欧州委、新たな途上国特恵制度を提案 持続可能な発展促がす制度を導入

農業情報研究所(WAPIC)

04.10.22

 欧州委員会が20日、2006-08年をカバーする新たな貿易特恵制度(一般特恵制度、GSP)を提案した(Developing countries: the Commission proposes system of trade preferences for 2006-2008 ?targeting countries most in need, simpler, encouraging sustainable development)。提案は、従来の五つの取極めを三つに減らす制度の簡素化、カバーする品目の拡大、これを最も必要とする途上国の重視、持続可能な発展を促がすための特恵制度の追加などの改革を盛り込んだ。

 従来のGSPの下では、受益国は次の五つの異なる取極め(カバーされる品目も異なる)を利用できた。すなわち、

 (1)すべての受益国が特恵を享受する一般取極め。

 (2)後発途上国(LDCs)のための特別取極め。これは、”武器以外のすべて”イニシアティブ("EBA" - Everything But Arms initiativeとして知られるもので、後発途上国の武器以外のすべて輸出品に無税・無割当のアクセスを認めるものだ(ただし、生鮮バナナ、砂糖、コメについては、それぞれ06年1月、09年7月、09年9月に無税アクセスを与えることを目指し、関税を漸次削減)。

 (3)麻薬と闘う受益国を助ける麻薬生産・取引防止のための特別取極め。

 (4)一定の労働基準を実施する国が利用できる労働権保護のための特別奨励取極め。

 (5)熱帯林の持続可能な管理のための一定基準を実施する国が利用できる環境保護のための特別奨励取極め。

 提案される新制度の下では、次の三つの取極めに簡素化される。

 (1)一般取極め。重要(センシティブ)品目については関税を通常より3.5%削減、非重要品目では関税をゼロとする。

 (2)50の最貧国にすべての品目の無税・無割当アクセスを与えるEBA。

 (3)持続可能な発展と良い統治に関する新たな客観的基準を満たす脆弱国への新たなGSP+特恵。これは、麻薬・労働・環境に関する以前の三つの奨励取極めに取って代わるもので、労働・人権・環境保護に関する主要国際条約や麻薬との闘いも含む良い統治を受け入れる脆弱国に特別の便益を提供する。

 このGSP+がカバーする無税アクセス品目は7,200で、一般特恵品目の倍以上になる。このような扱いを受けるのは、GSPの下でのEUの全輸入の1%ほどである。この特恵の恩恵を受けようとする国は、強制労働、児童労働、人種・性差別との闘いや、労働者団結権・団体交渉権保護などの労働にかかわる国際条約、京都議定書、カルタヘナ議定書、絶滅危惧種や有害廃棄物の国際移動など関する環境国際条約など、27にのぼる主要国際条約を08年までに批准・実施しなければならない。

 「卒業」基準も明確化される。従来は、受益国から除外される「卒業」が毎年生じ、途上国側にも、EU輸入業者の側にも困難を生んでいたが、新制度は、卒業も含め、3年間にわたりいかなる変更もされない。これは制度の安定性を改善する。同時に、卒業基準は、特定国からのある産品グループ(関税コードの”セクション”)が過去連続3年間、GSPの下での同種産品のEUの輸入全体の15%を上回った場合と明確化される。ただし、この閾値は、繊維については、特別に12.5%とする。

 その他、提案は、一般GSPがカバーする品目への約300品目の追加、特恵を実質的に無効にしてきた厳しい原産地規則の柔軟化も盛り込んだ。

 しかし、とくに繊維に関する新たな卒業基準は、中国やインドの不安を高めている。中国繊維製品は、完全に特恵対象から外されることになる。インドも近い将来の「卒業」の可能性がある。開発NGOのOxfamは、 「特恵制度からの途上国の卒業の基準は不公正で保護主義的だ。提案は、ある途上国が、EUの輸入全体のではなく、途上国からの輸入の15%の占めるかどうかを見るものだ。このルールは、途上国がはしごに足をかけ始めたときに、はしごを外されることを意味する」と批判する。また、原産地規則の変化もほとんどないと失望を表明している(DEVELOPMENT'New Trade Preferences Unfair to Developing World',IPS,10.21)。だが、欧州委員会は、卒業は「罰」ではなく、GSP成功の証であり、GSPが最も脆弱な国に与える便益を改善することになると言い、ラミー委員は、中国の競争力の優位と生産コストの低さからして、僅かな特恵の利益がなくなるだけで中国製品輸入に影響が出ることはないと言う。

 労働・環境保護のためのGSP+の創設も、途上国からの隠れた「保護主義」の反発を招く恐れがある。しかし、持続可能な発展は、今や途上国にとっても至上命題だ。とりわけ、地球温暖化や生物多様性の喪失は、間違いなく、今後の途上国の発展と貧困削減を阻む決定的要因となる。先進国自身の取り組みが重要なことは言うを待たないが、また先進国の援助・協力の格段の強化が必須であることも間違いないが、途上国の取り組みを刺激する貿易政策もマイナスばかりとはいえないだろう。すべての政策に環境目標を「統合」するのは、EUの「原則」だ(「環境保護の要請は、とくに持続可能な発展を促進するという観点から・・・共同体の政策および活動の決定と実行において取り組まねばならない」ーアムステルダム欧州共同体設立条約第一部・原則・第6条)。ともあれ、GSP+は、この原則の貿易政策における実現への意思を明確に表したものとして、とりわけ注目しておきたい。途上国社会・環境・熱帯雨林がどうなろうと、貿易自由化さえ進めばよいとFTAに狂奔するどこかの政府の姿勢とは大違いであることだけは確かだ。

 提案は閣僚理事会と欧州議会に提出され、WTOに要求される05年7月1日に実施できるように、可能なかぎり速やかに採択されることが期待されている。