韓米FTA交渉 前進なし 年内妥結に黄信号

農業情報研究所(WAPIC)

06.9.11

 6日から9日まで、米国・シアトルで開かれた韓米自由貿易協定(FTA)交渉第3ラウンドが実質的に何の前進もなく終わった。

 Korea-US FTA Talks Make Little Headway,Korea Times,9.10
 S. Korea, U.S. end third round of FTA talks without 'practical progress',Yonhap,9.10

 韓国の新たな医薬品価格政策ー低所得者に手頃な価格に医薬品を提供するために医薬品を購入する患者に費用を弁済するーに対する米国の強硬な反対で決裂した第2ラウンド交渉(7月10-14日)に続くこの交渉では、原産地・通関規則、ダンピング防止・相殺関税措置などの米国貿易保護措置、工業品・農産品関税、金融、サービス、投資、医薬品など広範な問題が取り上げられた。しかし、これらをめぐる多数の中心的争点において、双方は従来の主張をほとんど和らげることがなかった。

 双方はなお年内妥結を諦めず、10月末には次回ラウンドを開くと言う。しかし、双方が簡単には妥協でいない対立点は多すぎる。年内妥結は極めて難しい状況となったと言えそうだ。米国議会が米政府に通商交渉権限を与え、交渉結果を一括して承認するか否認する”ファスト・トラック”法が来年6月に期限切れとなることを考えると、これは韓米FTAの早期実現はありそうもないことを意味する。

 最大の争点は、米国のダンピング防止・補助金相殺措置などの貿易救済措置、繊維貿易、農産物貿易にあるようだ。

 韓国は日本など他の国々と同様、米国の恣意的なダンピング防止・補助金相殺措置の発動で痛い目に合わされてきた。韓国にとっては、これら措置の見直しは最も重要な課題の一つをなす。しかし、米国はこの問題をFTA交渉の対象とすることさえ拒否してきた。米国は米州自由貿易協定(FTAA)交渉におけるブラジル等の同様な要求もWTOで交渉すべき問題と一蹴してきた。米国にとって、それは一種の”聖域”だ。

 繊維については、米国は自国繊維市場を品目に応じて即時、3年、5年、10年で解放、重要品目については関税撤廃猶予を提案した。しかし、韓国側は即時、3年、5年で早期に開放するように要求した。中国や途上国の安価な繊維製品に押されて長年苦境にあり、強力な政治的圧力団体を構成する繊維業界は決して妥協を許さないだろう。

 第3ラウンド開始に先立ち、米国は、韓国がコメを含む農産物の関税を、品目に応じて即時、2年以内、5年以内、7年以内、10年以内の5段階で撤廃するように要求した。韓国は最長15年をかけての関税撤廃、コメを含む重要品目は関税撤廃の例外とするように求めている。

 国内情勢を考えれば、韓国が、とりわけコメ関税撤廃に応じることはあり得ない。それには政権の存続自体がかかっている。他方、ドーハ・ラウンドが凍結されたいま、米国は外国の一層の農産物市場開放をFTAにかけるであろう。とりわけコメ市場開放要求を取り下げるわけにはいかない。最近のバイオエネルギー・ブームを考えれば、このブームに乗ることができる小麦、トウモロコシ、大豆の価格は跳ね上がり、もはや補助金は無用になる可能性もある。しかし、コメはそうもいかない。

 このような対立は、WTOで解けない問題はFTAでも解けないことを示唆していないだろうか。ドーハ・ラウンド凍結で、他の国々の政府同様、米国政府も韓国政府もFTAへの傾斜を強めている。しかし、今年末には、このような戦略の無益さを思い知らされることになるかもしれない。

 根本的な問題は、多くの国民がこれ以上の貿易自由化は有益どころか有害と感じ始めており、それを裏付ける事実も山積しているのに、政治指導者、経済学者がそれを一向に認めようとしないことだ。

 9日、韓米FTAに反対する市民団体がソウル・清渓川一帯でデモを行い、韓米両国首脳の仮面をかぶったり、FTA締結が文化の多様性を破壊するという意味から韓米のアニメキャラクターやドラマ出演者の顔が描かれた仮面などをかぶって反対を叫んだ。また、保健医療団体連合など医療関連市民団体に所属する200人余りがソウル・タプコル公園で集会を行い、韓米FTA交渉の中断を求めるなど、小雨が降る中、ソウル市内各地でFTA反対デモが繰り広げられたという。

 韓米FTA反対、ソウル市内各地でデモ行われる 聯合ニュース 9.9

 第3ラウンドが始まった6日、韓国から駆けつけた60人の反対・抗議集会とデモには数百人の米国人も参加、韓米FTAは安価な韓国の移動電話、自動車、その他の商品の氾濫で米国人の職を奪うことになるだけだと叫んだ。彼らは、約束はいつでも同じで、仕事、投資、経済成長の増加だが、現実もいつでも同じ、仕事の喪失と不平等の増加だと言う。

 S. Korea-U.S. FTA talks open in Seattle amid protests ,Yonhap,9.6

 なお、韓国はこれまでにチリ、シンガポール、欧州自由貿易連合(EFTA)とのFTAを発効させ、今年8月22日には東南アジア諸国連合(ASEAN)とのFTAにも調印した。ただし、コメを協定対象外とすることに反対するタイとの間の調整はつかず、対ASEAN協定に参加するASEAN諸国からタイは除かれている。中国との交渉開始の話もあるが、韓米FTAを優先すべきという米国の圧力で交渉開始は先延ばしされている。最近は韓米交渉の停滞を見越し、EUとの交渉を優先する動きもあるようだ(Korea May Shift FTA Focus From US to EU,Korea Times,8.24)。現政府は、世界的なFTAへの流れに乗り遅れまいと焦りに焦っている。