日ータイFTA交渉はなお難航 農水産品に関する島村農相の譲歩は促進材料にならない

農業情報研究所(WAPIC)

05.7.29

 日本ータイ自由貿易協定の今月末の合意を目指す貿易交渉が今日、タイで始まった。自動車を中心とする工業製品自由化に関する日本の要求の受け入れに難色を示すタイの立場を和らげるために、27日には島村農相がタイのソムキット副首相と電話会談、協定発効から3-10年後に撤廃としていた農水産品多数品目の関税即時撤廃などを提案した と日本の各紙が伝えている。日本側は、これで行き詰まりを打開できると踏んだのだろう。しかし、こんな期待は甘すぎるようだ。

 この島村農相の申し出について伝えるバンコクのザ・ネイション紙は、アンポン国家経済社会開発ボード事務局長が、これは自由貿易協定(FTA)とは無関係、両国間の建設的関係を一層強調しようとする日本の”友好的ジェスチャー”にすぎないと語ったことを伝えている(TRADE GESTURE: Tokyo cuts tariffs on farm goods,The Nation,7.28)。タイ側の受け止め方は、日本の思惑とは完全にずれている。

 彼は、加工エビや熱帯果実・野菜の関税撤廃、ボイル豚肉やバナナの輸入枠拡大がタイに多大な利益をもたらすことは認める。また、日本の投資家の農産物加工ビジネスへの投資増大も期待できると言う。しかし、製品の品質・衛生基準について、日本側の一層の協力が必要と語っている。

 案の定、今日のバンコク・ポスト紙は、農産物自由化、原産地規則、鉄鋼・自動車関税などの問題に関する両国の立場にはなお大きな開きがあり、今月中には交渉を締めくくることはできないだろうと、悲観的見通しを伝えている(Thailand-Japan talks in deadlock,Bangkok Post,7.29)。

 消息筋からの情報として、タイは依然として、砂糖、パイナップル、カニ、その他の農産品について、日本が(既に妥結した過去の)FTA交渉で他の国に与えたと同様の譲許をすべきだと主張していると伝える。また、日本が、貿易の流れをさえぎるのではなく、円滑にするために原産地規則を利用するという原則を受け入れるように望んでいるという。日本は500以上のタイ製品の関税削減を約束したが、実行不可能な原産地規則のために、タイ輸出業者が実際に得る追加市場アクセスはほとんどない。また、タイ水産品、缶詰野菜、缶ジュース、その他の製品も、原産地規則のために市場アクセスを阻害されるという。

 タイ側は、日本が「アジアのデトロイト」を目指す国の目標の下で、鉄鋼・自動車部門の建設に「協力」する用意があることを確約することも望んでいる。タイの交渉官がとりわけ望んでいるのは、自動車試験コース設置のための支援、タイ自動車労働者の技術や訓練の援助、鉄鋼産業のための技術移転だという。

 タイは完成車の輸入関税の日本が要求するような早期削減も不可能としている。タイは鉄鋼では立場を和らげたが、自動車については、自由化をどの程度早めればタイの利益になるか見極めがつかないという。日本の自動車メーカーは輸入関税引き下げを望んでいるが、タイの部品メーカーやヨーロッパと米国の自動車メーカーは、彼らの自身のタイ国内での販売減少を恐れている。

 タイだけでなく、ヨーロッパや米国の自動車メーカーの利害まで絡むとなれば、問題解決は一層難しくなる。今月中の妥結が不可能とは言わないが、農水産品に関する追加オファーで交渉が容易に進むと考えているとすれば、明らかに見当違いだ。

 交渉妥結の鍵は、とりわけ原産地規則で日本がどこまで譲歩するかにかかっている。FTA一般に共通する難問だ。原産地規則の条件を満たすために安価な海外原材料調達先を高価な 域内調達先に切り換えねばならないとすれば、関税撤廃や削減の利益などたちまち吹き飛んでしまう。FTAは何の利益も生まないどころか、競争力維持の障害にさえなる。タイが抵抗するのも当然だ。