農業情報研究所グローバリゼーション貿易制限・紛争2019524

米国 通貨安誘導国に相殺関税 無理筋だがトランプがやれば道理引っ込む

 米国商務省が通貨安誘導を行う国から輸入する製品に対し、相殺関税を課すことを検討しているそうである。通貨安誘導を事実上の補助金とみなし、この補助金額の範囲内で関税を課す。中国のほか、米財務省が半年に一度公表している「為替報告書」で為替の監視対象としている日本や韓国、インド、ドイツ、スイスの計六カ国が高関税の対象となる可能性があるという。

米、通貨安誘導に相殺関税検討 日中など対象か (共同) 東京新聞 19.5.24 夕刊

トランプ政府のすることだから何でもありだが、これは相当の無理筋だろう。どの程度の通貨安がどの程度の補助金に相当するか、言い換えれば、一国の通貨安がどれほどの輸出促進効果を持つのか、サプライチェーンがグローバル化した現在では、算定が極めて難しいからだ。

いささか古くなるが、通貨安の輸出促進効果がこの20年で半減したという2015年発表の世銀エコノミストの研究がある(Depreciations without Exports?Global Value Chains and the Exchange Rate Elasticity of Exports,Policy Research Working Paper 7390,World Bank,August 2015通貨安の輸出促進効果がこの20年で半減 グローバル化で輸入部品のコストが上がる 世銀の新研究 農業情報研究所 15.8.20)。

1996年から2012年までの46ヵ国の実質為替レートの変化が製造業製品輸出に与えた影響を分析したこの研究によると、通貨切り下げの輸出促進効果は、以前考えれらていたよりずっと小さい。 その理由は、サプライチェーンのグローバル化の進展だ。

 例えば中国のスマホ、スクリーンは日本から、主なチップは韓国から、その他の部品は東南アジア、ヨーロッパ、米国から輸入されている。元の下落は完成品の国際価格の引き下げに貢献するが、輸入部品のコストも引き上げる。円の対ドル相場も過去1年に17%も下がったが、今年6月までの3ヵ月(四半期)の輸出は過去5年間で最大の減少となった。韓国、台湾、ドイツでも同様なパターンが見られるという。

 このような通貨安の輸出促進効果を商務省はどう計算するのだろう。恣意的な計算にならないだろうか。信頼度の高い精密な計算をしたら、輸出促進効果などまったくなかったということにさえなりかねない。

 トランプさん、それでやりますか。無理が通れば道理引っ込む。安倍首相も容認せざるを得ない?

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US proposes punishment for countries that manipulate currencies,FT.com,19.5.24

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One concern with such provisions has always been that if applied with reciprocity, currency provisions could constrain the Federal Reserve, or undermine its independence. Another is that it could invite legal challenges at the World Trade Organization. Yet another is that there is no agreed upon method to measuring undervaluations.

In any case, some analysts say such a US step could be hugely destabilising to the world economic order at a time when it is already under strain. “Were this to happen, it would be a highly significant and corrosive development and a major black eye for the US and the international monetary system,” said Mark Sobel, a former senior US Treasury official.------