EU:GM作物と非GM作物の共存は困難

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農業情報研究所(WAPIC)

2002.5.18

 16日、グリーンピースは、EUにおける遺伝子組み換え(GM)作物の大規模な商業栽培は農業者に高い、時には乗り越え不能な追加コストをもたらすであろうというEUの秘密の研究レポートの存在を明らかにした(EU suppresses GE study:GE crops add high costs, threaten organic,02.5.16)。この研究は、欧州委員会が2000年5月に委託した「GM作物と非GM作物の共存」を検討するもので、EU共同研究センター:技術展望研究所が行なったという。 グリーンピースのこの文書からレポート本体にアクセスできる。

 この研究によれば、GM作物の商用大規模栽培は、有機菜種栽培や伝統的トウモロコシの集約栽培を特に危機的状況に追い込む。同一地域におけるGM菜種と非GM菜種の共存は、それによって生じる追加コストにより経済的に困難になる。遺伝子汚染を避けるために農業方法の変更が必要になり、通常または有機の農業者は種子の純粋性を保つために、認証された種子を購入しなければならなくなるであろう。GM菜種とGMトウモロコシの商用栽培により、有機・通常生産者の経営費用は菜種で10%から41%、トウモロコシで1%から9%増える。一般的に、非GM種子・作物の純粋性(GMOとの交雑のレベルが1%未満)を保つことは、大部分の場合、不可能に近い。

 EUは、Btコーンの花粉をかけたトウワタの葉を食べた渡り蝶・オオカバマダラの幼虫が大量に死んだという1999年5月のコーネル大学の研究発表以来、GM作物承認の事実上のモラトリアムを続けている。しかし、欧州委員会は、追跡・表示・商用栽培承認手続などに関する新たな規則を提案、モラトリアムの解除に向かおうとしている。

 この研究はこの動きにどう影響するのであろうか。関連報道(Greenpeace: surcoûts élevés des OGM à grande échelle ,Yahoo!/AFP,5.16)によると、欧州委員会はこの研究レポートは秘密のものではなく、フィシュラー農業担当委員は、既に2月にこの研究に言及していると言っている。確かに、2月13日にブリュッセルで開かれたバイオテクノロジーに関するシンポジウムで、フィシュラー委員は、この研究のタイトルを特定してではないが、実質的に同じことを述べている(Dr. Franz FISCHLER Member of the European Commission responsible for Agriculture, Rural Development and Fisheries Europe at the crossroads Finding a sustainable approach on biotechnology Symposium AGRIBEX Brussels, 13 February 2002)。この問題に関する発言の要旨は次のようなものであった。

 「農業者がGM作物と他の作物との交雑を恐れるのは当然のことである。従って、通常作物のGM作物との共存のシステムを確保しなければならない。そのために、欧州委員会は、昨年7月、GMOの環境中への放出に関する新たな指令を出した。この指令は、まだ最終的に採択されていないが、GMOの拡散の問題を対象とするリスク・アセスメントを導入する。新たな規則に加え、GM作物との偶然の交雑の問題を分析する研究も始めた(参照:EU:欧州環境庁(EEA)、GM作物花粉による遺伝子移転に関する報告を発表,農業情報研究所、02.3.28)。しかし、状況は作物により相当に異なる。ポテトではほとんど問題はないが、トウモロコシでは栽培方法の変更が必要になり、油料種子菜種の種子生産ではこの変更は大きなものになり、そのコストは相当に高い。このために、共存は技術的にも経済的にも難しい。有機農業にとって、事態は一層深刻である。しかし、有機産品についての分離された生産と販売チャネルが既に存在するから、有機農場でのGMOとの偶然の交雑のレベルは低いとみられる。将来、GMOが大規模に導入されるとすれば、GM製品の追跡を可能にするために、農場は生産と販売チェーンを分離しなければならないだろう。これに加え、GMOとの交雑を最小限にするために、GM作物と非GM作物の播種期をずらすなど、農場レベルでの適切な措置が必要になる。」

 そうであれば、今回のグリーン・ピースの発表の内容は、欧州委員会が既に織り込み済みのものともいえよう。従って、これにより、欧州委員会が目指す方向そのものに変更が生じるとは考え難い。とはいえ、新たな規則案が出されたのは昨年7月のことであり、フィシュラー委員の発言も、GM作物の花粉は完全には封じ込めることができないという欧州環境庁の研究報告やグリーンピースが入手したレポートの発表以前のものである。フィシュラー委員は、上記の発言で「感情に基づく(on emotional basis)決定をストップさせよう」と訴えたが、これらの研究結果が広く知られるようになれば、反GMO「感情」は一層高まるかもしれない。モラトリアム解除の動きに対する逆風が強まり、少なくともこの動きを大きく減速させることになるかもしれない。 

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