農業情報研究所


米国:遺伝子操作作物の採用状況と生産への影響

農業情報研究所(WAPIC)

2002.4.19

 15日、米国農務省(USDA)が遺伝子操作(GE)作物の採用状況と生産への影響に関するブリーフィングを発表した(Adoption of Biotechnology and its Production Impacts )。以下はその要点である。

 米国農民は生産コスト低下・高収量・農薬使用量削減の期待に駆られてGE作物採用を飛躍的に増加させた。1999年の世界のGE作物栽培は前年に比べて43%増え、9800万エーカーに達したが、その72%が米国での栽培面積である。しかし、コスト、収量、農薬使用に関する実際の利益は作物や操作の特性によって変動する。

 GE作物の採用状況 

 以前は対象となる雑草と同時に作物にも被害を与えていた一定の除草剤に耐えるように、除草剤耐性遺伝子をもつ作物が開発された。これにより、農民は雑草抑制のために広範な種類の除草剤から選択できるようになった。最も一般的な除草剤耐性作物は、多種の雑草に有効な除草剤であるグリホサートに対する抵抗性をもつラウンドアップ・レディ(RR)作物である。グルホサート耐性は棉・コーン・大豆・カノーラに導入された。

 除草剤耐性作物の採用は特に急速に進んだ。1996年に初めて農民が利用できるようになった除草剤耐性(HT)大豆は、1997年に大豆作付面積の17%を占めたが、2001年には70%にまでなった。HT棉は、1997年の10%から2001年には56%になった。

 土壌細菌・Bacillus thuringiensis(Bt)からの遺伝子を含むBt作物は商業的に利用可能な唯一の害虫抵抗性作物である。Btはいくつかの作物に導入されたが、コーンと棉が最も重要な作物である。Bt棉は1996年の15%から2001年の37%に広がった。Btコーンは1995年8月に環境庁(EPA)に承認され、1996年の1%から1998年には26%まで広がったが、以後2001年まで19%に後退している。この後退の理由は不明であるが、虫害の減少と輸出の困難のためではないかと思われる。

 GE作物採用に影響を与える要因

 害虫抵抗性の棉と大豆を採用した農民の大半(54%−76%)は、「虫害防除の改善を通じての収量増加」を採用の動機としている。第二の動機は「農薬コストの削減」である(19‐42%)。環境便益など、その他の動機はすべて合わせても3−15%にすぎない。従って、収益性の向上が期待されていることを確認できる。

  収量への影響

  GE作物の農場レベルでの収量への影響は、作物や技術により異なるし、収量は土壌の肥沃度・降水・気温などにも依存するから測定が難しい。GE作物は、そもそも収量を増加させるものではなく、実際、除草剤耐性または害虫抵抗性をもつために使用される品種が最高の収量を上げる品種でないならば、収量は減少さえする可能性がある。しかし、一定の害虫からの植物の保護により、特に害虫が蔓延するときには被害を防止することができる。

 この影響はBt作物の場合に特に顕著である。Btコーンが導入される以前、「ヨーロッパあわのめいが」は、化学的殺虫剤では部分的にしか防除できなかった。そのために、農民はしばしば被害を受け入れざるを得なかった。

 農業部門全体における影響の総量を計測するモデルによる研究では、除草剤耐性棉の採用が10%増すと収量が1.7%増加するという結果が得られた。南西部におけるBt綿では、この数字は2.1%とより大きくなる。他方、除草剤耐性大豆では収量増加はほとんどなかった(0.3%)。

 農薬使用に対する影響

 GE作物の採用した生産者と採用しなかった生産者の農薬使用に関するデータは利用可能であるが、この採用以外にも農薬使用に影響を与える多くの要因があるから、単純な比較はできない。三つの統計的方法による研究がなされたが、方法により結果は大きく異なっている。

 活性成分の重量による使用量の計測は、多くの農薬の活性成分の毒性と残留性が大きく異なることを考慮しなければならない。たとえば、推定540ポンドのグルホサートが他の除草剤720ポンドに代替するが、環境中における半減期はグリホサート47日に対して、普通これがとって代わる他の除草剤の半減期は60−90日である。また、後者の毒性は前者の3.4−16.8倍である。従って、GE大豆の採用により、毒性が少なくとも3倍、環境中への残留期間が2倍の除草剤にグリホサートがとって代わることになる。

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