フィリピンのヘルスケアを痛撃する看護者の米国流出 日本もEPAの再考が必要

農業情報研究所(WAPIC)

06.5.25

 日本・フィリピン経済連携協定において、日本はフィリピン人の看護師・介護福祉士候補者の入国を認めた。アロヨ比政府の強い要求を飲んだもので、受け入れ人数は今後の協議で決まるというが、フィリピン側はできる限り多数の受け入れを望んでいる。

 しかし、フィリピン国内には、これは今でさえヘルスケアワーカーが不足するフィリピン人の保健と命を犠牲にするものだという批判の声が高い。批判の矛先は、貧困削減のための国内対策を怠り、外国への出稼ぎ収入で容易に埋め合わせるアロヨ政府の要求を受け入れようとする日本政府にも向けられる。日本政府に一層の慎重さを要請することになるであろう情報が米国からやってきた。

 ニューヨーク・タイムズ紙によると、米国議会上院が、米国の看護者不足に対処するために、移民法案に、ほとんど注目されることのない外国人看護者に一層の門戸を開く条項を盛り込んだ。これがいまでさえ決定的に不足する途上国の看護者、さらに医師までも吸い上げてしまうという不安が広がっているという。

  U.S. Plan to Lure Nurses May Hurt Poor Nations,The New York Times,,5.24

 受け入れ人数の上限の廃止でとりわけ大きな影響を受けるのがフィリピンだ。フィリピンは、現在、他のどの国よりも多数の看護者を米国に送り出している。その数は最低でも年に数千人に及ぶ。そのために最近、国内ヘルスケアが悪化している。医師さえも職業を棄て、米国での高給を求めて看護者として渡米する。フィリピン看護者協会の会長は、「フィリピン人は米国がすべての看護者をさらっていくために苦しむことになるだろう。しかし、どうすることもできない」と言う。

 フィリピン人看護者の渡米は、送金を通して弱体な経済の巨大な促進要因になっている。一部政府機関は、毎年家族に数十億ドルを送金する看護者の輸出を奨励してきた。フィリピン大学の医学教授は、フィリピン国内の看護者の初任給はせいぜい年に2000ドルだが、米国では3万5000ドルになると言う。国のドクターの80%が、米国への渡航を望んで看護者になるか、なろうとしていると推定される。

 これは国内のヘルスケアを痛撃しており、2,003年、大部分のフィリピン人は、30年前とまったく同じように、何の医療を受けることもなく死んだという。

 一部企業の利益のためにこんな犠牲を強いる協定が許されるだろうか。