサルバドル、ホンジュラス、レソト、ケニア、ウガンダ、ナミビア、マラウィ、マダガスカル、スワジランド、バングラデシュ、中国、インドネシアの供給企業を調査した。委員会とノルウェー中央銀行は昨秋、ウォルマートに書簡を送り、人権侵害の主張へのコメントを求めたが、回答はなかったという。

 フリーポートはインドネシアのニューギニア島で操業する世界最大の米国銅山企業の一つである。かねて大量の有害金属の水系への放出で環境を汚染、地域住民の健康の重大な脅威になっていると閉鎖を求める運動が起きている。しかし、経済開発を優先するインドネシア政府は耳を傾けず、米国政府もいかなる対応もしてこなかった。

 財務相は、フリーポートは1日に23万トンの選鉱くずの処分のために自然河川を使っている、これは大量の銅、カドミウム、水銀を水系に放出するから、”広範囲にわたる重大な環境損傷”を引き起こしていると言う。倫理委員会は、フリーポートの鉱業事業による環境損傷が”広範囲、長期に及び、回復不能”なものであり、”地域に住む原住民に大きな悪影響”を伴っていることを発見したという。

 財務省スタッフは、フリーポートの廃棄物管理が環境損傷を引き起こしていることは早くから知られているにもかかわわらず、同社は将来の廃棄物管理の方法を変える意図はまったく示さず、あるいは環境損傷を大きく減らす措置も取る意思も示していないと主張する。

 ノルウェー中央銀行も昨年12月、フリーポートに対して委員会の評価に対するコメントを求めた。フリーポートは1月20日に回答した。財務省によると、回答は「フリーポートは、会社に向けられた主張を退ける、その立場を支持する証拠は出さない」というものだった。

 財務相は、フリーポートへの投資の継続は、ノルウェーの年金基金を”重大な環境損傷に貢献する受け入れ難いリスク”に曝すことになると言う。

 ノルウェー中央銀行は5月末までに、ウォルマートの25億ノルウェークローネ(1ノルウェークローネ=18-19円)相当の株、フリーポートの1億1600万ノルウェークローネ相当の株を売却したという。

 なお、ウォルマートは、いつでも法に従え、正直で公正であれ、決して情報を操作したり・乱用したり・隠したりするな、誰に対しても決して差別するな、誰かがそそのかしても決して非倫理的に行動するな、誰かに非倫理的行動を求めるな、あり得る倫理的違反のいかなる調査にも協力せよ、倫理違反や疑われる違反を報告せよ、などを原則とするグローバル”倫理ステートメント”を持っている。

 http://media.corporate-ir.net/media_files/IROL/11/112761/corpgov/Ethics%20_Current.pdf